【#46 神の山】

-5107年 3月22日 21:34-


ホーブロー神国 ウェンブリー教会



「神の力って何だ?なんか興味そそられる響きだな♪」

パルマは興味津々な様子でポロル神父に聞いた。

「その力がどんなものか、それは謎なんです…。ただ、大昔からこのホーブローに伝わる伝説によれば、その力を手にした者は、世界を征する力を得ると言われています。今まで何人もがエルマ山に向かいましたが、ほとんどの者は帰って来ませんでした…。わずかに帰って来た者は、途中でエジピウスに襲われて逃げ帰った者ばかり…。ですから、神の力が何なのか未だに謎は解明されず、レッドカメリアですら持ち帰った者はおりません」

「世界を征する力か……タラモアが食い付きそうなネタだな」

アインは突然不機嫌な顔でそう言った。

「その通りです。20年前にスラム教がこの国に入ってきた真の目的は、その神の力を手に入れるため。真実かどうかも分からない伝説の調査のために、我々リスト派の同胞が大勢犠牲になりました…。20年経った今でも、昔ほどの規模ではないにしろ調査は続けられているはずです。暴力に屈し、リスト派に改宗した者を利用して…」

「やっぱり、とんでもねぇ宗教だな!」

パルマも嫌悪感を露にする。

「でも、世界を征する力…魅力的ですね♪男なら誰もが一度は夢見ることかも知れません♪」

「男じゃなくても、女だって同じよ♪そんな力が私にあったら、世の中の男全員を四つん這いにして、一人一人、全員の尻をムチで叩いてやりたいわ♪想像しただけでゾクゾクしちゃう♪もちろんアイン様以外ね☆」

「出たよ…ド変態が(-_-)」

「みんな、勘違いするなよ。俺たちがその山に向かうのは、神の力を得るためじゃねぇぞ…。ミカの研究のために、レッド何とかって花が必要なんだろ?それを採りに行くだけだ。神の力なんてもんは忘れろ」

アインは三人に注意を促した。


チーム全員の足並みを揃えるには、全員が同じ目的意識を持つ必要がある。誰か一人でも違うことを考えていては足並みが揃わないばかりか、今回のような危険を伴うミッションにおいては、チーム全体を窮地に追い込むことになりかねないのだ。


「アインさんの仰る通りです。神の力という言葉には魔性の魅力が存在するのです。その魔性に憑かれた者は、いつしか無意識のうちにそれを追い求め、必ず命を落とす…。ですから皆さん、くれぐれも魔性に憑かれないよう注意してください」

「ポロル兄さんが余計なこと言うからでしょ!」

「それは申し訳ないと思っています。しかし、エルマ山へ向かうとなれば、否が応にも知っておくべき話だったのです。なぜなら、エルマ山に行けば、ミカちゃんたちも不思議な現象を目撃することになるかも知れないからです…我々ホーブローの民が先祖代々、あの山には神の力が存在すると言い伝える由縁となった現象を…」

「不思議な現象…どんな現象なんですか?」

「ときおりエルマ山の上空が、淡い黄緑色の光で輝くのです。得体の知れないその光が、神の力が存在すると言われる由縁なのです」

ポロル神父は、エルマ山で起こる不思議な現象を詳しく説明してくれた。

「不思議っつーか、不気味な現象だな…俺やっぱエルマ山に行くの遠慮しとこかな…」

「私は見てみたいわ♪きっと美しいんでしょうね☆」

「淡い黄緑色…もしかしたら、極地にだけ見られるというオーロラかも知れませんね」

「オーロラ…聞いたことあるわ…夜空に輝くカーテンみたいなやつでしょ?」

「夜空にカーテン?…何だそりゃ?」

「僕も学術書で読んだだけで、もちろん見たことはありませんけど、地磁気と太陽風が関係してるとか…詳しくは知りません」

「地磁気?太陽風?何言ってんだ?…太陽から風なんて吹いてねぇじゃんか♪」

「頭のいいククタ君が分からないんじゃ、私たちに理解できるはずないわね♪特にパルマは♪」

「………(-_-)」

「ま、そんな事まで解明しちまう太古の科学文明は凄かったってことだろ☆ 俺たちは俺たちの目的のためにエルマ山に向かう、ただそれだけだ♪決して神の力を得るためでも、オーロラってやつを見るためでもない。俺たちの目的はレッド何とかって花を採取することなんだからな」

