【#9 旅立ち】
-5107年 3月7日 5:16-
ロシュフォール領 ウルムの丘
途中、4時間ほどの仮眠をとった3人は、それでも夜明け前にはロシュフォール城が見下ろせる小高い丘に到着した。
ウルムの丘と呼ばれるその丘の頂上から向こう側は断崖絶壁になっており、夜が明ければ眼下にロシュフォール城が見えるはずである。
「1年ぶりのロシュフォール城か…」
「アインが武器屋に持ち金そっくり渡しちまったせいで俺達今一文ナシだからな… いくらか補充しねぇと」
「あのぉ…お二人の話を聞いてると、元々お二人はロシュフォールの城下町で暮らしてたんですか? ご両親は王様にお仕えする家臣とか? まさか、お城に盗みに入るわけじゃないですよね?」
「そう言えば、ククタにはまだ話してなかったな…」
「おい、アイン、黙っといた方がいいこともあるんだぞ?」
「ククタは仲間だ、隠す方がおかしい」
「え?…え?…一体何のことですか?」
「俺の名前はアイン=ロシュフォール、親父はロシュフォール3世だ」
「ロシュフォール3世って、この国の王様じゃないですか、冗談でも言って良いことと悪いことが…………え?…ええーーーッッ!」
「そ☆ アインはこう見えて、実はこの国の王子様なんだよ☆」
パルマはまるで自分のことのように自慢げに言った。
「じゃあ、パルマさんは王子様の家来?」
「………(-_-;)」
「ハハハ♪ パルマは赤ん坊のころから俺と一緒に育てられた、兄弟同然の親友だ♪」
「間違えるなよ? けっして家来じゃないからな…(-_-)」
「申し訳ございません! お二人がそんな高貴な方とは知らず、さまざまな無礼を!」
ククタは慌てて土下座をし、オデコを地面に押し付けて詫びた。
「やめてくれよ、ククタ。 アインはまだしも、俺がそんな高貴な人間に見えるか?」
「滅相もない! 私のような身分の人間が気軽に言葉を交わすなど!」
「パルマの言う通り、土下座はやめるんだ。 俺達はもう仲間だろ? さっきもシャドーの襲撃から俺達を助けてくれたじゃねーか」
「いや、しかし…」
「じゃあ、こうしよう。 ククタ、お前は今から俺達の正式な仲間とする。 よって、今後一切の他人行儀な振舞いや言葉遣いは禁ずる。 もちろん土下座もだ。 いいな? これは王子からの命令だぞ?」
「は…はい…」
「良かったじゃねーか♪ 王子様直々に仲間だってよ? これからヨロシクな!」
パルマは大笑いしながらククタの肩を抱いた。
「ただし、くれぐれもこの事は他言無用だ。 周りの者に知れたら厄介なのはもちろん、タラモアに屈した今の状況ではなおさら危険になった…」
アインは改めて釘を刺した。
「俺達の仲間になり、俺の正体を知ることは、ククタの身にまで危険が及ぶことになる… だから最初は俺も迷った。 でも、仲間だと認めたからには隠すわけにも行かない… 心配するな、俺の大切な仲間なんだ、仲間の危険は俺が守る」
「あ……ありがとうございます!!」
ククタは嬉しくて大泣きした。
アインが、王子様が、自分のような身分の者を守ると言ってくれたこと、何より、仲間だと言ってくれたことが嬉しかったのだ。
「まったく、お前はよく泣くなぁ…」
パルマもなせが、もらい泣きしていた。
やがて、徐々に東の空が白み始めてくると、それまで闇に包まれていた眼下の景色が次第にハッキリ見えてくる。
「…………」
「アイン、あんな所に岩山なんてあったか?」
「あれは………ロシュフォール城だ」
「なんだって?」
「間違いありません…あの場所は、かつてロシュフォールのお城があった場所です…」
三人は、しばらく黙って、その信じられない光景を眺めていた。
夜が完全に明けきると、王都の全容も明らかになる。
瓦礫の山と化した城跡の岩山を中心に、その周りには黒く焼け焦げたかつての城下町がドーナツ状に円を描き、さらにその外側は、異様な存在感を誇示するように高い城壁が取り囲んでいた。
城壁の内側だけ、周りの景色とは隔絶された異空間と思える惨状に、三人はしばらくその場に立ちつくすほかなかった…。
「たった一晩で……こんなことって……」
「この様子じゃ、誰一人残っちゃいねぇな…」
