【#22 交錯】
-5107年 3月15日 15:45-
キルベガン共和国 シャロン
アインたち一行は、思ったよりも少し早くシャロンの町に到着した。
アインたちにとって、ソミュールの町も驚くほど大きな町だったが、ここシャロンの町は更に比較にならないほど発展した大都会だった。
「す…すごい町ですね…」
「見ろよ、3階建てや4階建ての建物ばっかりだ…」
「人も何人いるんだ…」
アイン、パルマ、ククタの3人は一様に驚きを隠せないでいた。
「ブンバ…お腹…すいた…」
ブンバだけは、町の規模よりも腹の減り具合の方が気になるようだった。
確かに、通りに何件も並ぶ屋台からは、空腹を刺激するイイ匂いが漂ってくる。
「俺も小腹が空いたなぁ… 屋台で何か食おうぜ、アイン」
「そうだな、何か買うか… まだ金は残ってるし、ラローマ村で貰ったやつは、いざって時のために取っておいた方がいいしな」
「そうですね、保存がきく物がほとんどですから、これは非常食に」
一行は道端のスペースに馬車を停め、アインとパルマが買い物に、ククタとブンバは馬と馬車の荷物の見張りを兼ねてお留守番ということになった。
馬を降りた二人は、歩きながら次々と屋台を見て回った。
どの屋台も美味そうな物ばかりで目移りしてしまう。中には、初めて目にする食材や聞いたことのない料理も数多く点在していた。
「なんか全部食いてぇな☆」
「せっかくだから食ったことない物にしようぜ☆」
そこへ、屋台の兄ちゃんが威勢良く声を掛けてくる。
「よぉ!そこのお兄ちゃん!見掛けねぇ顔だな…旅のもんか?だったら騙されたと思ってコレ食ってみなよ♪」
そこで売られていたのは、米を擂り潰した丸くて薄い生地で、野菜と焼いた肉とヤキソバのような麺を挟んだ物だった。
ケバブやタコスに似たそれは、ここシャロンの名物料理らしく、確かにそこかしこに同じ物を売ってる屋台があった。
「これはペヤンって名物料理なんだがな、ウチの店のは、他の店と一味も二味も違うんだ。米は新米、野菜は採れたて産地直送、肉は最上級のシャロン牛を使ってる、他の店みてぇに安い野菜と肉と米じゃねぇってことよ☆なんなら他の店のと食べ比べてもらってもイイぜ?もし他の店の方が美味かったら、全額返金してやるよ☆どうだい?」
店主の兄ちゃんの自信に満ちた売り文句に、アインは笑って答えた。
「わかった♪そこまでオススメするなら信じよう♪じゃあ、それを5つくれ♪」
「5つ?ひとつ多くね?」
「ブンバは1つじゃ足りねぇだろ…」
「それな」
「OK、5つだな♪5つで1500グランだ♪サービスで全部大盛りにしといてやるよ☆」
「そりゃありがてぇ☆ お兄さん、話わかるねぇ♪」
「はいよ!ペヤン5つ♪ 熱いうちに食った方が美味いぞ☆ 毎度あり!」
アインとパルマはペヤン5つを受け取ると、ククタとブンバの待つ方向へ戻って行った。
アインたちと入れ替わるように、一人の男が屋台にやってきた。
店主の兄ちゃんは相変わらずの威勢で対応する。
「へい、らっしゃい!何にしやしょう!?」
「熱いコーヒーを」
「あいにくウチはお茶しか置いてねぇんでさぁ…」
「じゃあ、お茶を… 熱々のを頼む」
「へい!毎度あり♪50グランになります」
店主はお茶を渡し、金を受け取る。
受け取ったのは、10グラン硬貨5枚と、小さく四つ折りにされた2枚の紙だった。
「………」
「バジャル閣下からの言伝てと、人相書きでございます……グランツ様」
男は店主と目を合わさないように、熱いお茶をすすりながら小声で伝えた。
店主は、他から見えないように屋台の陰に隠しながら紙を広げて目を通す。
「………ほう、バジャルのやつ、やたら躍起になってこのアインて王子を探してるみたいだな…見付けたら殺しても構わんとさ♪」
「人相書きを御覧になって下さい、グランツ様…」
男は屋台にもたれかかって表通りを行き交う人々に目をやりながら、店主に背を向け独り言のように呟いた。
「こ……これは………!」
「先ほどの二人組の片割れに間違いないかと…」
「銀の髪色も、左目の下にある傷痕も… 間違いない、さっきの兄ちゃんだ」
「殺りますか?」
「…………いや、手分けして尾行しろ。動向を探って逐一報告するように」
「了解しました…」
男はお茶をすすりながら、人混みの中へ消えていった。
「初めて食べましたけど、これ美味しいですね!この辺りの名物料理なんでしょうか?」
「確か、パヤンだかペヤンて名前の名物料理らしいぞ」
「しまったぁ~…こんなに美味いんなら、もっと買ってくりゃよかった…」
