【#8 異形種】
-5107年 3月6日 20:20-
ロシュフォール領 デプラ山 山中
アイン、パルマ、ククタの三人は、バルーチ村を出発し、デプラ山脈の山道をロシュフォール城に向かっていた。
道幅も広く平らで安全な街道を使うルートもあったが、山脈の麓を大回りするため道程が長くなる。
逆に山脈を突っ切るルートを進めば、道程は街道ルートの半分以下で済む。
アインは後者を選んでいた。
「やっぱ街道を行った方が良かったんじゃねぇか? 山道は真っ暗で不気味だし、なんか誰かに見られてるような視線感じるんだよな…」
パルマは馬上でビクビクしながら辺りを警戒していた。
「僕は、のっけからスリル満点でワクワクしてますけど」
ククタは楽しそうに目を輝かせていた。
「ところで、僕たちは今どこに向かってるんですか?」
何も知らないククタのごもっともな質問に、パルマは面倒臭そうに答えた。
「ロシュフォール城だよ、ちょいとワケありでな…」
「王都に向かうんですか? 城は一夜にして陥落したって聞きましたが…」
「だから、それを確かめに行くんだ」
「そうですか…だったら確かにこのルートが最短ですけど、この先は異形種が多く出没する危険地帯ですから注意して進まないと」
「そうなの? やっぱ出るの? 俺苦手なんだよなぁ異形種… あいつら、やたら狂暴なんだもん…」
「大丈夫ですよ、この辺りで確認されてるのは、シャドーとナイトウルフくらいですから。 それに僕たちにはアイン様がついてますし☆ アイン様の強さなら、たとえ特異種と遭遇しても安心です☆」
ククタは、憧れの眼差しで先を行くアインの背中を見つめていた。
「お前、自分で学問が得意って言うだけあって色々と詳しいんだな。 じゃあよ、異形種と特異種の見分け方ってあるのか?」
パルマはククタに質問した。
「僕も実際に特異種を見たことはないんですが、学術書によれば、目を見たら分かると」
「目? そんな恐ぇ相手の目を見ろって?」
「はい、特異種の目の奥は、燃えるように赤く光ってるそうです」
「目の奥が赤く光ってんのか… そんな奴とは一生出くわしたくねぇな」
パルマは軽く身震いした。
少し先を行くアインは、黙って二人の会話を聞いていた。
最初あれほど反対していたパルマが、今ではすっかり打ち解けている様子に一安心し、馬上で一人、微笑んでいた。
その時だ。
「!!…」
何かの気配を感じたアインは、手綱を引き絞り、馬の歩みを止めた。
「どうした?アイン」
パルマとククタも馬を止める。
「………異形種だ」
「え?…さっそくお出まし?」
「シャドーですね……1…2…3…4体…あれは何か食べてるんでしょうか?」
見ると、100mほど先の道端でシャドーと呼ばれる異形種4体が何かをむさぼっていた。
「回り道はない、このまま進むぞ」
アインは剣を抜いた。
「こんな細い山道じゃ、気付かれないわけないよな…戦うしかねぇってことか…」
パルマも小刀を構える。
「ちょっと待ってください、相手がシャドーなら、ひょっとすると戦わずに済むかも知れません」
ククタは荷物の中から筒状の箱を取り出した。
「戦わずに済むって…どうすんだ?」
パルマは期待をこめて聞いた。
「これを使うんですよ。上手く行くか自信は半々ですけど、もし失敗したときは、アインさんお願いします!」
「ああ、任せとけ。 で、そりゃ何だ?」
「これはマグネッシという金属の粉です。 キルベガン共和国の工場で働いてる知り合いから買ったものなんですけど、僕の研究と推理が正しければ、これでシャドーを退治できるはずなんです」
そう言いながらククタは筒状の箱に手を突っ込み、中身の粉を一握り掴んでは山道に線を引くように撒いていく。
それを何度か繰り返すと、ちょうど三人の行く手を遮るように、山道を横断する粉の線が出来上がった。
「これでよし! あとは上手く行くことに賭けましょう。 パルマさん、大声を出してシャドーをこちらに誘き寄せてください。 アインさんは、作戦が失敗したときに備えてください。 くれぐれもこの線より向こう側へは行かないように」
「わかった」
「俺が誘き寄せるの?」
「じゃあ、お願いします!」
アインは剣を構え、ククタは火打ち石を用意し、パルマは渋々指示に従った。
「シャドーの皆さ~ん! こっちに美味いもんがありますよ~! こいつ食べちゃっていいっすよ~!」
大きな身振りでアインを指差しながら叫ぶパルマの大声に反応し、三人の存在に気付いたシャドーは、
「ウガァァァァ~ッッ!」
と叫び声を上げながら迫ってきた。
「ほら!来たぞ!ククタ早く何とかしろ!」
「まだです!もっと近付いてから!」
アインも剣を握りなおし、臨戦態勢をとる。
「よし!今だッ!」
ククタは粉の線に向けて火打ち石を打った。
カチン!