「国王様はどうなったんでしょうか…」
「無事でいてくれるといいけどな…」
それまで黙って変わり果てた王都を眺めていたアインが、やっと口を開いた。
「親父はもう死んでる、あの城の残骸を見れば明らかだ、あれは親父がやったんだろう…」
「はぁ? 王様自らって…なんで分かるんだよ?」
「タラモアが一夜にしてロシュフォールを落としたとしても、そのあと自分たちの領土となり重要な拠点となるはずの城をわざわざ破壊することは有り得ない…」
「だとしても、城をあそこまで木っ端微塵にする意味が分からねぇよ、それも王様が自らなんて…」
「親父も最期に意地を見せたんだろう… 親父のことだ、用意周到に領民を避難させた上でタラモア軍に城を明け渡し、タラモア軍もろとも…って、大体そんな筋書きだろうな」
「そんな……」
「まったく…最期までイカレた親父だぜ…」
朝日に照らされた光りの筋がアインの頬を伝ったことを、パルマとククタは気付かないフリをした。
「まあ、でもこれでスッキリした。 ロシュフォールは滅んだし、親父も死んだ。 俺も堅苦しい王子って鎖から解放されたわけだ」
「それはそうかも知れないけどよぉ…これからどうすんだよ?」
「俺は決めた!」
「決めたって、何を?」
「俺はもう何者でもない、だから何者にでもなれる!」
「……何言ってんだ?」
「俺は反逆者になる!反逆者になってタラモアをこの手でブッ潰す!!」
「僕はどこまでもアイン様にお供します!」
アインの言葉を聞いて、ククタは目を輝かせてすぐさま賛同した。
「…行くアテもねぇし、しょうがねぇから俺も付き合ってやるけどよ…まだ死にたくねぇなぁ…」
パルマも仕方なく賛同した。
「よし! そうと決まれば早速準備を始めよう」
「準備って何だよ? 俺達は一文ナシなんだぜ? タラモアに殴り込みかけるにしたって、武器の一つも買えやしないんだぞ…」
「準備の中で一番大切なのは、仲間づくりだ」
アインの発する一言一言に、ククタは瞳をキラキラさせていた。
「仲間なんて、そう簡単に見付かるかな…」
パルマは半信半疑だった。
「連邦中を旅して回れば必ず見付かる。 信頼出来る仲間は一人でも多い方がいい。 それに、俺達のようにタラモアをブッ潰したいと思ってる連中だってきっと大勢いるはずだ」
「そうですよ!絶対いますよ!」
「そりゃあ、今のタラモアみたいに、武力と恐怖で支配しようとするやり方に反感持ってる人間は多いだろうけど… 仲間集めるのにアテもなく連邦中をさまようのか? それじゃあ俺達、本物の放浪者になっちまうわけか…」
「目的を持って旅をするのは放浪者じゃない。 それに、俺には行きたい所がある。 途中の町や村に寄りながら、まずはそこを目指す」
「どこに向かうんだよ?」
「イダゴ村だ」
「イダゴ村?」
「イダゴ村って、どこか高い山の山頂にあると言われる幻の小さな村ですよね? たしか、降霊術師や、残り少ない語部がいるって村…ですよね?」
「そうだ。 降霊術ってのが本物なら、死んだ親父と話がしてみたい。 今回の件も、タラモアについての情報も、真相が聞けるはずだ」
「行きましょう! 情報収集は大切です! それに、僕も語部から古代科学の話を聞いてみたいです!」
「降霊術って、死んだ人の魂を呼び戻すってやつだろ? そんな薄気味悪いとこ俺はゴメンだぜ…そん時ゃ俺は外で待ってるからな」
ひとまずの目的地が決まった三人は、馬に跨がり、軽く腹を蹴って馬に出発の合図を送った。
「イダゴ村って…どっちだ?」
「俺が知るわけないだろ…」
「わかりません…」
出だし早々、前途多難を予感する三人だった…。
※※RENEGADES ひとくちメモ※※
【イダゴ村】
高い山の頂にあると言われている幻の村
降霊術師や語部が存在し、情報収集という観点からとても重要な場所であるにも関わらず、その場所は明かされていない
【語部】
かたりべ
古代の様々な情報を、伝承によって受け継いできた貴重な存在
時代の流れとともにその数は減少し、今では世界中で数人しか存在しないと言われている
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