【#63 俺たちの戦い方】
-5107年 3月27日 21:57-
ホーブロー神国 チェチェヤ
遠くにチェチェヤの町が確認できる所まで来て、アインたち一行はソリを停めた。
「ここから先は危険だから我々だけで歩いて行く。皆さんはウェンブリーに戻ってくれ。ホント助かったよ」
アインは犬ゾリの操舵手たちに礼を述べた。
「分かりました。それでしたら、犬ゾリ2台をこの水車小屋の影に繋いでおきます。帰りはそれをお使いください」
「ありがとう。じゃあ、帰り道は遠慮なく使わせてもらうよ」
「神の御加護のあらんことを☆それでは!」
操舵手たちは2台の犬ゾリを小屋の影に繋いで隠すと、残りの2台に分乗してウェンブリーへ戻って行った。
チェチェヤの町に近付くと、目の前に広がる光景に、四人は思わず足を止めた。
「これ…フツーの町か?…」
「町の周囲をぐるりと壁が囲ってますよ…」
「ああ…しかも、俺が今まで見たことのあるどの城の城壁よりも高ぇぞ…」
「高さは50m、最も厚い部分は暑さ5mありますね、全面的に鉄筋コンクリート構造なので、あの壁を破壊するにはTNT火薬が20kgほど必要な計算に…」
「待て待て待て待て!ミッチーは見ただけであの壁の構造まで分かるのか?それに、TNT火薬って?黒火薬とは別物か?」
「私はあらゆるセンサーが付いてるので、あの程度の壁なら透視できます。それと、TNT火薬というのは、黒火薬とは違って、爆速は毎秒6900mで…」
「あーっ!もういい!分かった!スゲェ火薬なのは何となく分かったけど、残念ながらミッチー、今の時代にゃ存在しないシロモノだ…つまり、あの壁を破壊することも乗り越えることも出来ないってことだ」
「どうしますか、アインさん」
「……………」
三人はしばらく考え込んだ。
「三男、お前いろんなセンサーが付いてるなら、あそこに門が見えるだろ?門番が何人いるか分かるか?」
「はい、門の両脇に二人ずついますが、門の向こう側に20人、弓や槍や剣を持った人が並んでいます」
「みっちゃん、門の向こう側まで見えるんですか!?」
「分厚いですけど、幸い木造の門なので、サーモセンサーでバッチリ見えてます♪」
「ほら♪やっぱりみっちゃんは役に立ちますよ♪僕たちじゃ絶対に見えない門の向こう側まで見えちゃうんですから♪」
ククタは大喜びだ。
しかし、アインの険しい表情は緩まない。
「確かに色々役立ちそうだが…20人も待ち構えてるんじゃ、簡単には通れそうもない…」
「他の入口を探すってのは?」
「う~ん………ミカの安否を考えると、のんびりしてらんねぇからな…」
思案を巡らすアインに、三男が進言する。
「ここは私に任せて下さい♪」
「任せるって…どうする気だ?」
「まさか、門番に芸を披露して、気を逸らしてる間に…とか言うんじゃねぇよな?」
「わたくし、こう見えても軍事ロボットですよ?ここは『戦闘モード』に切り替えて、正面突破します♪なぁに、あのくらいの人数なら、どうってことありません♪」
三男はやけに自信満々だった。
「本当に大丈夫なのか?ミッチー…」
「ご安心くださいマスター♪門を開放したら呼びますから、それまでここで待っててください♪」
そう言い残して、三男は門へ向かっていった…。
「おい!貴様、何者だ!」
「白いカンドゥーラ…お前、リスト教の信者だな?」
門に近付く三男に気付いた門番たちは、槍を構えて立ちはだかった。
「いえ、私は無宗教なので♪申し訳ありませんが門を開けていただけますか?私は大聖堂に行きたいんです」
「スラム派の者以外、ここを通すわけにはいかん!」
「それなら仕方ありません…力ずくで門を開けさせていただきます」
三男は門番などお構い無しに門に近付く。
「通さんと言ってるだろう!!」
四人の門番の槍が、一斉に三男に襲いかかった。
カン!カン!キン!…
突き立てられた四本の槍は、カンドゥーラに穴を開けただけで、三男の体には刺さらない…当然だ、刺さるはずもない。
「な、なんだ…コイツは…」
「カンドゥーラの下に鎧を着込んでいたか!構わん、突きまくれぇ~っっ!!」
カン!キン!カン!カン!キン!…
何度突こうが結果は同じだ。
頭を突こうが、体を突こうが、腕を突こうが、脚を突こうが、カンドゥーラの穴の数が増えるだけだった。
門番の攻撃が続く間、三男は微動だにせず、その場に立っていた。
「せっかくポロル神父に作っていただいた服なのに…。私は今から『戦闘モード』に切り替えます…その意味が分かりますか?」
黒いガラスの中に青白く光る三男の目が、赤に変わった。
「何を訳の分からんことを言っている!貴様ごとき、この場で切り殺してくれるわ!!」
門番たちは再度槍を構えて三男に突進する。
三男は静かに両手を広げ、左右から突っ込んでくる門番たちに指先を向けた。
チュンチュンチュンチュンッッ!!
