【#25 ガバドという男】

-5107年 3月18日 7:03-


キルベガン領 チャカリヤ山脈 山麓



「よう!兄ちゃん!ロリポリ相手に人間様の武器で立ち向かうなんざ無謀過ぎまっせ!その根性だけは認めたるさかい、殺られんうちに早よぉ逃げた方がエエで!あとはワイらに任せときぃ!」

真っ赤にペイントされた重機を操縦している男が、変なイントネーションで忠告する。

アインは場慣れした雰囲気の男の忠告に素直に従った。

「ブンバ!もういい!ロリポリを放せ!」

アインが指示を出すと、ブンバはロリポリの突進を食い止めていた力を緩め、横に飛び退いた。

突然、目の前の障壁が無くなったロリポリは、その勢いのまま重機に乗った男たちに突進して行く。


ガシンッ!


ロリポリの突進は、いとも容易くキャタピラ式ブルドーザーような黄色い機体に止められた。

「ワテのマシンのパワーなら、単体のロリポリなんてチョロいもんやで♪」

「そんなら次はワシらの出番やな♪ほな行くで!」

「おっしゃ!」

青の機体と緑の機体の四輪式の2台が素早くロリポリの左右に展開すると、後ろ足と地面の間に大型フォークリフトのような爪を差し込み、そのまま一気にリフトアップする。

頭を押さえつけられ、強制的に仰け反るような形で体の後ろ半分が持ち上げられたロリポリは、複数の足でシャカシャカ虚空を掻いていた。

「こうなったらこっちのもんや♪」

「今日もワシらの勝ちでんな♪」

「早いとこトドメ頼みまっさ♪レッド親分!」

「おうよ!お前らしっかり抑えときぃ♪」

カニのようなクモのような4本の脚を器用に動かし、赤い機体はロリポリの背後に回り込む。

ユンボのような赤い機体は、アームのような2本の腕の先に、それぞれ大型のハンマーと大型の剣が取り付けられていた。

赤い機体の正面に、普段は見えないロリポリの腹部が晒け出されている。

「ロリポリはん、これで終いやで♪」

赤い機体のエンジンが唸りを上げると、大型剣のアームがものすごい速さで上から下に振り下ろされた。

ロリポリの腹部は見事に切り裂かれ、中から緑色の液体と内臓らしき物体が流れ出す。

「うわ!キッショ!」

やがて虚空を掻いていた足の動きも止まり、ロリポリは静かに息絶えた。


アインたちは、目の前で繰り広げられた大型異形種と4機の重機の見事なチームワークによる壮絶な戦いを、呆気に取られて見守っていた。

「兄ちゃんたち、ケガないか?」

赤い機体のエンジンを切り、重機から男が降りてくる。他の3台の重機からも、それぞれ操縦していた男たちが降りてきた。

皆が皆ガッチリした体格で、黒く日焼けした肌に無精髭、タンクトップにニッカポッカ、腰袋を下げ、地下足袋を履いている。

そして何故か、それぞれのタンクトップとニッカポッカは『乗ってた機体と同じ色』をしていた…

「俺たちは大丈夫です…危ないところをありがとうございました」

アインは礼を言った。

「ほんまに、よう無事で済んだもんや…」

黄色い男は感心していた。

「ロリポリ相手に生身の体でって、兄ちゃんらアホちゃうか?」

青い男は呆れていた。

「助かって良かったなぁ…うんうん、ほんま良かった…」

緑の男は何度も頷きながら涙ぐんでいた。

「兄ちゃんら見上げた根性や!と言いたいところやけど、ワイらが来んかったら今ごろあの世に行っとったで…これからロリポリと出くわしたら、右か左か90度の方向へ逃げる!そうすれば真っ直ぐ突進してくるだけのロリポリに潰されずに済むんや…覚えときや☆」

赤い男は親切に教えてくれた。

「本当に助かりました☆僕たち旅の途中で、ロリポリの知識なんて無かったものですから…これからは気をつけます☆失礼ですが、あなた方は?」

ククタは丁寧に御礼を述べた。

「ワイらか? ワイら普段はシャロンの土建屋『ガバド組』のもんや♪ でも、休みの日はボランティアでチャカリヤ山麓の異形種警備をやってる『ガバドレンジャー』やってんねん♪」

