【#45 忘れ物の宝物】
-5107年 3月22日 19:35-
ホーブロー神国 ウェンブリー教会
教会のドアを開けると、中に人影はなく、壁際と前方の祭壇にロウソクの炎がいくつも揺らめいているだけだった。
特に祭壇の周りのロウソクは太く大きく、壁際と比べて圧倒的に本数も多い。
入口から教会の中全体を眺めると、ひときわ明るい祭壇が妙に神秘的に見え、まるで今にもそこに神様が現れてもおかしくない錯覚に陥る。
見慣れぬ神秘的な光景を前に、アイン、パルマ、ククタの三人は、ただただ言葉を失い立ち尽くしていた。
「さ、中に入って♪ここが私の育ったウェンブリー教会よ♪」
「平気なのか?まだリスト派の教会と決まったワケじゃ…」
「大丈夫です、アイン様☆ 祭壇に掲げられてるシンボルはリスト派のものですから☆」
「そうか、それなら安心だ」
「あの『キ』の字みたいなやつ、確かミカの胸にも同じタトゥーが入ってたよな?」
「そーゆーとこだけはしっかり見てるのね!パルマらしいわ」
「露出狂のお前が肌見せてるからだろが!そもそもそのビキニ、下はケツ丸出しだし、上だってほぼ乳首しか隠れてねぇじゃんか!」
「しょうがないでしょ!こーゆーデザインなんだから!」
またもや始まった二人の口喧嘩に、ここでもククタが気を利かせて話をそらす。
「それにしても神秘的な雰囲気ですね☆僕こんな感じ好きです☆ やっぱりシンボルもリスト派とスラム派で違うんですか?」
「リスト派はあのシンボル、古来の十字架の横が2本になってるやつで、スラム派は十字架の左右の端が上の方へ曲がってる、三又の槍をイメージしたシンボルよ」
「槍ってとこがスラム派らしいよな」
「まずはここの神父様に挨拶しないと♪多分、教会の裏手にある住居の方にいると思うから私呼んでくる♪待ってて♪」
ミカがそう言って駆け出そうとした時、祭壇の右手にあるドアが開き、神父が教会に入ってきた。
神父は白いカンドゥーラを着て、首からシンボルと同じ形の十字架を下げていた。
「向こうからお出ましになったぜ…」
「ミカさんの言ってた通りの白い服装だし、あの十字架だから、リスト派で間違いないですね♪良かった♪」
神父は四人を見て、少し驚いた様子だ。
「教会から話し声がすると思ったら…見掛けぬ顔ですが、旅の方ですか?他国の方がよく御無事でホーブローへ来れましたね。ましてや、こんな辺境の教会まで…」
「突然お邪魔して申し訳ございません。我々は旅の者ですが、ここへ来たのは少々ワケありで…」
アインはそう言いながらミカに目配せした。
しかし、何か言ってくれると思ったミカは、何も言わず訝しい顔で神父を見つめていた。
「ワケあり??神に祈りを捧げに来たのではないのですか?」
「もちろん神に祈りは捧げます。捧げますが…」
「もしかして…ポロル兄さん?」
ミカは突然、突拍子もないことを言い出した。
「?…確かに私はポロルですが…あなたは?」
「やっぱりポロル兄さんね♪喋り方が全然違うから分からなかったわ♪私よ♪ミカよ♪」
「ミカ?…」
「子供の頃、よく一緒に遊んだじゃない♪木登りしたり、湖で泳いだり♪」
「ああ!思い出しました♪アリの巣を見つけちゃバケツで水を流しこんだり、猫の毛を全部剃ったり、カエルのお尻に爆竹突っ込んでた、あのミカちゃんか☆」
ポロルと呼ばれたその神父は、懐かしい過去を思い出し、二人は抱き合って喜びあった。
「幼い少女がやることか?…」
「ガキの頃から変態じゃねーか…」
「もっと幼い時に、何かトラウマになるような出来事があったのかも知れませんね…」
アイン、パルマ、ククタの三人は、小声で話しながら喜びあう二人を見ていた。
「皆、こちらはポロル神父♪私の幼馴染みよ♪」
「皆さん初めまして♪ポロルです」
神父は自ら名乗り、三人に握手を求めた。
三人はそれぞれ握手に応じる。
「アインです。ミカとは幼馴染みなんですね♪」
「ええ。私の方が2つ年上で、子供の頃はよく一緒に遊んでました☆」
「ククタです。ここは素敵な教会ですね♪」
「ティラーナ神父が連れ去られてしまってから、私が後を継いで教会を維持して来ました☆」
「パルマです。神父さんがミカを変態に育て上げたんですか?」
「いいえ。私はどちらかと言うと、生まれながらのドMでして、虐めるより虐められる方が…♪子供の頃、ミカちゃんにはよく泣かされました☆」
「間違いなくミカのドSを育てたのはコイツだな…(-_-;)」
「そうだ、ポロル兄さん♪こちらのアイン様、私の婚約者なの♪結婚式を挙げるときはポロル兄さんにお願いしようかしら☆」
「本当ですか?それは喜ばしい☆なんなら今からでも」
「いやいや、まだ結婚すると決まったわけでは…」
アインは慌てて否定した。
「では、なぜこんな辺境の教会まで?」
「私が子供の頃に埋めた宝物を取りに来たの」
「宝物?」
「庭木の根元に埋めたんだけど、今から掘り起こしてもいい?」
「それは一向に構いませんが…」
全員が庭に出て、ミカの後に続く。
ポロル神父からスコップを借りて、ミカの子供の頃の記憶を頼りに男手三人で庭木の根元を掘り返してみるが、なかなかお目当ての宝物は出て来なかった。
