【#2 兵力の差】
-5107年 3月5日 05:48-
ロシュフォール城 城門
「長弓隊は矢を無駄にするな!鉄兵団を狙っても意味がない!敵歩兵部隊のみに狙いを定めよ!」
城下町西エリアの掃討を済ませ、南からの中央突破に備える三番隊と合流した一番隊隊長エルドレッド兵長は、迫り来るタラモア兵を薙ぎ倒しながら兵に指示を与えていた。
「投石機と炎弾機は、鉄兵団もしくは鉄兵団の前方に着弾するよう調整せよ!奴らは硬いが動きは鈍い!少しでも進軍を遅らせるのだ!」
それまで押され気味だった城門正面の戦闘は、エルドレッド兵長率いる一番隊が合流してから、兵力に勝るタラモア軍と互角の展開を繰り広げていた。
「兵長、我が軍が押し返しています!このまま行けば城門の死守も可能かと!」
三番隊隊長のポルホフは、ロシュフォール軍の優勢を見て自信たっぷりに告げた。
「敵を甘く見てはならん!鉄兵団の本当の強さは、こちらの攻撃が通用しない堅固さではない、その火力だ…」
エルドレッドはポルホフをたしなめた。
「火力?…ですか…」
「そうだ、だから城門を射程に捉える前に、一機でも多く潰さなければならん!」
「了解しました!」
そこへ、エルドレッドから敵軍の詳細な偵察を命じられた一番隊副長のビルニスが戻ってきた。
「兵長!」
「ビルニス!状況はどうだ?」
「は!西エリアは掃討成功、東エリアもほぼ壊滅状態なので二番隊も間もなくこちらに合流すると思われます!」
「敵兵の数は?」
「は!東西エリアの残存兵は南から侵攻してくる中央本隊が吸収、鉄兵団20機、騎馬隊40、鉄砲隊100、弓隊と槍隊がそれぞれ200、歩兵部隊と合わせると…敵の数およそ2000!」
「2000?!こちらの10倍じゃないか…」
ポルホフの自信は一瞬で吹き飛んだようだった。
「鉄兵団を先頭に、中央本隊は鉄兵団の動きに合わせ後方200mをゆっくり進軍中です」
「本隊は鉄兵団の後方だと?では、今我々が戦っているのは…?」
「敵の先遣隊にすぎません、ポルホフ隊長」
「な…これが単なる先遣隊だと言うのか……」
ビルニスの回答は、ポルホフをさらに落胆させるものだった。
「いかがしますか、兵長…」
ビルニスはエルドレッドに指示を仰ぐ。
「鉄兵団の火力と堅固さを盾に、本隊は兵力を温存しつつ後方から進軍してくるのがタラモア軍の常套手段だ。鉄兵団で我が軍の戦力をあらかた片付けてから一気に本隊を突入させて決着をつけるつもりだろう…」
エルドレッドの表情は険しかった。
冷静に戦況を把握しつつ、持ち得る知識と経験から、最善と思われる戦略を模索する。
そんな中、東エリアの掃討を終えた二番隊が合流した。
「遅くなって申し訳ない!鉄兵3機の討伐に手間取ってしまってな…で、戦況はどんな具合だ?兵長」
見た目も口調も豪快なこの人物は、ひときわ大きな馬に跨がり、通常の二倍はある大剣を片手で軽々と持つ二番隊隊長のブレイベンだ。
エルドレッド兵長とは幼い頃からお互い切磋琢磨してきた親友でもあった。
「ご苦労だった、ブレイベン。戦況はお世辞にも芳しくない…」
「そうか…。敵の数は?」
「中央本隊はおよそ2000ほどにございます、ブレイベン隊長」
「2000?それは確かか、ビルニス」
「は!この目で確かめて参りました」
「むむぅ……」
豪傑で知られたブレイベン隊長も、あまりの兵力差を突きつけられ眉根にシワを寄せた。
「ブレイベン、ポルホフ、それぞれの隊には何人残っている?」
「うちの隊は半数に減っちまった…まだ戦えるのは20人てとこだ」
「三番隊も同じく20人程度かと…」
「我々一番隊と合わせても80人か…」
「何か良い作戦でも思い付いたのか?兵長」
ブレイベンがそう口にしたとき、全員が遠くでドンッ!という花火を打ち上げたような音を耳にした。
その刹那、
ドッカーン!!…
と間近の地面が炸裂した。
それは、ブレイベン隊長が愛馬とともに立っていた場所だった。
「ブレイベンっっ!」
「ブレイベン隊長!」
ブレイベンは愛馬もろとも跡形もなく消え去り、地面には主を失った大剣だけが残されていた。
「あわわ…わわ……」
ポルホフは、あまりに衝撃的な光景に腰を抜かし、その場にへたり込んだ。
「そんなバカな…我々はまだ射程外のはず…」
ビルニスもまた驚愕の色を隠せないでいた。
「我が軍の持つ情報よりも、タラモア軍の兵器は進化しているということだ」
エルドレッドだけは冷静さを失っていなかった。
そして再び聞こえるドンッ!という攻撃音。
「くっ!…総員散開!!」
エルドレッドは叫んだ。
ドッカーン!!…
着弾したのは、腰を抜かして動けずにいたポルホフ隊長のいる場所だった。
「ポルホフっっ!」
下半身を失い、ポルホフは絶命していた。
(このまま逃げ回っていては陣形すら組めん…どうすれば……いったん城内に退くか……しかし退いたところで…)
エルドレッドが考え込んでいる間も攻撃は続く。
ドッカーン!!…
ドッカーン!!…
タラモア軍は標的を変え、動かぬ標的である投石機と炎弾機を正確に破壊していった。
(このままではジリ貧だ…どうする…考えろ…考えるのだ!…諦めるな!)
エルドレッドは自らを鼓舞した。
その時、エルドレッドを護衛するように横を並走していたビルニスが、何かを指差しながら大声で叫んだ。
「兵長!…あ…あれを!……」
ビルニスに促され、エルドレッドは後ろを振り返り、城を見上げた。
「!!」
城の最上部、ちょうど王の間のバルコニーに白く大きな布がはためいていた。
布にはバカでかい字で
『降参で~す by ロシュフォールⅢ』
と書かれていた…。
※※RENEGADES ひとくちメモ※※
【エルドレッド兵長】
ロシュフォール軍兵長
41才
グランサム連邦内に並ぶ者なしと称される歴戦の勇者
連邦成立以前、小国のロシュフォールが他国に侵略されずに済んだのは、エルドレッド兵長一人の力と言っても過言ではない
【ビルニス副長】
ロシュフォール軍副長
36才
エルドレッド兵長の右腕的存在
特に剣術の腕に秀で、その技はエルドレッド兵長に並ぶとも言われている
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