火花が飛び散った瞬間、粉の線は、眩しい光を発して一気に燃え上がった。
光も炎も一瞬ではあったが、それだけで効果は十分だった。
「ギャァァァァ!…」
と叫びながら、シャドーは森の奥へと退散して行く。
「やりました! 作戦成功です!」
ククタは大喜びだ。
「どーゆーことだ? なんであいつら逃げてったんだ?」
アインは剣を鞘に収めてククタに聞いた。
「シャドーは光を極端に嫌う習性があるんです、だから日中は絶対に現れないし、月の光すら嫌って山深い森の奥で暮らしてるんです、だったら眩しい光を浴びせれば逃げてくんじゃないかと思って」
「なるほどな…頭のデキが良いやつは考えることが違うんだな… 俺達二人なら襲ってくるやつは片っ端からブッ倒すしか考えられねぇよ、なぁ、パルマ。 パルマ?」
迫りくる異形種の恐怖に耐えきれなかったのか、パルマは馬上で白目をむいて気を失っていた…
「………(-_-;)」
「ま、まぁ、とにかく作戦が成功して良かったです……ねぇ、パルマさん」
ククタはパルマのふくらはぎを軽くつねって意識を呼び覚ます。
「う、うわぁ~ッッ!………あれ?シャドーは?」
「お前が気絶してる間に、ククタが退治してくれたよ」
「え?ククタが?… やっぱりな、こいつは何か凄ぇ力を秘めてると思ってたんだよ☆ 俺ぁ最初から分かってたぜ☆ 仲間に入れて大正解だ☆」
「………(-_-;)」
「ハハハ…☆ 少しでもお二人のお役に立てたんなら良かったです」
「おい…あれ見てみろよ… さっきシャドーが食らいついてたのって、あれじゃねーか?」
パルマが指差す方を見ると、道端にナイトウルフの屍があった。近付いてみると、ナイトウルフの屍は、腹が切り裂かれ、内蔵が食い散らかされていた。
しかし、三人がさらに驚いたのは、その屍に寄り添うように、生まれて間もないと思われる小さなナイトウルフがいたことだ。
その小さなナイトウルフは、シャドーの攻撃を受けたのか、右目が潰され、ひどく出血していた。
「いくら赤ん坊だからって、こいつも異形種には変わりないんだ、放っといて先を急ごうぜ」
パルマはあくまで異形種とは関わりたくようだ。
「ククタ、薬草持ってるか?」
「ええ、持ってますよ」
「マジかよ… 異形種を治療してやるなんて頭イカレてるぜ…」
パルマの文句を無視して、アインとククタは治療を進めた。
「きっと赤ん坊を守るために母親は自分を犠牲にしたんでしょうね…」
ククタは、小さなナイトウルフと自身の出来事を重ね合わせて、胸が締め付けられる思いだった。
「……チビ助!強く生きるんだぞ!!」
治療を終え、森の奥に帰って行く小さなナイトウルフに、ククタは力強く声をかけた。
「シャドーに見付からずに群れに戻れるといいな」
「いつかデカくなったあいつに襲われたらどうすんだよ…」
三人は馬に跨がると、それぞれの思いを胸に、ロシュフォール城へ向かう山道を再び進み始めた…。
※※RENEGADES ひとくちメモ※※
【シャドー】
人間の異形種
姿形は人間だが、彼らに理性は存在せず、食欲という本能のみが行動を支配している
体毛がなく、光を嫌う特徴があり、主に森の奥が生息範囲だが、ときおり人里にも出現し人々が襲われる被害も報告されている
【ナイトウルフ】
犬もしくは狼の異形種
犬や狼よりも二回りほど体が大きく、圧倒的に長い牙が特徴で、基本的に群れで行動する
異形種の多くに見られる巨大化や狂暴化が確認されないことから、単なる犬族の突然変異体であるとする意見も多い
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