「本当にこの辺なんだろな?丸っきり見当違いの所を掘り起こしてる可能性だってゼロじゃねぇだろ?」
かれこれ30分近く土掘り作業を続けているパルマは、だいぶ御機嫌ナナメだった。
「そうだけど、もう15年以上も昔の記憶だし…庭の木々も成長してて、景色が全然違うのよ…」
ミカは困った顔で、遠い記憶を呼び戻すのに必死になっていた。
「ミカ、その宝物って、どんな入れ物に入ってんだ?」
「確か、このくらいの木箱に入れて、水で濡れたら困ると思ってロウを塗った羊皮紙でくるんで…最後は動物の毛皮で作った巾着袋に入れて埋めたと思う…」
「それって、あそこの竹に引っかかってるような巾着袋ですか?」
ククタは、少し離れた竹林の、一本の竹の途中にぶら下がってる袋を指差して言った。
「ポロル兄さん、あの袋は?」
「あの袋は、新しく芽が出た竹に最初からハマってたんです。気が付いたのが遅かったので既にかなり成長していて…取るには竹を切り倒さなければならなかったので、そのままにしておいたら、今のような竹の途中に巾着袋が挟まってるという何とも不思議な光景に…」
「てことは、つまり…あの巾着袋がお目当ての宝物ってことだな…」
「地中に埋めた巾着袋に、上手い具合に竹が挟まって、巾着袋ごと地上に出て成長したってことですね…」
「そんな怪しい袋があんなら、もっと早く言ってくれよ…疲れ損じゃねーか…」
「すみません、まさか15年も前に埋められた物だとは思ってもみなかったので…」
アインは、フォロボの剣で、一刀のもと竹を根元から切り倒した。
「ミカ、この袋で間違いないか?」
アインは竹から外した巾着袋をミカに渡した。
「多分…これだったと思う…」
ミカが巾着をほどき中身を取り出すと、中からミカが話したままの羊皮紙に包まれた箱が出てきた。
「これよコレ!私が15年前に埋めた宝箱!」
ミカは、木箱の中から見たこともない美しさのローブを取り出し、袖を通す。
半透明に透けるその生地は、月明かりを受け虹色に輝いていた。
「これがミカちゃんの宝物…なんて美しいローブなんだ☆」
ポロル神父も、その美しさに見とれていた。
「これが私の宝物☆ブルージュの羽衣よ☆どう?美しいでしょ?子供の頃はブカブカだったけど…見て♪大人になってサイズもピッタリ☆」
ミカはその場でクルクル回って喜んだ。
「これがブルージュの羽衣か」
「見てくださいアインさん…襟と袖と裾の所だけ他とは違う生地が使われてますけど、その生地に、パルマさんの弓と同じ模様の刺繍が」
「ああ、確かに同じ柄だ…。このローブも他の聖なる武具と関係してるのは間違いなさそうだな…」
「どうでもいいけどよ、半透明の生地って、モロに見えるより、かえってエロくねぇか?ミカの変態ビキニが透け透けだぜ♪」
「ねぇ、アイン様…一度このエロパルマぶちのめしていい?」
「止めておけ…。パルマを庇うつもりはねぇが、同じ男としてパルマの言ってることも理解できる…」
「まぁ☆アイン様もそんな思いで私を見てくださってるのね☆」
「おい!なんで俺は変態扱いで、アインだと顔赤くしてんだ!」
「当たり前でしょ!あんたとアイン様じゃ大違いなのよ!!…あら?ククタ君、鼻血が出てるわよ?」
ククタも、れっきとした男だった…
「とりあえずはミカちゃんの宝物が見付かって良かったですね♪今晩はココへ泊まって、明日、スラム派の連中に見付からないうちにホーブローを出た方がいいですよ」
アインたちがホーブローへ来た目的を知らないポロル神父は、親切にそう告げた。
「それが…我々には、実はもう一つの目的があるんです」
「もう一つの目的…ですか」
「ポロル兄さん、私たち、レッドカメリアを採りに行こうと思うの。力を貸してくれない?」
「!!…レッドカメリアを?では、神の山に登るのですね?」
「ええ。あそこにはエジピウスも神獣タロンガも居るのは百も承知の上よ」
「それでも行くと言うのですか?確かにレッドカメリアを手に入れることが出来れば素晴らしいことですが、生きて帰れる保障はありませんよ?」
「わかってる…だから無理はしない。採取が不可能だと判断した時は、すぐに引き返すつもりよ」
「ミカちゃんは、あの山の本当の恐ろしさを分かってない…。あの山の恐ろしさは、エジピウスでもタロンガでもないのです」
「神獣と戦うことより危険なことがあるってのか?…」
「あの山…エルマ山には神の力が宿っていると言われています。神獣も、その神の力を守っているに過ぎません」
「神の力だと?…」
※※RENEGADES ひとくちメモ※※
【エルマ山】
ホーブローの民から「神の山」と呼ばれている山
そこには神の力が宿り、その力を手にした者は世界を征すると言い伝えられている
神の力の守護者として、空の神獣タロンガがその力を求める者を排除する役割を担っているらしい
ただ、その神の力が何なのか、それを知る者はおらず、ホーブローの博識者でさえ大袈裟に神格化された単なる伝説に過ぎないという考えが大半を占めている
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