【#12 それぞれの思い】
-5107年 3月10日 10:11-
タラモア帝国 タラモア城 城門
鉄騎兵2機と騎馬兵4名を連れて、伯爵となったモスタールは出発の準備を整えていた。
「バジャル閣下、そろそろ出立いたします」
「うむ。まずはどこへ向かうつもりじゃ?」
「ひとまずイグナリナへ向かおうかと思っております」
「なるほどのぉ、確かに、ロシュフォールと親交の深かったイグナリナが最も怪しいのは頷ける。 流浪のアイン王子が潜んでる可能性はもちろんだが、アイン王子が潜んでなくとも、エルドレッド兵長が身を寄せてる可能性も高いか…」
「御意にごさいます」
「うむ。では良い知らせを待っておるぞ」
「ははっ!必ずや!」
ロシュフォール拝領という野望を胸に、モスタールは城門を出て行った。
(せいぜい広告塔として連邦各地を廻ってくるがよい… アイン王子を捕らえることが叶えば、それはそれで一石二鳥というやつじゃ)
意気揚々と旅立つモスタールの背中を、バジャルは冷酷な目で見つめていた…。
- 同時刻 -
イグナリナ王国 イグナリナ城 謁見の間
コン、コン…
「国王陛下、ロシュフォール軍エルドレッド兵長がお見えになりました」
近衛兵は、謁見の間のドア越しに告げた。
「うむ、通してよい… いや、やはりちょっと待て」
大きめのソファーに寝転んでいたイグナリナ国王ヌーヴォ=イグルーリは、その太った体を面倒臭そうに起き上がらせると、王服と髭を整え、ベロリと舌で舐めた手の平で髪を撫でつけ、王冠を被り直す。
「よし、通してよいぞ」
ドアが開くと、そこにはエルドレッド兵長が立っていた。
「エルドレッド、久しぶりだのぉ、さぁ、入れ入れ」
「お久しぶりにございます、イグルーリ国王陛下」
エルドレッドは深々と一礼すると、国王に勧められるまま向かいのソファーに腰を下ろした。
「此度の敗戦は実に残念だった…お主も苦しい思いをしたのぉ…」
「いえ…私は兵ゆえ、戦で苦しい思いをするのは当然にございます。それよりも、我が国王陛下の胸中を察すると…」
エルドレッドは唇を噛み締めた。
「う~ん…ロシュフォールもさぞ無念であったろう…しかし最期は天晴れであった…多くのタラモア兵を道連れに城ごと吹き飛ばすとは、あやつらしい実に派手な最期じゃった」
イグルーリ国王もまた、目には涙を浮かべていた。
「真に見事な最期でございました…」
「イグナリナ国王としてだけでなく、友としてお悔やみ申し上げる…」
二人は暫くの間、亡き国王ロシュフォール3世に思いを馳せていた。
「ところで陛下、この度私が陛下に謁見を求めたのは…」
「わかっておる」
イグルーリ国王は、エルドレッドの発言を制した。
「先にワシの方から、お主に伝えなければならん事がある…」
「?………何でございましょう?」
イグルーリ国王は、エルドレッドに書簡を渡した。
「これは…?」
「構わぬ、中を見てみよ」
エルドレッドは書簡の蓋を開け、中の手紙を手に取り、目を通した。
「これは…我が国王陛下からの…」
「そう、それはロシュフォールからの手紙じゃ。文字も間違いなくあやつの文字だし、封印にはしっかりロシュフォールの紋章が刻まれておる…偽造の痕跡はない」
「では、モスタール宰相もビルニスも、既に到着しているのですね! 私はそれが気掛かりで、今回こうしてイグナリナに立ち寄ったのです!」
「エルドレッドよ、心して聞け… 書簡はワシの手元に届いたが、モスタールもビルニスも、ロシュフォールの民も、誰一人としてイグナリナへは到着しておらん」
「?……どういう事でしょうか?」
「昨日、我が軍の偵察部隊が国境の森でその書簡を発見し持ち帰ったのだ。周りには異形種の死体と、多くのロシュフォール兵と領民の遺体が散乱していたらしい…」
「そんな…… ビルニスの遺体もそこに?」
イグルーリ国王は、悲痛な面持ちで黙って頷いた…。
「まさか…特異種と遭遇したならまだしも、ビルニスが異形種にやられるとは考えられない…」
「その通り、ビルニスは無傷じゃった……しかしビルニスの胸には、このナイフが刺さっておった…」
ナイフを手渡されたエルドレッドは、驚愕の表情を見せる。
「このナイフは…モスタール宰相の…」
「真相は分からんが、そのモスタールの遺体は見付かっておらん…」
「!!………」
「だからと言って早まるでないぞ、エルドレッド。まだ真相は謎なのだ… もっと前に別の場所で行き倒れてる可能性もある…」
「心得ております…」
その後、イグナリナ兵の力を借り、ビルニスらロシュフォール兵と領民の埋葬を済ませると、エルドレッドはイグナリナ兵に深く礼を述べ、愛馬に跨がった。
「エルドレッドよ、お主さえ良ければ、このままイグナリナに留まっても良いのだぞ?」
イグルーリ国王は、再び旅立とうとするエルドレッドを呼び止めた。
「ありがたきお言葉ですが、私には亡き国王陛下より仰せつかった最後の使命がありますゆえ、それを成し遂げるまでは、どこにも留まることは出来ませぬ…」
「そうか…それでこそエルドレッドよの」
「私は生涯をロシュフォール国王陛下に捧げた一兵士に過ぎませぬ… ではまた!」
(あれが武勇の誉れ高き歴戦の勇者か…ロシュフォールもあのような者に忠誠を尽くされ幸せ者よ… せめてあの気概だけでも我が軍の兵に見習ってもらいたいものじゃ…)
イグルーリ国王は、エルドレッドの姿が見えなくなるまで見送っていた。
※※RENEGADES ひとくちメモ※※
【ヌーヴォ=イグルーリ】
イグナリナ国王
小さな港町に過ぎなかったイグナリナの町を、一代で繁栄させ建国まで成し遂げた
特に商業の発展に寄与する手腕に優れ、建国後はその施策を他国が真似するほどである
今は亡きロシュフォール国王との公私に渡る親交の深さから、タラモア帝国の次の侵攻先との見方が強い
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