【#68 夢のあと】
-5107年 3月28日 02:21-
ホーブロー神国 チェチェヤ大聖堂
やはり、力比べは枢機卿に分があった。
ティラーナ神父の腕を受け止めた枢機卿は、その腕から難なく剣を奪う。しかしそれもティラーナ神父の作戦のうちだった。
ティラーナ神父は、素早く枢機卿の背後に回り込むと、長い舌を巻き付けて枢機卿の視界を封じ、4本の腕を羽交い締めにして押さえ込んだのだ。
「放せ!大司教!!これでは思うように攻撃できん!!」
「放すわけなかろう!!貴様はここで私と共に死ぬのだ! アイン王子!押さえ込んでる今のうちに、我々の首をはねてくれ!!」
「気でも振れたか、大司教……我々は神の力を得たのだぞ!」
「死者の復活など神への冒涜!我々はこの世に存在してはならんのだ!!」
「ぬぅぅぅ……おのれ~ッッ!!」
枢機卿は、再生した舌と、伸縮自在の爪と腕で攻撃を繰り出すが、視界が封じられた状態の闇雲な攻撃がアインたちに当たるはずもない。
「目が見えなきゃ相手の位置すら掴めねぇのか?それのどこが神の力なんだ?……俺の知ってるアナムル王国のおっさんは、盲目でも百発百中だぞ……」
声を頼りに放たれた爪も腕も舌も、アインに簡単に斬り捨てられる。
「そんな幼稚な攻撃が当たるかよ……なめんじゃねぇぞ、クソジジイ」
しかし、爪も腕も舌も、何度斬り捨てても瞬時に再生してしまう。
斬り捨てては再生し、斬り捨てては再生し、その状況がしばらく続いた。
「アイン王子!早くトドメを刺してくれ!!力では枢機卿が上……いつまで押さえ込んでられるか分からん!早く我々の首をはねるのだ!!」
「わかったよ、おっさん……」
必殺の構えをとるアインに、パルマとククタが待ったをかける。
「待て!アイン!枢機卿はともかく、ティラーナ神父はミカの親父さんだぞ…」
「なんとかティラーナ神父だけ助け出す手段を考えましょう!」
「悠長に考えてるヒマはねぇんだ……早くブッ殺してミカを連れ出さねぇと、大聖堂そのものが焼け落ちちまう」
次々と襲いかかる腕や舌を斬り捨てながらアインは言った。
ゾンビの屍から燃え広がった炎は壁を伝って天井まで広がり、天井に描かれた荘厳な絵画は、もはや何が描かれていたか判らない。
絵具の成分が炎の成長を加速させ、炎は瞬く間に天井全体を覆い、大聖堂の中を火の粉が舞っていた。
「我々の首をはねたところで、瞬時に身体は再生するのだぞ♪腕や舌の再生より時間はかかるかも知れんがな♪」
「そうだよ、アイン……すぐに再生しちまうのに、どうやって倒すんだよ?」
「フン♪……」
パルマの問いかけに、アインは余裕綽々に答える。
「こいつの弱点はわかってる、こいつをブッ殺す方法もな♪こいつ自ら教えてくれたんだ♪本人は気付いてねぇだろうがな」
「苦し紛れに何をいい加減のことを……」
「いい加減なもんか♪てめぇ、さっき神父のおっさんを殺そうとしたとき、尖った舌で顔を攻撃したよな?神父のおっさんもてめぇの頭を狙った……それをてめぇはどうした?動きを封じてた俺たちを手放してまで防ぎにいったよな?つまり、てめぇの弱点は頭なんだよ♪無意識に弱点を狙い、無意識に弱点を庇ったんだ」
戦いの才能に秀でたアインは、相手の動きから即座に弱点を見いだしていた。
「弱点がわかったところで、お主にはどうすることも出来まい。体はすぐに再生し、傷口も元に戻るのだ」
「それはどうかな?言うほど難しいことじゃねぇと思うぜ?腕も舌も、切られた場所からまた生えてくるだけで、一度切り離された部分が再びくっつくわけじゃねぇ……神父のおっさんに細切れにされた舌を見てみろよ、それ自体が再生するこたぁねぇんだからよ」
「何が言いたい?首をはねても、そこから体が再生するのが理解出来ぬのか?思った以上に頭が弱いようだな…」
「頭が弱いのはてめぇの方だクソジジイ……じゃあその頭を、再生出来ねぇくらい細切れにされても生きてられんのか?」
「な………そんなこと出来るはずが…」
「出来るか出来ねぇか、この世の見納めにその目でしっかり確かめろ……って、視界は塞がれてるんだったな♪」
「そんなこと出来るはずがない!私は神の力を得たのだ!こんな奴に負けるはずがないのだ!!」
枢機卿は、腕と舌を闇雲に振り回し攻撃してくる。しかし、そのどれもがアインにことごとく細切れにされた。
「悪あがきはよせ、みっともねぇ……。そろそろ地獄に送ってやるよ、クソジジイ」
アインは、襲いかかる腕と舌を細切れにしながら一気に距離を詰める。アインの全力の踏み込みは、腕と舌の再生速度をはるかに上回っていた。
バシュッッ!!
