【#23 招かれざる客】

-5107年 3月15日 19:54- 


イグナリナ王国 イグナリナ城 城門前



イグナリナ城門前の広場は、いつになく騒然としていた。


普段であれば、夜の帳が降りたこの時間、見張り役の警護兵数人がいるだけの場所に、今はイグナリナ兵50人近くが輪になっている。

その輪の中央、多くの篝火に照らされた中心に、招かれざる客がいた。

左右にそれぞれ2騎の騎馬兵を従え、背後を2機の鉄騎兵に守られた人物…タラモア帝国のモスタール伯爵だった。

イグナリナ兵は、槍を構え、弓を引き、剣を抜き、陣形を保ったまま招かれざる客との応戦の指示を待っていた。


やがて、重厚な音を立てて城門が開くと、四方を近衛兵に警護されてイグルーリ国王が現れた。

「おやおや、こんな時間に誰かと思えば…お主であったか、モスタール宰相。いや、今はタラモア帝国モスタール伯爵と申したか?」

イグルーリ国王はイヤミたっぷりに言った。

「挨拶にしては、いささか無礼ですな…イグルーリ国王」

「大恩ある祖国を敵に売り渡すような者に尽くす礼儀など持ち合わせておらんのでな」

「さようでございますか…」

「して、今日はどういった用向きじゃ?まさか腹が減ってるから何か食わせてくれ!とでも言うのかな?」

「お戯れを…。べつに事を構えようと思ってる訳ではない、いくつか聞きたいことがあって参ったまで…」

「聞きたいこと?その割には大層なお供を連れておるのぉ…それを見せびらかしに来たのかと思っとったわ」

「この鉄騎兵のことですかな?お望みとあらば、次回はもっと多くの鉄騎兵を引き連れて参りますぞ?」

「いや、それは遠慮しておこう…ワシは金属アレルギーでな、そんな物、見てるだけで全身が痒くなるわぃ…」

「イグルーリ国王は金属アレルギー…心に書き留めておきましょう。ところで本題ですが、最近、アイン王子やエルドレッド兵長がお越しになりませんでしたかな?」

「久しぶりに聞く名前じゃな…アイン王子ももう立派になられたであろう…エルドレッド兵長は、どこかの誰かと違って義に熱い男じゃ、ロシュフォールと共に…と思っておったが、生きておるのか?」

イグルーリ国王は、あくまでシラを切った。

「白々しい嘘は、いずれ御自身の首を絞めることになりかねませんぞ?イグルーリ国王」

「義を貫いて死ぬるは本望じゃ!どこぞの男のように、魂を売ってまで生き長らえようとするほど、安っぽい命ではないわい!ワッハッハッハ♪」

「くっ!………」

「それとも何か?タラモアはそうまでしてアイン王子とエルドレッド兵長の行方を知りたいと?」

「……………」

「懸賞金まで付けて連邦中を探し回ってるようじゃが、情報が集まらんのも無理はない」

「……何が言いたい?」

「お主らが、あちこち撒き散らしているビラがワシの手元にも届いておる… お主はそれを見たことがあるか? ほら、これじゃ…」

イグルーリ国王はビラをかざして指し示すと、近衛兵の一人にそれをモスタールに渡すよう言いつける。

ビラを受け取った近衛兵が走ってモスタールに手渡すと、モスタールはそれをしげしげと眺めた。

「お主は初めて目にする物かも知れんな、なにせ異形種に襲われんが為に、森の中を何日もさまよっていたようじゃからな… どうじゃ?ワシの読みもなかなか鋭いじゃろ?」

「……………」

「その人相書き……それで二人の情報が集まると思うか?ワッハッハ」

モスタールの顔は、怒りと恥ずかしさで見る見る赤くなった。

「タラモアの絵師は芸術家揃いのようじゃな♪ワッハッハッハ」

「私自身のことならまだしも、タラモアを侮辱するにも程がありますぞ、イグルーリ国王…」

「すまん、すまん、あまりに愉快でつい口が過ぎたようじゃ♪それにしてもタラモアは、アイン王子を何歳とお思いか?もう立派は青年ですぞ?その人相書きは、どう見ても10かそこらの子供じゃ♪ワッハッハ」

モスタールはビラをグシャグシャに丸めて投げ捨てた。

「エルドレッド兵長にいたっては、どこぞの貴公子をモデルにしたのですかな?エルドレッドの愛馬が白馬とは… それに、ハンサムには違いないにしても、彼の一番の特徴が間違って描かれておる…それはお主も知っておろう?」

「もちろん… エルドレッドは隻眼だ…」

「そうじゃ、だから常に左目にはブリンカーを付けておる。それがどうじゃ、その人相書きのエルドレッドは、両目とも二重の大きな目をしておる…それでは見付かるものも見付かるまいて♪ワッハッハ」

「この件は早急に帝国に伝えさせてもらおう…」

「その方が良いであろうな♪今のままでは永久に二人は見付からんじゃろ♪」

「必ず二人とも見つけ出しますよ…イグルーリ国王が城内に匿ってなければ…ですが…」

「お主もくどいのぉ…それほど疑わしいならば、またいつでも来るが良い… ただし次に来るときは、ちゃんと手土産くらい持って参れよ?ワッハッハ☆」

「今回はこれで失礼するが、確かに此度は土産も持たずに申し訳なかった…その代わりと言っては何だが、土産代わりに最後にイイ物をお見せしよう…」

モスタールは何やら指示を出す。

すると、鉄騎兵の1機が後ろを向き、両肩に付いた2本の筒状の物が角度を変えた。

次の瞬間、

ドンッ!!…

という爆発音とともに砲弾が発射される。

2秒後、200m先の城壁の角にあった物見櫓が、木っ端微塵に吹き飛んだ。

「な!…なんと…」

イグルーリ国王も、兵士たちも、その凄まじい破壊力と正確性に驚きを隠せなかった。

「次にお会いする時は鉄騎兵を100機ほど引き連れて参りましょう。手土産はそうですな…砲弾を1000発ほど持って… それではまた☆」

モスタールは、勝ち誇った笑いを浮かべてイグナリナ城を後にした。


(う~ん…恐るべき攻撃力じゃ… まさか、あれほどまでにタラモアの軍事力が増強されておるとは… このままでは、このグランサム連邦がタラモアの一国独裁政策で支配されてしまう… 来月の連邦会議で何か策を打ち出さなくては…)


イグルーリ国王の不安は大きくなる一方だった…。



それから数日後、アイン王子の新しい人相書きが、さらに数日後、エルドレッド兵長の新しい人相書きが、連邦中に撒き散らされた。




※※RENEGADES ひとくちメモ※※


【グランサム連邦会議】

毎年4月の第一月曜日から三日間にわたり開催されるグランサム連邦7ヵ国(現在は6ヵ国)の王が集まる会議

開催場所は首長国であるタラモア帝国

関税率の決定や、さまざまな協定、連邦合同法案などが話し合われる

タラモア帝国のロシュフォール侵攻を受け、今年の連邦会議開催に異議を唱える国が多い中、首長国であるタラモアが中止を宣言していないため、各国とも開催の方向で事が進んでいる


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