【#13 金儲け】

-5107年 3月10日 12:06-


キルベガン領 ソミュール



アインとパルマは、キルベガン領内に入った最初の町ソミュールの道端に座り込んでいた。いや、正しく言えば、空腹で動けなくなっていたのだ…。

「なぁ、アイン… 俺達この二日間、水しか飲んでねぇのに、なんで俺達の飯より馬の飼葉が優先なんだよ」

パルマはアインに不平不満をタラタラと愚痴った。

「仕方ねぇだろ、馬を失ったら旅も続けられねぇんだ…」

「この際、馬を1頭売っちまうってのはどうだ?そうすりゃ食いぶちも減るし、三人の一ヶ月分くらいの飯代にはなるだろ?」

「それは最終手段だ…今はククタが日雇いの仕事を見付けてきてくれるのを待とう」

「チェッ!…そもそもアインが有り金全部渡しちまうから、こんな事になってんのに… こんなんじゃ旅を続ける前に三人揃って餓死だ… 前以て言っとくけど、俺は道端に皿置いて物乞いするのだけはゴメンだからな…」


それから暫くして、ククタが暗~い顔で戻ってきた。


「何かイイ日雇いの仕事あったか?」

「いえ……今は景気が悪いみたいで、日雇いどころか短時間の仕事すらないって、どこも門前払いです…」

「ほらな!いくらキルベガンは工場が多いからって、そう簡単に日雇いの仕事なんて見付かるわけねーよ…あ~ぁ!腹減った!…」

パルマはとうとう地べたに大の字に寝そべってしまった。

「馬は手放すわけに行かねぇし、俺の剣もパルマの弓も売るのは気が引けるし… 何かイイ金儲けの方法ねぇかなぁ…」

アインは腕組みをして考え込んだ。

「何なら俺の弓、売っ払ってもいいんじゃね? 使いこなせねーし、こんなひもじい毎日じゃ体鍛えるどころか痩せてく一方だしな…」

「パルマさんの弓…そんな強いんですか?」

「強いなんてもんじゃない!弦すら引けねぇんだから…」

「へぇ、アインさんでも無理ですかね?」

「そうだ、アインも一度やってみ? マジやべぇから!」

「ん? パルマの弓か、いいぞ、ちょっと貸してみ」

アインは、パルマから弓を受けとると、目一杯の力をこめて弦を引いた。

「ぐぎぎぎぎ………!」

歯を食いしばり、顔が真っ赤になるほどの力で弦を引いても、弓はピクリとも曲がらなかった。

ハァ…ハァ…

「こりゃ無理だ……弦を引く指の方が千切れちまいそうだ…」

アインは肩で息をしていた。


そんなアインの姿を見たククタは、あることを閃く…


「そうか!これだ!」

「どうした?ククタ。なんかイイ金儲けのアイデアでも思いついたか?」

アインの瞳は、期待でキラキラ輝いていた。

「やっと飯にありつけるのか?」

パルマはヨダレが垂れていた。

「上手く行くか分かりませんが…かくかくしかじか…とゆー作戦はいかがでしょう?やってみる価値はあると思うんですが…」

ククタは、思いついた金儲けの方法を二人に伝えた。

「うん、そりゃいいアイデアだ! もしも賞金を獲得する奴が出てきたときは、馬を4頭とも売り飛ばせば何とかなるし」

「やっと飯にありつけるぅ~…(T△T)」

「じゃあ早速準備に取りかかりましょう!」



二時間後---



「寄ってらっしゃい!見てらっしゃい!」

「この弓を引ける力自慢はいないかえ~!」

「見事、弓を引けた人には…なんと!賞金10万グランだ!チャレンジ料はたったの100グラン!やらなきゃ損てもんだよぉ!」

アインとパルマは、即席でこしらえたチラシを配りながら呼び込みを始めた。

ククタも、落ちてた木の杭に拾った木の板を打ち付けただけの看板の前で、大声を張り上げて料金案内をしていた。

すると、工場地帯の町ということもあって、あっという間に力自慢の男たちがゾロゾロと集まってくるではないか。

看板の前には瞬く間に行列が出来上がった。

「お!最初の挑戦者は腕っぷしの強そうなイケメンお兄さんだ!」

司会進行役のパルマがその場の雰囲気を盛り上げる。

木箱をいくつか並べただけの簡易ステージに上がった挑戦者は、かなり気合いが入っていた。

「イケメンお兄さん、自信のほどは?」