枢機卿の首は、巻き付いたティラーナ神父の舌もろとも一刀両断された。
「神父のおっさん、離れてろ!!」
ザン!ザン!ザン!ザン!ザン!ザン!………
アインの振るう剣は常人とは思えぬスピードで、体から切り離された枢機卿の頭を斬りつける。
そのスピードは、跳ね飛んだ頭が床に落ちるまでの間に十数回の斬撃を与えるほど凄まじく、床に落ちたのは原形すら分からない肉の塊だった…。
「大丈夫か、おっさん」
「ああ、大丈夫だ…舌もこの通り再生している」
「さすがだぜ、アイン♪枢機卿だけブッ殺して、ミカの親父さんは助けちまうんだからよ♪」
「やっぱりアインさんの強さは世界一です!」
「今のボスの攻撃は、わずか1秒足らずの間に17回の攻撃によって、敵の頭部は65個の肉塊に分断されました♪凄まじい攻撃だったので、映像をメモリに記録しておきます♪」
「そんなことより、このあとミカの親父さんをどうやって助けるんだよ?」
「ティラーナ神父、元に戻す薬はないんですか?解毒剤じゃないけど、反作用の薬とか」
「でもよ、元に戻るってことは死んじまうんじゃねーの?」
ティラーナ神父は優しく、静かに微笑んだ。
「皆ありがとう。君たちの強さと優しさで私は救われた。残念ながら、元に戻る薬はない……。彼の言う通り、仮に元に戻ったとしても私は一度死んだ身だ……この大聖堂と共に、私も地獄に落ちよう」
「本気でそれを望んでんのか、おっさん…」
「ああ、本気だ。リスト派の未来のためとは言え、奇跡を待ち続けた15年もの間、多くの同胞を見殺しにせざるを得なかった……彼らの無念を思えば、私は地獄に落ちて当然だ」
「何言ってんだ!それじゃあ助けた意味がねぇ!残されたミカがどう思うか分かんねぇのか!?」
パルマはティラーナ神父に怒りをぶつけた。
「大丈夫、ミカは心の強い人間だ。それに、ミカは私がここに居ることを知らない……15年前にスラム派に殺されたと今でも信じている」
「でも、ティラーナ神父が手紙を書いたから、ミカさんはここへ来たんですよね?」
「その手紙に私の名前は記していない、『ティラーナ神父の形見の品を預かっている』と書いただけだ」
「だとしても、15年ぶりに再会できたんだろ?一目でもいいから会いたいとか、抱きしめたいとか思わねぇのか?あんたミカの親父さんだろ!?」
「分かってくれ、若者よ。本音を言えば、今すぐにでも抱きしめたい!また昔のように共に暮らしたい!……しかし、このような異形に成り果てた姿を娘に見せたくないのだ……。記憶に残る最後の姿が…こんな姿では……」
ティラーナ神父の頬を涙が伝った。
アインもパルマもククタも、返す言葉が見当たらなかった…。
「おっさんの想いはよく分かった。だから俺たちに最後の手伝いをさせてくれ。リスト派の皆が信じた奇跡を完成させよう!」
「スラム派の殲滅に協力するんですね!」
「とても有難い申し出だが、一斉蜂起の合図になる白い鳩は3羽とも枢機卿に殺されてしまった。一斉蜂起はタイミングが大切なのだ……タイミングが狂えば、成功の可能性は低くなる」
三人が頭を抱えたとき、三男が言った。
「白い鳩ならいますよ?1羽ですけど…」
三男の頭がパカッ!と開くと、中から白い鳩が現れた。
「そうか!みっちゃんの頭の中に鳩がいること、すっかり忘れてました☆」
「確かに♪でかしたぞミッチー♪……でもあの鳩、頭ん中でどうやって飼ってんだ?エサや水は?フンの始末は?……」
「これで光が差してきたな♪1羽でも大丈夫か?おっさん」
「今日は一日中、奇跡の到来を信じてリスト派の仲間が遠くからこの大聖堂を監視しています。1羽でも飛び立つのが確認されれば、そこから狼煙で合図が送られる手筈になっています。きっと大丈夫!そう信じましょう」
三男は頭から鳩を取り出すと、
「これからは大自然の中で自由に暮らせよ☆」
と、鳩の頭をそっと数回撫でてから解き放った。
白い鳩は、火の粉の舞う大聖堂の中を何回か旋回したあと、熱で割れたステンドグラスの窓から、大空へ飛び立っていった。
「これであとは無事に確認されることを祈るだけですね♪」
全員がホッと胸を撫で下ろした。その時だ、