指先から発射された銃弾は、的確に門番たちの急所を捉えていた。
三男はそのまま門に歩み寄ると、巨大で重厚な門を両手で押し、いとも簡単に開放した。
「射てェェェェっっ!!」
門が開くと同時に、待ち構えていたスラム信者たちが一斉に矢を放つ。
しかし、数十本の矢は、三男の体に当たって甲高い金属音を響かせただけで、三男の周りに散らばっていった。
「そんなバカな…」
狼狽えるスラム信者たちに向かって、何事もなかったかのように三男が言う。
「次は私の番…ということでよろしいでしょうか?」
三男は右腕を高く上げ、まるで天を指差すかのように人差し指だけを突き立てた。
次の瞬間…
バチッッッッッッ!!
と、指先から稲妻が走った。
20人のスラム信者たちと三男の指先が、20本の稲妻で繋がった。
ビビビビビビビビビ………
「ぐわぁ~ッッ!…」
「ぎゃあァァァァ!…」
「ぐががががが…」
稲妻に打たれた20人のスラム信者たちは、全員その場に倒れこんだ。
シュ~ッ…という音とともに、スラム信者たちの体から湯気が立ち上ぼり、辺りは肉の焦げた臭いが充満していた…。
「ふぅ~………」
三男は気持ちを落ち着かせ『戦闘モード』を解除する。赤く光っていた三男の目は、元の青白い光りに戻っていた。
「ボスぅ~ッッ!マスタぁ~ッッ!ククタさ~んッッ!もう大丈夫ですよぉ~♪♪♪」
開け放たれた門のところで、三男は大きく手を振っていた。
「ミッチーの野郎、もう片付けちまったのか?」
「軍事ロボットって言うだけありますね♪」
「……………」
門の手前には、急所を撃ち抜かれたスラム信者四人が倒れていた。駆け寄ったアインは念のため四人の脈を取ってみるが、すでに四人とも息絶えていた。
門をくぐると、そこには、得意気にピースサインで立つ三男と、焼け焦げた20人のスラム信者の屍があった。
「あんな一瞬でこんだけの人数倒したのか?スゲェな♪ミッチー」
「だから、任せて下さいって言ったじゃないですか♪マスター(^^)v」
「やっぱり隠された武器があったんですね♪それが判明したのも大きいですよ♪」
「お役に立てて光栄です☆」
「……………三男」
アインは、喜ぶパルマとククタとは明らかにテンションが違った。
「今回は何も言わないが、これから先、俺たちと共に旅を続けるなら、むやみやたらと命を奪うんじゃねぇ…。人だろうが獣だろうが異形種だろうが同じだ。相手の命を奪うとき、それは自分や仲間の命が危うい時だけだ。お前はロボットだ…古代の兵器ならいざ知らず、今の時代の武器じゃお前の命が危険に晒されることなんかねぇだろ?奪うのは、相手の戦闘能力と戦意だけでいい…命は尊いものなんだ…わかったな?」
「わかりました!ボス(`.´)ゞ」
ただ喜んでただけのパルマとククタも、アインの言葉が胸に刺さった…。
「ブッ殺すのとブッ倒すのは違うってことか…」
「そーゆーことだ」
「やっぱりアインさんは偉大です☆」
「偉大なんかじゃねぇよ…ただ、それが俺たちの戦い方だってこと、パルマもククタも肝に銘じておいてくれ」
「わかったよ♪」
「わかりました☆」
「三男もな?」
「了解であります!ボス」
チェチェヤの町は、ゴーストタウンかと思えるほど静まりかえっている。
「不気味なくらい静かだな…」
「こんな大きな町なのに、明かり一つ灯ってませんね…」
どの家も明かりが消えた町並みの先に、煌々と輝く大聖堂がそびえ立っていた。
※※RENEGADES ひとくちメモ※※
【三男のセンサー】
軍事AIロボットである三男の体内には、赤外線センサー・超音波センサー・レーザーセンサーなど様々なセンサーが内蔵されている
それらのセンサーを駆使して、実際に目で見て手で触れなくても、多種多様な情報を分解析することが可能となっている
三男の目から得られる画像データも、数種類のセンサーと連動させることで、今回、壁の内部構造を分析したり、壁の向こうに潜む人数を特定したり、活用法は多岐にわたる
三男自身、自分にどんなセンサーか内蔵されてるのか理解していないのが最大の難点…
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