【#51 捕捉】

-5107年 3月24日 9:46-


キルベガン共和国 首都ハルディア 王宮



クーデターから一夜明け、首都ハルディアの王宮では、新国王となったグランツが朝から頭を抱えていた…


「何から手ェつければいいんだ…?だいたい俺は国王なんてガラじゃねぇんだ、こーゆーことは、もっと頭の回転が早い人間がやるべき事で、俺みたいな脳ミソまで筋肉で出来てる人間のやる事じゃねぇんだよ」

「そうは言っても…グランツ様以外、今この国をまとめられる人物は見当たらないかと」

マインツは、用意された朝食にすら見向きもせず思い悩むグランツを励ました。

「お前なら、まずは何をすべきだと思う?」

「そうですねぇ……まずは要職の人事を優先すべきかと。そうすれば、国王であるグランツ様お一人が頭を抱えることもなく、決め事は要職のメンバーが考えれば済むことで、グランツ様は指示を与えるだけでよくなります」

「なるほどな♪役人全員、国外追放しちまったからな…。こんな事になるなら、まともな奴を何人か残しておきゃ良かったぜ…。まずは役員人事かぁ…」

グランツは、顎に手を当て考え込んだ。

「マインツ、お前が首相をやれ」

「は??」

「少なくとも俺より格段に頭が良いし、それに、他に思い当たるメンバーなんていねぇ…仮にチップやデールやドナルドを役職に就けてみろ、すぐさまタラモアに戦争を仕掛けかねねぇだろ?」

「それはそうですが………私は今までもこれからもグランツ様のお側にお仕えして…」

「だから首相として俺を支えてくれって言ってんじゃねーか♪」

「………わかりました。では、ひとつ提案がございます」

「提案??…何だ?」

「他の役職はグランツ様が指命するのではなく、全ての役職を国民の中から選挙で選ぶというのはいかがでしょう?」

「選挙?」

「はい。古代文明の社会でも王様以外の要職は、世襲でも国王の指命でもなく、国民による選挙で決められておりました。それを民主主義と言います」

「民主主義か…良い響きだな☆ よし、それで行こう♪すぐに国民に周知しろ♪」

「かしこまりました」



その頃、復旧工事が進む王宮正門に、一組の客人が現れた。

六人…いや、四人と2機のその客人は、作業中の一人に声をかける。

「すまんが、新国王にお目通りを願いたい」

「どちら様で?」

「タラモア帝国のモスタールと言えば分かるはずだ」

「……少々お待ちを」

作業員は小走りで王宮へ向かった。

そこへ、

「いやぁ、カッコイイ機体でんなぁ♪」

と、赤・青・黄・緑の4機の重機が近付いてきた。

「ワテはココの工事を取り仕切っているガバドっちゅうもんですわ♪もし良かったら、その機体、少々拝見させてもろて構へんか?」

「貴様!誰に向かって口をきいてる!」

「よい♪よい♪それほどこの鉄騎兵に関心があるなら、好きなだけ見るがよい」

ガバドの物言いを窘める兵を抑え、モスタールは許容した。

「これ、鉄騎兵って言いまんの?それにしても洗練された無駄のないフォルムしてまんなぁ☆」

「うむ♪うむ♪」

「肘や肩、膝や足首も、こんな繊細な油圧シリンダーが使われてまっせ…すごい技術や…」

「うむ♪うむ♪」

「ここの胴体部分に人が乗って操縦してるんやろ?全然そんな風に見えへん…まるで古代文学に登場するロボットそのものやんけ」

「うむ♪うむ♪」

「そんでもって、この両肩に付いてる二本の筒が大砲よな?…弾はどないして込めるんやろ?…おまけに両腰にぶら下げとるんは剣と斧でっか?こりゃ攻撃力も相当なもんでっせ」