「じゃあ、今日もその異形種警備を?」

「せや♪最近はキルベガン政府と反政府団体の衝突が激しいせいで、あちこちの工場や鉱山でストライキが続いててな…おかげでワイらも本業の方は開店休業状態やねん…」

「ま、せやから今日こうして兄ちゃんらを助けられたっちゅーわけやな♪」

「レッド親分は、いっそのことコッチを本業にしたろか…って勢いなんや♪ あ、レッド親分てこの人な♪」

青い男は、赤い男を指差して言った。

アインもパルマもククタもブンバさえも、そんな事は言われなくても理解していた…

「誤解せんといてや、レッド親分はワイら仲間内の通称で、本名ちゃうで?」

誤解するはずもない…

「本名はガバド。ガバド組、棟梁のガバド=ガッシュや。よろしゅうな☆これ渡しとくさかい♪」

レッド親分ことガバドは、アインに名刺を渡してきた。

「名刺はありませんが…アインです」

「パルマです」

「ククタと言います」

「ブンバ…俺…名前…」

アインたちも一応名乗っておいた。

「せや!兄ちゃんたち、旅の途中言うとったよな?良かったらバイトせえへんか?」

「いや、俺たち何の技術もないので土建屋さんのバイトは…」

「土建屋の方ちゃう!レンジャーの方や♪ワイらはボランティアでやっとるけど、兄ちゃんたちなら勇気もあるし、日給1000グランでやってみぃひんか?週1でもエエよ♪」

「いや、俺たちはある目的のために旅を続けてるので…助けていただいたのに申し訳ありませんが…」

アインは丁重に断った。

「ほな一人だけで構へん!何とか頼めへんやろか…」

「レッド親分はな、どうしてもあと一人レンジャーに入れたい言うてきかへんねん…」

「実はもう既に、その人のための重機も用意してあんねん…」

「ひょっとして、その重機の色…桃色だったりします?」

ククタは何かを察していた。

「兄ちゃん!何で分かるんよ!ワイは君のような鋭い感覚の持ち主がレンジャーに欲しかってん!兄ちゃんなら日給2000グラン出してもエエ!どや?」

「いや…要は赤青黄緑桃の5色を揃えたいわけですよね?」

「さらに鋭い!!なぜそれが分かった?」

「なぜって、戦隊ものの基本色じゃないですか…」

「へえ、そうなんだ」

アインはイマイチ理解出来ていなかった…

「兄ちゃんの鋭さにはホンマ感服したわ…せやねん、ワイの若い頃からの夢は『重機戦隊ガバドレンジャー』を作ることなんよ…重機戦隊を作ったら、コッチを本業にしよ思てんねん!」

(重機戦隊…超かっこいい☆☆☆)

パルマは心の中で目を輝かせていた。

「ちなみに、桃色の重機は何なんですか?ブルドーザー?ユンボ?」

「ミキサー車や♪桃色のミキサー車、カッコエエやろ☆」

「………ミキサー車でどうやって異形種を倒すんですか?」

「異形種を中に入れてやね、ミキサーかけてグルングルン回して、目を回らせ…」

「丁重にお断りします…m(_ _)m」

「なんでよぉ~……」

「レッド親分、兄ちゃんたちもああ言ってることやし…あまり困らせるのも…」

緑の男に促され、レッド親分ことガバドは渋々勧誘を諦めた。

「ま、こうして知り合えたのも何かの縁☆気が変わったり、何か工事の仕事があったら、いつでも連絡ちょーだいな♪」

「ほな、またな♪」

「道中、気ィつけや♪」

赤青黄緑の4機の重機は、やかましいエンジン音を響かせ、黒い煙を吐きながら、森の中へ消えて行った。


「重機戦隊には参りましたけど、なんか憎めない人たちでしたね」

「見た目は厳つくても、中身はイイ人たちだったな」

「あの人たち…良い人…わかる…ブンバ…」


アイン一行は、目の前にそびえる高い山の頂に向けて、再び進み出した。


「俺…桃色のミキサー車…乗りたかったな…」

パルマの独り言は、アインたちには聞こえなかった。




※※RENEGADES ひとくちメモ※※


【ガバド組】

キルベガン領シャロンにある土建屋

従業員は、棟梁のガバドを含めたった四人

土木工場はもちろん、建築工場も、杭打ち・井戸掘り・左官屋・設備屋・電気屋・鳶・解体まで何でもこなすが、キルベガン国内の不安定な内情の煽りを受けて仕事が激減、今はもっぱら、チャカリヤ山麓での異形種警備ボランティアが活動の中心になりつつある

現在、従業員、女性事務員、桃色レンジャー部員を募集中


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