アインは三人に念を押した。

「それは分かってるけどよ、そのレッド何とかって花は、何の研究に必要なんだ?その花があれば何かに役立つのか?まさか、ミカのダイエットのためとか言わねぇよな?」

「レッドカメリアね!アイン様もパルマもしっかり覚えて。レッドカメリアの花は、全ての研究に役立つの☆間違ってもダイエットとか美容のためじゃないわ」

ミカは得意気に言った。

「全ての研究に?どーゆーことですか?」

「レッドカメリアの花を乾燥させて粉末にした物は、あらゆる薬の効果を何倍にも増強させるの☆つまり、大怪我が早く治ったり、不治の病と言われる病気が不治じゃなくなったりするかも知れない☆使い方と研究次第で無限の可能性があるのよ」

「じゃあ、それを直接飲んだら?不死身の男になれるのか?ひょっとして不老不死になったりして!俺それ飲みてぇ~!!」

「さあ、それはどうかしら…今までそんな実験をした記録は残ってないわ」

「でも、何でエルマ山の頂上付近にしか生えてないんでしょう?昔は他の場所にも生えてたんでしょうか?」

「残ってる資料によれば、昔はエルマ山の麓の方まで、山全体に生えてたみたいだけど、時代の流れと共にどんどん自生域が減少していったみたい…。少しずつ気候や環境が変化してるのか、乱獲が原因か、その理由は分からないけど、今では山頂付近にしか生えなくなってしまったということね…」

「そんなに人の役に立つ花なら、何としても見付けて持ち帰ろう♪きっと大勢の人を救うことが出来る☆」

「そんな薬があったら、お母さんの足も治ってたかも知れません…絶対に見付けましょう!」

「そうね♪皆で頑張りましょ!」

「でもよ、山登って花採ってくるだけならいいけどよ……皆、山頂にはおっかねぇ神獣がいること忘れてない?」

「そんなもん、居るかどうかも分からねぇし、出て来た時ゃブッ倒せばいいだけだ♪」

「俺もアインみてぇにお気軽な性格に生まれりゃ良かったよ…」

三人のモチベーションに、渋々パルマも合わせざるを得なかった…


「皆さんの意気込みに水を差すようですが、エルマ山に向かうのなら明日は止めておいた方が無難です」

「ん?何で?」

「ポロル兄さん、また変なこと言い出すんじゃないでしょうね?」

「いや、明日は天気が荒れるからです。西の山に雲が掛かると、決まって翌日は荒れた空模様になります。ましてやエルマ山のような高い山では、明日はおそらく猛吹雪になるはずです。こちらで食事は用意しますし、教会で良ければ何日泊まっても構わないので、天候が回復するまで出発は控えた方がいい」

ポロル神父は親切に忠告してくれた。

「悪天候の雪山じゃ遭難の危険がある…天気が回復するまで出発は見合わせるしかなさそうだな…。ありがとう、神父」


結局、アインたち一向がウェンブリー教会を出発できたのは、それから三日後のことだった。




アインたちが足止めを食らってる間、海の向こうのグランサム大陸では、世界に衝撃が走る出来事が勃発していた…




※※RENEGADES ひとくちメモ※※


【エルマ山 謎の光】

エルマ山でたびたび目撃される上空が淡い黄緑色の光に包まれる現象

博識者の多くはオーロラのような発光現象という見解だが、そもそも、太陽風に乗って飛んでくる電気を帯びた粒子が、地球の地磁気によって極地域に引き寄せられ、その際に大気との摩擦によって発光するというオーロラの仕組みを理解している科学者は、大陸の最北に位置するホーブローとは言え極地域ではないため、オーロラとは違う現象だと異議を唱えている

仮に科学者の見解が正しいとすると、そこに地磁気を狂わせる何かがあるのか…神の力の正体とは何なのか…

今のところ全ては謎のままである

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