「うむ♪うむ♪」

赤・青・黄・緑の重機に乗ったガバド組のそれぞれが、鉄騎兵を褒めちぎった。

モスタールは、とても上機嫌だった。

「これほど完璧な機体なら、弱点などあらしまへんな…まさしく世界最強の兵器ですわぁ♪」

「いやいや、それがまだまだ改良の余地はあるのだよ…」

「改良が必要な箇所なんて、どこも見当たりまへんけど…」

「例えば、この油圧シリンダーも、繊細が故に不具合を起こせばその間接が動かなくなってしまうし、そもそも露出しているのが問題だ…先のロシュフォール侵攻の際も、油圧シリンダーに攻撃を受けた鉄兵は、ことごとく動かなくなり、敵に破壊された… だからと言って可動部分まで鉄で覆うわけにも行かんでな…」

「そうでんなぁ…仮に鉄で覆って補強できたとしても、その分の重さで今度は機動力に影響が出るさかい…」

「まさしくその通りじゃ。初期の鉄兵から大幅に改良が加えられたと言っても、この鉄騎兵の機動速度は、幼稚園児の駆けっこレベルじゃからな…」

鉄騎兵をさんざん褒めちぎられ、持ち上げられた上機嫌なモスタールは、ついペラペラと鉄騎兵の弱点を話してしまった…

「ほな、ワテらの方が強いでんな♪」

「何?いま何と言った?…ワシの聞き間違いか?」

上機嫌だったモスタールは、ガバドの一言で突然眉根を寄せ、片方の眉を吊り上げて聞き返した。

「レッド親分は、鉄騎兵よりワイらが強い言うたんや」

「歳のせいで耳遠いんちゃうか?」

「せやな、鉄騎兵の改良より、まずは自分の耳と単純すぎる脳ミソ改良した方がよろしおまっせ♪」

「貴様らぁ~…」

モスタールは、額に血管を浮き上がらせ、体は怒りに震えていた。

「ワテらガバドレンジャーの機体は頑丈さが売りなんや♪それに、機動力かて中学生の駆けっこレベル♪つまり、鉄騎兵はんが攻撃力に長けとっても、頑丈さとスピードでワテらの機体が上回る♪どんな強力な武器も、当たらな意味がないっちゅうこっちゃ♪」

「ほほぅ、大した自信だな…ならば試してみるか?」

モスタールは不敵な笑みを浮かべる。それと同時に、2機の鉄騎兵の両肩に装備された砲口が、それぞれ赤・青・黄・緑の重機にロックオンされた。


「いやぁ、お待たせして申し訳ない。お初に御目にかかります、私が国王のグランツです、モスタール卿」

一触即発の場面に、グランツが現れた。

背後には、マインツをはじめ側近たち数名を従えての登場だった。

「これはこれはグランツ国王♪タラモアのモスタールにございます。どうぞお見知りおきを♪此度は見事な手腕を発揮されたようで♪まずは革命の成功、お祝い申し上げます☆これでタラモアとキルベガンの関係は、より一層深いものになりますな☆」

「ん?!それは何故です? タラモアとの関係を深めるような事をした覚えはありませんが?」

「またまた、お戯れを♪ 今回の革命の成功は、我がタラモア帝国の後ろ楯あってこそのもの」

「お言葉を返すようですが…今回の件で我々は、タラモアの力などこれっぽっちも借りておりませぬ。両脇に控える鉄騎兵はおろか、兵の一人とて協力いただいた覚えはないのですが?今回の革命は我々キルベガン国民だけで成し得た所業ゆえ、モスタール卿が何を理由にタラモアとの関係が深まるとお思いなのか、私には合点がいきませぬが…」

モスタールは奥歯をギリギリさせながら、必死に怒りを抑え言葉を続けた。

「グランツ国王のお考え、よ~く分かりました。では、そのようにタラモアには報告いたしましょう。それともう一つ…我がタラモア帝国のスタージ将軍を殺害した犯人の引き渡しの件ですが…」

