【#3 予見】

-5107年 3月5日 07:20-


ロシュフォール城 城門



「総員、城門内まで退けーっっ!」

エルドレッド兵長の号令で、鉄兵団の攻撃を生き延びた兵士たちは、全員が城門内に退避した。

それでもなお多くの兵が体のどこかしらを負傷し、エルドレッドとビルニス以外に血を流していない者など一人もいなかった…


「兵長…これは真のことにございますか?」

ビルニスは未だに信じられないといった様子だ。

「夢でも幻でもない…我がロシュフォール王国はタラモア帝国に屈したのだ…」

エルドレッドもまた、珍しく寂しげな表情だった。

「まだ戦える兵を集めて反撃に出るか、このまま籠城戦に持ち込むというのは?」

ビルニスは諦めきれず、エルドレッドに詰め寄った。

「それはならぬ。兵の命と時間を無駄にするだけだ…」

「しかし兵長!我々はロシュフォールの誇り高き兵士です!降伏より、命尽きるまで戦いぬくことこそ名誉かと!」

「誇り高きロシュフォールの兵士だからこそ、国王陛下の命令は絶対なのだ!」

「ですが…」

残った兵士全員がエルドレッドとビルニスを取り囲むように集まり、二人のやり取りを静かに聞いていた。


城門の外ではタラモア鉄兵団の攻撃が止むことなく、この時点で既に、城門の左右に展開された全ての投石機と炎弾機は破壊されていたが、強固な城壁と城門はまだ破壊されずに持ちこたえていた。

それでもなおジリジリと進軍を続けるタラモア軍は、城門まで残り僅かな距離まで迫っていた。


「ここまで戦いぬいた誇り高き兵士諸君!!これより兵長の私から…いや国王陛下からの最後の指示を伝える!」

その場にいた全員、ビルニス副長までもが固唾を飲んでエルドレッド兵長の次の言葉に注目した。

「………我々は敵の軍門には降らん!!」

エルドレッドの言葉を聞いて、全員が「おお~っっ!」と歓喜の声を上げる。

「では兵長、反撃に打って出るのですね!」

ビルニスもまた、興奮していた。

「早まるなビルニス。兵士諸君もよく聞いてくれ!」

その場が再び静まりかえった。

「今から一ヶ月ほど前、国王陛下は既に今日のことを予見されていたのだ…」



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-5107年 2月7日 夕刻-


ロシュフォール城 王の間


「お呼びでしょうか、陛下」

「おお♪ 来たか!」

久しぶりの再会に、王は嬉しそうにエルドレッドを迎えた。

「まあ座れ♪ その饅頭食うてみよ、美味いぞぉ♪」

「では、遠慮なく頂戴します、……うん!これは美味い♪」

「じゃろ? アルゴナ温泉の名物らしい、モスタールからの土産じゃ♪ ワシも行ってみたいもんじゃ…」

「陛下は何かとお忙しい立場でしょうから」

「全くもって… 国王なんて窮屈なだけで、な~んも面白いことなんて有りゃせん!ワシもたまには南の島にでも行って、ビキニギャルと戯れてみたいもんじゃ…」

「ハハハ♪ 陛下らしいお言葉、まだまだ元気なようで安心しました」

王と家臣の垣根を越えて、心で結ばれた二人の和やかな会話は弾んだ。

「ところでエルドレッド、今日お主を呼んだのは他でもない…」

「タラモアのことですか?」

「やはり、お主も聞き及んでおったか」

「はい、近ごろ特に不穏な動きありと、タラモアに忍ばせている偵察部隊からの報告が」

「そのようじゃな。おそらく近々、連邦平和協定を破棄して、どこかへ攻め入るつもりじゃろう…」

「そのようです。まず最初に攻めるのは非軍事国家のホーブローか、我が王国ロシュフォール…」

「ホーブローを攻めるには、途中のキルベガン共和国を通過せねばならんでな… ま、フツーに考えたらココだわな…」

「まず間違いないかと…」

「ワシはただ、領民が平和に暮らせればそのだけで良いと思うておるのに… なんでワシの国に攻めて来るんじゃ…面倒臭いのぅ…」

「その時に備え、我が軍も訓練を強化し、士気も今までになく高まっております」

「我が軍の強さは折り紙つきじゃが、向こうには噂の鉄兵団がおる…あれが厄介じゃ…なんつったって、剣も弓も槍も、おまけに鉄砲まで効かないなんて、ズル以外の何物でもないわい…」

