【#29 人の言葉 神の言葉】

-5107年 3月19日 21:31-


キルベガン領 チャカリヤ山 五合目付近



「帰らない…アイン…クタ…心配…」

「こんな時間まで戻って来ねぇってことは、無事にイダゴ村に着いて、今夜はそこで泊まるんだろ…きっと美味い飯にもありついて…ズルいよな自分たちばっか!」

パルマとブンバは焚き火の前に座り、火で炙った干し肉にかぶりついていた。

「アインが言ってたように、明日の朝まで帰って来なかったら、俺らもイダゴ村に行ってみよう。ま、アインのことだ、心配いらねぇとは思うけどよ」


パルマとブンバが食事を終え、焚き火の火を消し、寝る準備を始めたときだ。

何かの気配を感じ、山頂の方へ顔を向けてブンバは言った。

「何か来る…ブンバ…感じる…」

「アインたちが帰ってきたのか?」

「違う…何か…別の…」

「え?…何かって何?もしかして異形種?」

パルマはブンバの巨体の陰に隠れ、ブンバの見つめる先に自分も目を凝らした。

すると、何かの群れが山道をゆっくり下って近づいて来る。

人の形をしたその数は16体。全身を毛で覆われていることが人ではない事実を物語っていた。

「何だアレ?…人間じゃねぇけど、毛むくじゃらだからシャドーでもねぇし…」

「分からない…でも…敵意ない…ブンバ…感じる…」

「敵意がないって?それにしちゃエライ怖い雰囲気だけど…先頭のやつ、目が赤く光ってるし…ん?目が赤く光るって…前に何かで聞いたな…何だっけ?」

毛むくじゃらの16体は、パルマとブンバの手前で止まった。

「ブフーッ!…」

ブンバは両腕を広げ、警戒態勢をとる。

「……我々はこの聖なる山を守護する、イエティーの一族だ」

群れの長は人間の言葉でそう言った。

「ひ、人の言葉を話した…」

パルマは驚き、少しの間ポカンと口を開けたまま固まっていた。

「我々に歯向かわなければ、こちらも攻撃するつもりはない。我々の一族であるお前を迎えにきただけだ…」

「え?!お、俺?俺って実はお前達の一族だったの?どおりで何かこう、人と違うっつーか、得体の知れない力を秘めてるっつーか…そんな感じがしてたんだよな…」

「さあ、我々と行こう」

群れの長はそう言いながら、勘違いも甚だしいパルマを完全に無視して、片手をブンバに差し伸べた。

ブンバは意味が分からず、差し伸べられた手を避けるように一歩後ろに身を引いた。

「ちょ!ちょっと待て!ブンバがお前達の一族だって?何言ってんだ、ブンバは見ての通り人間で、俺達の仲間だ!」

「戸惑うのも無理はない…体が大きいだけで見た目は完全に人間だからな…。しかし我ら一族の血が入っているのも紛れもない事実なのだ。目を閉じ、精神を集中すれば、心に語りかけてくる神の言葉が聞こえてくることがお前もあるだろう…神の言葉を聞けるのも我ら一族だけが持つ特別な力なのだ」