「俺は力には自信がある。俺が勤める工場じゃ腕相撲で負け知らずなんだ。並んでる皆には悪いが、賞金は俺が頂いてくぜ!」

順番待ちの挑戦者も、集まってきた野次馬も、拍手や口笛で大盛り上がりで、まるで力自慢コンテストのような様相を呈してきた。

「それでは!チャレンジ、スタートぉ!」

「ぬぉぉぉぉぉ…… ハァ…ハァ…」

「ざんねーん!チャレンジ失敗でーす! それでは次の挑戦者の方、どうぞ~!」


…………………


結局この日、陽が落ちても興奮が冷めないばかりか、かえって陽が落ちてからの方が工場の就業時間を終えた労働者が集まり、何かのお祭りのように、盛り上がりは夜遅くまで続いた。

最終的にこの日の挑戦者は120人。しかし、誰一人として弓を引けた者は現れなかった。


「わっはっは! 笑いが止まんねぇな♪たったの半日で12000グランだぜ☆ 三人で日雇い仕事するより稼げちまうんだからよ☆」

パルマは久しぶりの食事と酒にありつけて、ことのほか上機嫌だった。

「まったくだ☆ ほんとククタの知恵には救われてばかりだな☆ ありがとよ☆」

アインも少し安心した様子だ。

「たまたま作戦が成功しただけです。今回もお二人のお役に立てたなら、僕はそれだけで満足です☆」

三人は食事を済ませると、この日は宿屋に泊まった。

野宿から解放され、久々の布団の寝心地に、三人はグッスリ爆睡した。



翌日。

三人は昼過ぎに起き出すと、この日も昨日と同じ金儲けを目論んだ。

しかし、この日の儲けは9000グラン。

相変わらず弓を引けた者は現れなかったものの、初日ほどの勢いは影をひそめた。

昨日と同じ居酒屋で食事をする三人。

「今日は昨日ほど集まらなかったな…」

「それでも9000グランの稼ぎは凄いですよ」

「明日は隣町まで移動して、そこでも同じことをやって、それを続けりゃ食いっぱぐれることはねぇだろ…」


そんな話をしているところへ、一人の男が近寄ってきた。


男は苔色のローブを纏い、フードを深く被っていて、鼻から下しか顔が見えなかった。

男は、テーブルの縁に立て掛けてあった弓を手に取ると、パルマに尋ねた。

「昨日から騒がれている弓はこの弓だな?」

「そうだけど、今日はもう終了したから、悪いけど明日また挑戦しに来てよ。明日は隣町でやる予定だから。今挑戦して仮に成功しても、賞金はあげないからね?」

パルマは珍しく親切にそう応えた。

アインは危険な空気を感じ、鋭い視線で男を見ていた。

「今挑戦しても、いや、誰が挑戦しても、この弓を引くことは出来ん」

「は? なんでオッサンがそんなこと分かるんだよ?」

一転して機嫌を損ねたパルマは、男に食ってかかった。

「私には分かる。お前達では到底この弓は扱えぬ。よって、この弓は戴いて行く。悪く思うな」

「はぁ?ちょっと待てよ、オッサン!」

パルマは椅子から立ち上がり、その場を去ろうとする男の肩を掴もうとした瞬間、何かに弾き返され、テーブルの上に吹き飛ばされた。

「い、今…あの人は何もしなかった…身動き一つしてないのに…なぜ…」

ククタは、今、目の前で起きた出来事が全く理解できずにいた。

「てめぇ!待ちやがれ!」

アインは立ち上がり、剣の束に手をかけた。

男は振り返り、掌を広げて真っ直ぐアインに向ける。

「むんッッ!!」

その瞬間、アインの体は金縛りにあったように、指一本動かせなくなった。

「私はアナムル王国の僧。この弓を取り戻したくば町外れにある寺院に来い。明日の朝、日の出とともに」

そう言い残して、男は店を出て行った。


アインの金縛りが解けたのは、それから10分後のことだった。




※※RENEGADES ひとくちメモ※※


【アナムル王国】

国王=ウォン-ビンロン

人口=8500人

国民総武術家と言われるほど、国民全員が何らかの武術を習得・鍛練しており、別名『修羅の国』と呼ばれる

産業は特になく、自給自足と物々交換で国の経済のほとんどが成り立っている



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