「確かに鉄兵団の強さは脅威ですが、我々も情報を集め攻略法を考えておりますので…」

「こんな事になるなら、我が国も古代遺跡の発掘や古代科学の研究に時間と金を使うべきじゃったな…全ては後の祭り…後悔先に立たずとはこのことじゃ」

「陛下、そう卑下なさらずに。仮に攻め込まれたとしても、負けと決まったわけでは…」

「確かにお主の言う通りじゃ。じゃが、タラモアが攻めて来た場合、勝ち目がないと判断した時点でワシは潔く降伏するつもりじゃ」

「陛下!それではロシュフォールの面目が…」

「聞くのじゃ、エルドレッド!」

「………は!」

「ワシの宝は何だと思う?この国でもなければ城でもない、ましてや金銀財宝でもない……ワシの宝はの、この国を愛しこの国に住まう民、民の命なんじゃよ。お主ら兵もまたこの国の民の一人。ワシの大切な宝に比べたら、国の誇りや面目などクソ食らえじゃ♪」

「陛下………」

「そこでだ。兵長であるお主には、果たしてもらわねばならぬ務めがある。タラモアが攻め入った際の……ワシが降伏した際の作戦じゃ、心して聞くのじゃエルドレッド」

「ははっ!」


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「諸君は城の隠し通路を抜け、北門を出て隣国イグナリナへ向かう!」

エルドレッド兵長の言葉に、兵士全員がどよめく。

「イグナリナへ…」

「国王陛下はそんな先のことまで考えておられたのか…」

「これが最後の指示…」

兵士たちは、思い思いの言葉を口にした。

「先だってモスタール宰相が多くの領民を連れて出立しているはずだ!諸君は直ちにモスタール宰相と合流し護衛の任に就く!全員無事にイグナリナへ到着せよ!よいな!!」

「ははっ!」

「これより先はビルニス副長が指揮を執る!総員、装備を整えて5分後に出発だ!」

「ははっ!」

エルドレッドの号令に、兵士たちは右手の拳を左胸に当てるロシュフォール式の敬礼で応えた。


「兵長、私が指揮を執るのは良いのですが、兵長はこれからどうするのですか?…」

準備を終えたビルニスはエルドレッドに歩み寄り、不安そうに聞いてきた。

「俺は陛下から別の任務を仰せつかっている。ここからは別行動になるが、皆を率いてしっかり任務を全うしろ。北の森もその先の山岳地帯も異形種の巣窟だ、油断するなよ」

「了解しました。……兵長、また会えますよね?」

「当たり前だ」

「わかりました!それでは出発いたします!兵長もどうか御無事で!」

ビルニスは、残った兵を引き連れて、隠し通路から城を出ていった。

それを見届けたエルドレッドは、王から与えられた任務遂行のために、ビルニスたちとは反対方向へと走り出した…。




※※RENEGADES ひとくちメモ※※


【イグナリナ王国】

国王=ヌーヴォ-イグルーリ

人口=10700人

大きな港町として発展し、海運業を中心とした貿易業が主産業

グランサム連邦の7ヶ国の中で、ロシュフォール王国と最も親交の深い国

国が隣接してることと、国王同士が古くからの友人であることがその理由


【キルベガン共和国】

国王=パン-シーゲン

人口=21500人

さまざまな工業が主産業

国土の大半が山岳地帯であるが、近年その山岳地帯に鉄鉱床が発見されたことにより、グランサム連邦最大の富裕国になった

その反面、貧富の差が激しくなったことで王室や国政への支持率が急落している


【ホーブロー神国】

国王=エルク-ラムリー

人口=7700人

グランサム大陸の北方に位置する島国

別名「魔術の国」と呼ばれ、魔術研究が盛んに行われている

神への信仰が厚く、国王を含めた要職は全て高位神官が務める

不戦宣言を世界に発し軍隊を持たないが、代わりに他国の者を受け付けない鎖国制度を敷いているため、内情の多くは謎のベールに包まれている

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