三人は、初めて食べるペヤンに舌鼓を打った。
「ブンバ…美味しい…これ…好き…昔から…」
ブンバは2口で平らげた。
「??……今、昔からって言ったか?ブンバは前にも食べたことあるのか?」
アインは鋭い質問をする。
「食べた…昔…これ…好き…」
「昔って…どのくらい?」
「ブンバ…子供…」
「ひょっとしてブンバが生まれたのって、この町なんじゃね?」
パルマもやっと会話の流れを飲み込めたらしい。
「生まれた…違う…でも…ブンバ…知ってる…」
「ということは…この町に捨てられたんじゃないでしょうか?…そして、この町から逃げ出して、ラローマの滝に…」
ククタの洞察力も相変わらず鋭い。
「その可能性が高いかもな…じゃあブンバ、自分が生まれた町のことは覚えてるか?」
アインは更にツッコむ。
「ブンバ…知ってる…遠い…記憶…」
「その町の名前は?」
「イダゴ…」
「!!!!………」
アインもククタも驚いた。
パルマはあまりの驚きに、頬張ってたペヤンを豪快に吹き出した。
「イダゴ村…」
「まさか…ブンバがイダゴ村の出身だったなんて…」
「あ~あ……もったいねぇ…」
ブンバは、なぜ三人が驚いているか知る由もなく、首を傾げてキョトンとしている。
「ブンバ、イダゴ村がどこにあるか知ってるか?思い出せるか?」
「知ってる…高い山…」
ブンバは辺りを見回すと、北の方角に見える遥か彼方の山脈を指差して言った。
「イダゴ…あの山…頂上…」
「イダゴ村は…あの山の頂上ですか…」
「遠いなぁ…高いなぁ…山登りシンドそうだなぁ…」
「わざわざ聴き込みする手前が省けたんだから良かったじゃねぇか☆ でも、まさか仲間が答えを知ってたとはな☆」
「それはそうだけどよ…あんな高い山のテッペンまで行くんなら、もっと厚手の上着とか買い揃えねぇと寒いんじゃねーか?」
「そうですね、標高が100m高くなると気温は1℃下がりますから… あの山だと1000mは優に越えてそうですね」
「てことは……ここらより10℃以上気温が低いってことか… 幸い山頂に雪はないみたいだが…防寒対策はしといた方が良さそうだな」
アインたちは有り金のほとんどをはたいて、服や靴や手袋といった防寒に役立ちそうな物を買い揃えた。
「あ~あ…またスッカラカンになっちまったよ… もっとペヤン食いたかったなぁ…」
毎度お馴染みパルマのぼやきを残して、アイン一行は滞在時間わずか数時間でシャロンの町を後にした。
「グランツ様、どうやら奴らは北へ向かったようです。防寒用の衣類を買い込んでいたようなので、おそらくはチャカリヤ山脈を越えてバラザードへ向かったのではないかと…」
「バラザードか……あいつら金は無さそうだったからな、一攫千金でも狙ってるのかも知れん… まぁ、無事にチャカリヤ山脈を越えることが出来れば…の話だがな…」
「尾行を続けますか?」
「止めておけ、こちらまでイエティーに殺られては犬死にだ…」
「では、バジャル閣下には何と報告を?」
グランツは、しばし思案を巡らせてから答えた。
「奴らは『西へ』向かったと報告しておけ」
「西?…でございますか? 西へ向かえば、やがてタラモア領内ですが…」
「それで良い…領内に潜入したかも知れないと思わせるのが狙いだ。自国へ潜入されたとなれば、バジャルは国内の警護を固めざるを得なくなる…つまり、しばらくの間は他国へ侵攻という馬鹿げた考えは鳴りを潜める…」
「時間稼ぎになるということですか…」
「バジャルが血眼になって探しているアイン王子というカード…偶然転がり込んできたカードを利用しない手はない…」
「了解しました。では、急ぎバジャル閣下へ使者を…」
(ロシュフォールのアイン王子か… 若ぇのにイイ目をしてやがった… あいつは何かドデカイ事をやってくれそうだ…いや、やってくれなきゃ困るんだ…我々反政府軍のために… それまで利用できる限り利用させてもらうぜ、悪く思うなよ)
グランツは、遥か彼方のチャカリヤ山脈を見つめていた…
※※RENEGADES ひとくちメモ※※
【バラザード王国】
国王=アレンツォ-パルバーニ
人口=11000人
通称、商業とギャンブルの国
グランサム連邦で唯一、公式ギャンブルとカジノを認めている
王をはじめとする国の要職全員がマフィアの一員で構成されているため、処罰や報復を恐れ、連邦中からギャンブル好きのならず者が集まる割に治安は安定している
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