【#47 クーデター】

-5107年 3月23日 14:36-


キルベガン共和国 ハルディア 王宮



この日、キルベガン共和国の首都ハルディアの王宮の回りには、1万人を超す群衆が押し寄せていた。



始まりは前日の大規模なストライキだった。

不当な労働に不満を募らせた労働者が、大挙して政府労務局に詰め掛けたのだ。

労働者の切実な願いなど聞く耳すら持たないといった雰囲気の職員に対し、業を煮やした労働者の一人が手を出した。

その件で、手を出した労働者は逮捕され、それが引き金となって労働者の反政府意識は熱を帯び、ハルディアの街のあちこちで暴動が起こる。

そんな中、政府はついに、暴動鎮圧のために軍の出動を要請した。

軍と衝突したところで労働者に勝ち目はない。なぜなら彼ら労働者が手にしている武器は、ハンマーやチェーンといった、普段の仕事で使っている工具なのだ。

暴動鎮圧は時間の問題と思われた。しかし…


「とうとう政府は軍を動かしやがったか…」

「いかが致しますか?グランツ様」

「この機を逃す手はねぇ…全部隊に出動命令を出せ!我々もハルディアに進軍だ!」

「タラモアのバジャル閣下にも援軍要請いたしますか?」

「あんな奴は放っとけ。そもそもタラモアの手を借りるつもりなんか最初からねぇ。奴には事後報告で十分だ」

「了解しました!」

反政府軍のリーダー、グランツの号令を受け、No.2のマインツは部屋を飛び出して行った。

「今が政府転覆のチャンスだ…今なら世論も俺たちを後押ししてくれる…」

このグランツの読みは正しかった。

首都ハルディアに進軍した反政府軍は、瞬く間に正規軍を撃破していく。

そのほとんどを金で雇われただけの兵士で構成されたキルベガン正規軍には、統率力も忠義心もなく、攻め込まれた途端に武器を放棄して逃げ出す者や、中には軍服や装備はそのままで反政府軍へ寝返る者もいた。

こうして、大規模ストライキから始まった反政府運動は、わずか二日で反政府側の勝利が目前という状況に到ったのである…



今や王宮は、反政府軍、労働者、民間人、合わせて1万人以上に取り囲まれていた。

国王をはじめ政府要職者が王宮内に立て込もっている状況の中、群衆を掻き分けるように反政府運動リーダーのグランツと幹部たちが王宮正門に到着。

頑強な作りの王宮正門は見事に破壊され、そこには、赤・青・黄・緑の4台の重機が並んでいた。

「ご苦労だった、ガバド」

「これはこれはグランツはん♪もう勝負は決まったも同然でんな♪」

「まだ気を抜くわけにはいかん、最後の仕上げが肝心なんだ。それにしても…豪快にブッ壊したもんだな♪」

「なんなら、グランツはんの命令ひとつで王宮そのものもブッ壊しまっせ♪」

「ワテらの重機があれば、そんなん朝飯前でっさかい♪」

「ハハハハ♪実に頼もしい限りだが、この正門だけで十分だ。我々が王宮に突入した後、背後を突かれないよう、この正門…いや、正門跡地で警備に当たってくれ」

「了解ですわ♪」

「背後の守りはワテらに任せて、きっちり最後の仕上げ頼んまっさ♪」

ガバド組の連中に背後の警備を頼み、グランツと幹部たちは王宮内に足を踏み入れた。


「抵抗しない者と武器を持たない者への攻撃は禁ずる。降伏した者は全員この広間に集めろ。ドナルドのチームは全ての出入口を見張れ。チップのチームは1階、デールのチームは2階、俺のチームは最上階を探す。マインツのチームは広間で待機だ。いいか皆、くれぐれも余計な血は流すなよ」

「OK、ボス」

「一人残らず探しだしてみせますよ」

「了解しました」

グランツたち反政府軍は、数班に分かれて王宮内に残る国王と政府要人を探索した。

やがて、次から次へと発見された要人たちが広間へ連行されてくる。

誰一人として反抗する者はなく、全員がおとなしく頭の後ろに手を組んで、広間にうつぶせで寝かされた。

「こいつらが暴利を貪ってた連中か…」

1階の探索を終えたチップが言った。

「見覚えある顔も混じってるな…俺が連れてきた奴、あいつ確か何とか大臣だろ?この場で殺しちまおうぜ」

2階を担当したデールは、多少の抵抗にあったのか、二の腕から流血していた。

「早まるな、グランツ様の命令を忘れたのか?…今はグランツ様の戻りを待つのだ」

マインツは冷静に二人を制した。


グランツは最上階の王の間の扉を開けた。

そこには、玉座の横に立つ国王パン=シーゲンの姿があった。

国王は両手を高く上げ、ガクガクと震えていた。

「の、望みは何だ?…金なら幾らでもくれてやるから命だけは助けてくれぃ!」

なんとも情けない国王の姿に、グランツはうつむき、深い溜め息を吐いた。

(こんな王のために我々は日々汗を流していたのか…重労働のせいで何人が身体に障害を負い、危険な仕事で何人が命を落としたか…こんな…こんな王のために…)