バキバキッッ!……
という音とともに、焼け落ちた巨大な柱が天井から降ってきた。
「危ないッッ!!」
ティラーナ神父は4本の腕でアインたち四人を突き飛ばす。
ドーン!……という音を立て、巨大な柱は四人と神父の間に落ちた。
「みんな早くミカを連れて外に出るんだ!祭壇の後ろに扉がある!扉を出て、通路を進めば外に出られる!もう天井が崩れる!早く行け!!」
ティラーナ神父が叫ぶ。
「みんな急げ!外に出ろ!!」
アインも叫んだ。
三男が眠り続けるミカを抱きかかえ、パルマとククタも後に続いて祭壇の後ろの扉を出ていった。
その場には、燃え盛る巨大な柱を挟んで、アインとティラーナ神父が向かい合っていた。
「これでいいんだな?おっさん……」
「これでいいのだ……これが運命だ……」
「奇跡が起こってスラム派を排除できたとしても、おっさん無しでその後どうする?」
「心配ない。私の後はポロルが継いでくれる。リスト派の仲間たちも、全会一致でそれを承認している。まだ若いポロルには少々荷が重いかも知れないが…」
「わかった。その旨は俺から伝えよう」
「もう一つ頼みがある……ミカのことだ」
「ミカはリスト教の聖女なんだろ?これから再興するリスト派の旗頭として、ポロルと一緒にホーブローで……」
「いや、それは違う」
ティラーナ神父は、アインの言葉を遮った。
「ミカはこれからもアイン王子のそばにおいてやってほしい。聖女としての力が、この先のアイン王子の旅に役立つのはもちろんだが………父親として、娘の幸せを考えてのことだ」
「??………何の話だ?」
「私の娘は……ミカはアイン王子を愛している…信じがたい話だが、聖女の血を口にしたとき、その想いまで伝わってきたのだ」
「……………」
「娘の幸せのため、そして、ミカの持つ聖女の力を、ホーブローのためだけではなく世界のために役立てるよう、共に旅を続けさせてやってくれ。私の最後の願いだ、きいてもらえるか?アイン王子」
「……わかった、ミカは共に連れて行く」
「ありがとう、これで私も安心して地獄に行ける。ミカは強力な薬で眠らされている……目を覚ますには、この薬が必要だ」
ティラーナ神父は、ミカの物と似た腰袋から、小さな薬玉を投げてよこした。
「その薬玉を飲ませても、目覚めるには半日ほどかかるはすだ」
「わかった」
「それともう一つ……これを形見に……」
首から外したリスト教の十字架のペンダントも投げてよこす。
「我が儘な申し出だが、ミカが目覚める前に、ミカの首にそのペンダントをかけると約束してくれないか」
「わかった、約束しよう」
「ありがとう、アイン王子。これで私の願いは全て叶った……もう時間がない、アイン王子も早く外へ」
「………お別れだな、おっさん」
「ミカのこと、くれぐれもよろしく頼む」
「………安心しろ」
アインは断腸の思いでその場を後にした。
アインは通路を抜けて外に出る。
そこには、心配そうな表情のパルマとククタ、ミカを抱きかかえた三男が待っていた。
「ミカの親父さんは?」
パルマは悲痛な表情でアインに問う。
アインは何も答えなかった……。
その直後。
チェチェヤ大聖堂は、燃え盛る炎に包まれ、轟音とともに崩れ落ちていった……
※※RENEGADES ひとくちメモ※※
【近況報告】
今回もネタがないので、私の近況報告を…m(_ _)m
つい先日、会社の健康診断の結果が返ってきたのですが、案の定とゆーか、今回もしっかり診断4の「要精密検査」が3項目もありまして……
血中脂質、腎機能、肝機能、この3項目
中でも血中脂質は5年連続の診断4なのですが、自腹で精密検査なんか受けるはずもなく、今日に到るわけであります…
歳とともに健康は損なわれるのが世の常とは言え、健康であり続けたいと願うのも人の性……
「だったら、しっかり検査受けて、治療すべきならちゃんと治療しろよ!」
ごもっともです……m(_ _)m
健康に留意しつつ、今後も執筆活動に励みたいと思います♪
皆さんも健康第一で☆(^^)
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