「聞こえる…ときどき…でも違う…ブンバ…人間…パンマ…仲間…」

ブンバは首を横に振り、人間であることを主張した。

「あくまで拒むなら仕方ない…不本意だが、力ずくで連れて行くまでだ」

長は周りのイエティーに合図を送ると、15体のイエティーがブンバを抑え込みにかかる。

15体のイエティーは、それぞれが指や手首を失っていた。中には片腕を失っているものもいた。

それでもイエティーたちの片腕だけとは思えない想像を絶する力強さで、ブンバは簡単に取り抑えられてしまう。

パルマはブルージュの弓を構えた。

「ブンバを放せ」

「人の言葉を話せるのも意味を理解できるのも私だけ…他の者は私の指示に従っているだけだ」

「それなら今すぐブンバを放すよう命じろ」

パルマはイエティーの長に向けて、弓を引き絞った。

「私に攻撃を仕掛けるのか?無駄なことだぞ?」

「ブルージュの弓をナメんなよ?こんな至近距離で避けられるとでも思ってんのか?後悔しやがれ!!」

パルマはブルージュの弓を放った。


驚愕の世界だった。


長は、ほんの少しだけ体を逸らして矢の射線から逃れると、ブルージュの弓から放たれた高速の矢を、いとも容易く掴んでみせた。

「!!……掴んだだと?」

パルマは一瞬で勝ち目がないことを悟った。

「歯向かわなければ我々からは攻撃しないと言ったことを忘れたか?攻撃を仕掛けたということが何を意味するか解るな?」

パルマは死を覚悟し、ヘナヘナと尻もちをついた。

長の目の奥が赤く光る。

振り上げた手の先には、月の光を受けて、鋭く長い爪が鈍く輝いていた。


「ブバァァァァーッ!!」


雄叫びを上げたのはブンバだった。

ブンバは、体を抑えつけていた15体のイエティーを、放り投げ、蹴り飛ばし、殴り倒し、体の自由を取り戻すと同時に、長に突進して行った。

パルマに向けて振り下ろされた長の腕を寸前で受け止め、もう片方の腕も抑えつける。

期せずしてブンバと長の力比べが始まった。

「私の力と張り合えるとは…やはり我が一族の証だ…」

「パンマ…仲間…傷付けるやつ…許さない…」

投げ飛ばされ、殴り倒されたイエティーたちが立ち上がり、一斉にブンバに襲いかかろうとするのを、長は一喝して止めた。

「手を出すな!!我が一族の問題は、長である私がケリをつける!手出しは許さぬ!!」

「ブフーッ!…グフーッ!…」

ブンバと長は、お互い頭と頭を付け合わせ、歯をくいしばり、両者とも一歩も譲らぬ力比べを展開した。

互角の勝負はしばらく続き、こうなると、先に息の上がった方が負ける。

戦況を見守るパルマの目には、明らかにブンバの限界が近いように映った。

ブンバの全身から吹き出た汗は蒸発し、体から立ち上る湯気が月明かりに照らされ白くハッキリ確認できる。

力の限界を迎えつつある両腕は、プルプルと痙攣していた。

「ヤベェ…このまま行ったらブンバは負けちまう…かと言って俺が手ぇ出したら他のイエティーが黙ってねぇだろうし…どうすりゃイイんだ……こんなときアインが…アインさえ居てくれたら…」

そんなパルマの願いが天に通じたのか、遠くから叫び声が聞こえてきた。


「…パルマ!ブンバ!やめろ!そいつと戦っちゃダメだぁ!!」


それはアインの声だった。

アインは夜の山道を駆け下りてきた。

もちろんククタも一緒だ。

そしてアインは、背中にグナ婆さんを背負っていた。

「ア…ア…アイ~ンっっ!!」

パルマは安心し、全身の力が抜けた。

「どうやら勝負はおあずけのようだ」

「ブフ~…フゥ~…フゥ~…」

長とブンバは組んでいた手を放し、お互いに距離をとる。

息の上がったブンバに対し、長はまだ余裕があるように見えた。

「パルマ、ブンバ、大丈夫か?ケガはないか?」

「大丈夫だけど…戦っちゃダメってどーゆーことだよ?ブンバがこいつらの一族だとかワケ分からねぇこと言って、連れ去ろうとしてんだぜ?」

アインは、背負っていたグナ婆さんをそっと地面に下ろしてから言った。

「そいつの言ってることは事実らしい…」

「何だって!?」

「こちらはイダゴ村の降霊術師であり語部でもあるグナさん、イエティーの皆さんも知ってますよね?」

ククタは、パルマと長に向かって説明した。

「ああ、知っている。以前、助けたことがある…」

「あの時はありがとうネ、ほんとに助かったよ☆」

「何でわざわざそのお婆さんまでココに連れて来たんだよ?」

「連れて来なきゃなんねぇ理由があったからだ…」

「理由?」

「俺とククタは、グナ婆さんとイエティーの出会いの話を聞いた。その後、降霊をしてもらったんだ」

「わかってるよ、親父だろ?」

「もちろん親父とも話が出来た。でも、もう一人、お願いしたんだ」

「誰を?ククタのおふくろさんか?」

「違う…」

アインはブンバを見つめて言った。


「…ブンバの母親だ」





※※RENEGADES ひとくちメモ※※


今回もまたネタがないので…

RENEGADES執筆のキッカケを語ろうかと…(^^;)

そもそも短編~中編の空想小説ばかり書いてたわけですが、どうも世間は異世界ファンタジー的な話が人気なのかな…と思い、ほな自分も書いてみよ♪的なノリで書き始めたのが事の始まりで…

だけど、魔法とか無双的なものじゃなく、どちらかと言えば現実の人間的な登場人物の方が実感わくよな…とゆー反骨精神みたいなものがありまして…

極力現実的に…でも異世界っぽく…ってな考えから、世界観だけ変化をつけてみようとした結果が、このRENEGADESなのであります

今までもこれからも、ほぼ先の展開など考えず、ただ思いつきで書き進めて行くので、自分自身どんな結末になるのか分かってなかったりします…


こんな感じですが…

皆さんに読んでいただけることに感謝して、一人でも多くの方に楽しんでもらえるように、これからも頑張って書いていきます☆

                飛鴻


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