グランツは、込み上げる怒りを鎮めるのに必死だった。

「他の臣従の者はどうした?」

「皆ワシを残して逃げ出した…信頼できる家臣など一人もいないのだ…だから頼む!命だけは!このとおりだ!」

国王は、今まで国民全員が自分にしてきたように、床に額をつけて平伏した。

「情けねぇ…あんたそれでも国王か?国王なら国王らしく、仮に首をはねられることになったとしても、最期まで毅然とした国王であってもらいたいもんだな…」

「く、首をはねられるのか?!それだけは勘弁してくれ!まだ幼い子供もいるんだ、死にたくないんだ!頼むぅ~…」

国王は、グランツの足にしがみついて泣きながら懇願した。

「どこまでみっともねぇ男なんだ…心配すんな、命まで取りゃしねぇよ」

「本当か?本当なんだな?ありがとう!ありがとう!御礼にこれをやろう!これも…これも…」

国王パン=シーゲンは、身に付けていた宝石や貴金属の類いを、グランツと周りを囲むメンバー全員に次々と渡していった。

「殺しゃしねぇから、黙って後についてこい…」

グランツを先頭に、メンバーに四方を囲まれる形で、国王は1階の広間に連行された。


広間に集められたのは、国王をはじめ、それまでキルベガン共和国の中枢を担ってきた顔ぶれだった。

その数、27人。

「いかが致しますか?グランツ様」

「この場で全員、首をはねちまいましょう」

「外に連れ出して公開処刑の方がいい」

「ダメだ…それではタラモアがやってる事と何も変わらん…多くの血が流れては、真の革命とは呼べんのだ…」

グランツの言葉に、メンバーは一様に驚いた。

「まさか、無罪放免てわけじゃないですよね?」

「当たり前だ。それじゃあ我々を含め反政府側の人間は誰も納得できねぇだろ…。それこそ再び労働者の暴動が起きちまう…」

「では、どのような処遇に?」

グランツは、広間に集められた27人を正座させ注目させると、宣告するように言った。

「あなた方の命は助ける。ただし、私財は没収する。あなた方は必要最低限の荷物をまとめ、明日の夜明けまでに国外退去を命じる。国境を越えるまでは我々のメンバーに護衛させるが、それも夜明けまでだ。夜が明けたら命の保証はない。もちろん退去後に再びキルベガンの地に戻ることは許さん。戻れば命はないものと心得よ。いいな?」

グランツは、国王をはじめとする要職者全員の国外追放を命じた。

国王たちは安堵の表情を見せ、各々が命を救ってくれたことへの感謝を述べると、それぞれメンバーに付き添われて広間を出て行った。


王宮のバルコニーに立ったグランツは、集まった群衆を前に、クーデターの成功と国王たちの処遇、そして、新政府樹立を宣言した。

王宮を取り囲む1万人以上の群衆による歓喜の叫びは、日が暮れても鳴り止むことはなかった。



「グランツ様、国王たちの処遇はあれで良かったんでしょうか?少々寛大すぎたのでは?」

マインツは、どこか納得できない雰囲気でグランツに聞いた。

「処遇が正しかったのか甘かったのか…それはこの先、この国の情勢に現れる。力によって生まれた国は、いつか力によって滅ぼされる。血に染まった政府も同じだ…」

グランツは、遠くを見つめてそう答えた。

「今までのグランツ様を知る者からすれば、即刻処刑するものだとばかり思っていましたが…人は変わるものですな♪何かキッカケがあったならお聞かせ願いたいものです♪」

「………ある男との出会いがあった。お前の言う通り、その男の話を聞くまでは、俺も国王たちを皆殺しにするつもりでいた…」

「ほう♪よほど心動かす話だったのですね♪差し支えなければ、その男とは一体?」


「…旧ロシュフォール軍エルドレッド兵長だ」




※※RENEGADES ひとくちメモ※※


今回もネタがないので、46話から47話の投稿間隔が空いてしまった理由についての弁解を兼ねて、私のプライベートな話を…(^^;)

皆さんの趣味は何でしょう?

私の一番の趣味はバス釣りで、他にも、時間があるときに小説を書いたり絵を描いたりしてますが、バス釣りは30年以上やってます(^o^)

んで、毎年5月、一週間仕事を休んで琵琶湖の住人と化するのです

もうお分かり頂けたと思いますが、先週は琵琶湖でバス釣り三昧の日々を過ごしていたわけです☆


夢のようなパラダイスから、現実世界に戻ってきたので、また執筆活動がんばります!  飛鴻

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