「それは先に報告した通り、キルベガン国内で起きた殺人事件ゆえ、キルベガンの法律に則って、捕縛後に即日処刑しましたが?何か問題でも?」

「しかし、殺されたのはタラモアの将軍ですぞ?犯人の処遇はタラモアに任せるのが筋ではござらんか?」

「では聞くが、キルベガン国民がタラモア国内で犯罪を犯しても、タラモアでは罰せずキルベガンに引き渡すと仰るのか?そうではあるまい♪」

モスタールは返す言葉がなく、ただただ怒りに震えていた。

再び一触即発の雰囲気が辺りを包む中、その上空を一羽の鷹がピィーッ!と鳴きながら旋回していた。

「モスタール様、あれは我が国の伝書鷹かと…」

「うむ、鳩ではなく鷹ということは火急の案件に違いない、直ちに内容を確認せよ」

タラモア文字で書かれた文章を、モスタールは理解できないのだ。

兵の一人が片手を構えると、急降下してきた鷹がその腕にとまる。

小さく丸められた紙を足の器具から引き抜くと、内容は直ぐにモスタールへ伝えられた。

「何と!? それは朗報じゃ♪」

モスタールは途端に機嫌が戻った。

「グランツ国王、お主とはもっと議論する必要がありそうじゃが、ワシは急いで行かねばならぬ所が出来たゆえ、今回はこれで失礼する♪」

「良い知らせだったようですな」

「聞いて驚かれるな?…何と!アイン王子とエルドレッド兵長が見つかったのだ♪」


(しまった!…よりによって二人とも見つかっちまったのか…)


グランツの驚きと困惑の表情を、モスタールが見逃すはずもない。

「おや?二人の発見で何か困ることでも?」

モスタールは嫌味たっぷりに聞く。

「いや…。タラモアが総出で探索しても、なかなか見つからなかったものが、このタイミングで発見されたことに驚いているのです…しかも二人同時とは…」

「どちらも一昨日、エルドレッド兵長は深夜のサライの街で、アイン王子とその一味は、なんとホーブローで野営してるところを目撃されたとの情報じゃ♪やっと二人の尻尾を掴んだぞ♪これで二人はおしまいじゃ♪」


(なんてこった…まだ二人は合流出来てねぇのか…なんとかしなきゃなんねぇが、今の俺たちじゃ打つ手なしか…)


焦る気持ちを悟られぬよう、グランツは強気な態度で続けた。

「これでタラモアは世界征服の夢に一歩近付いたとでも言いたいのか?」

「誰もそんなことは言っておらん。まぁ、来月の連邦会議では何かしらの動きがあるかも知れんがな♪」

「タラモアは何を企んでいる?」

「さあ?…それは帝王様とバジャル様の決めること。ワシは命じられるままに動くだけ。お主が連邦会議でもタラモアに楯突く発言をする勇気があるか、見ものじゃな♪まぁ、せいぜいそれまでに新国家の土台作りに励むことだ♪ロシュフォールの二の舞にならぬように…な♪」

そう言い残して、モスタールはグランツたちの前から去って行った。


(アイン王子…エルドレッド兵長…何としても逃げ延びてくれ…あんたら二人にグランサムの未来が懸かってんだ…)


グランツは、北の空を眺めて心の中で祈った…




※※RENEGADES ひとくちメモ※※


【キルベガン共和国の民主化】

グランサム連邦の各国が、独自の文化や風習を発展させる一方、どの国も国王においては世襲制が一般的で、此度のキルベガン共和国におけるクーデターや革命でもない限り、王の座は親から子へと受け継がれるのが常識だった

国によって呼び名に違いはあるものの、いわゆる首相や大臣といった要職においても世襲制が用いられ、大臣の家は先祖代々が大臣を務めることが多かった

今回、グランツたちの活躍によって新たに生まれ変わったキルベガン共和国で採用された選挙制度は、長いグランサム連邦の歴史の中では初となる画期的な制度で、これがこの後、グランサム連邦各国の民主化へと繋がることになった

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