【#61 行方不明】
-5107年 3月26日 17:26-
ホーブロー神国 ウェンブリー教会
ミカは手紙を受け取ると、教会の隅っこに行って手紙に目を通していた。
その間にアインは、ポロル神父にお願い事をする。
「神父さん、ひとつお願いがあるんだが…」
「はい、何でしょう?」
「コイツの体をスッポリ隠せる服が欲しい。さすがにこの姿のまま、これから先の旅に連れ回すのは無理がある…」
「ごもっともな意見です。わかりました、明日の朝までには御用意しましょう」
「すまない、恩にきる」
アインはポロル神父に頭を下げた。
そこへ、手紙を読み終えたミカが浮かない表情で戻ってきた。
「手紙は誰からだったんだ?」
「……昔の知り合いから」
「そうか」
アインは深く詮索することはなかった。誰にでも知られたくない過去や隠しておきたい事はあるものだ。
そんなアインの気遣いに対し、他人への気遣いなど無縁の男が一人いた…。
「ミカのファンからのファンレターか?さもなくば元カレからヨリを戻したいってラブレターだったりして♪」
「相手が誰にせよ、どうしてミカさんが教会に戻ってきたこと知ってるんでしょう…?」
「それは分からないわ…どこかで見られたのかしら?…」
「まぁまぁ、ミカちゃんの手紙の件はそのくらいにして、食事にしましょう♪美味しい肉料理とワインを用意しますので♪」
「お♪待ってました!ポロル神父の肉料理!早く食おうぜ♪」
食堂に移動した一行は、ポロル神父が用意した美味しい肉料理とワインに舌鼓を打った。
「お前、食わねぇの?」
パルマは、三男が用意された食事に手を付けてないことに気付き、質問した。
「はい、私は食事は摂りません。私のエネルギーは体内の超小型リアクターで…」
「わかった、わかった!じゃあ、お前の分は俺がいただく♪」
三男の言葉が終わる前に、パルマは言葉をかぶせ、三男の肉料理を横取りした。
ククタは、エルマ山で起きた一連の出来事を事細かにポロル神父に伝えていた。
エジピウスとの遭遇、神獣タロンガとの戦い、レッドカメリアのことも古代遺跡や謎の光のことも、詳細を神父に伝え、神父はそれを羊皮紙に書き留めていた。
しかし、そこでもミカの表情はどこか暗かった。
それに気付いていたのはアイン一人だけだったが、何も触れずにただ見守っていた…。
--明けて翌朝--
ドン!ドン!ドン!
アイン、パルマ、ククタが寝室として使わせてもらってる部屋のドアを激しくノックする音で、まずククタが、次いでパルマが目を覚ました。
「皆さん、大変です!起きてください!」
ドアの向こうで、ポロル神父が叫んでいた。
ククタは慌ててドアを開ける。
「神父さま、おはようございます♪どうしたんですか?」
「ミカちゃんが居なくなりました」
「え?」
「ミカが?どーゆーこと??」
「教会の祭壇に置き手紙を残して…。寝室を見に行きましたが、大切なはずの化粧道具や荷物はそのままに、ミカちゃんだけが居なくなっていたんです」
「手紙には何と?」
ポロル神父は、ミカが残した置き手紙をパルマに渡した。
『ちょっと出掛けて来ます♪夜までには帰るので、心配しないでください☆ ミカ』
手紙にはそう書かれていた。
「ミカさんらしい楽しそうな文面だし、夜までには帰るって言ってるから大丈夫なんじゃないですか?」
「でもよ、どこに行くか書いてねぇんだぞ?ホントに俺たちに心配かけまいと思うなら、その辺のことは知らせるんじゃねぇか?」
「やはり、差出人不明の手紙が原因なんでしょうか…あの時、ミカちゃんは昔の知り合いと言ってましたが、ほとんど教会から出ることのなかったミカちゃんに、私以外の幼馴染みはいないはずなんです…」
三人の会話に気付いたアインも、やっと起き出してきた。
「朝っぱらから何をゴチャゴチャ話してんだ?」
「アインさん、ミカさんが行方不明なんです…」
「ミカが行方不明?」
「この置き手紙を残して、どっか行っちまったんだ」
パルマはアインに手紙を渡した。
「行き先が書いてないのが気掛かりだな…」
「だろ?アインもそう思うだろ?」
「ポロル神父、どっか行き先に心当たりは?」
「ウェンブリー村の村人も、昔この教会にミカちゃんが暮らしてたことを知ってる者はいませんし、私の知る限り、ミカちゃんは教会の外の人間との交流はなかったはずなんです…幼い頃のミカちゃんは、この教会だけが世界の全てで、ティラーナ神父と私だけが家族だったので…」
「??…父親代わりの神父は分かるが、ポロル神父も家族?」
「実は、私もティラーナ神父が父親代わり。私もミカちゃん同様、この教会に捨てられ、ティラーナ神父に育てられた身なのです」
ポロル神父の言葉に、三人は驚きを隠せなかった。
「たがら『ポロル兄さん』か…」
「ミカさんはそんなこと一言も…」
「じゃあ、ティラーナ神父がスラム派に連れ去られたとき、神父さんはどこに?」
パルマにしては珍しく鋭い質問をぶつける。
「私は当時13歳で、リスト教の神学校に寄宿していたお陰で難を免れました。知らせを聞いて急いで教会に戻ったのですが、ティラーナ神父はもちろん、ミカちゃんの姿も消えていて…。私はそれからずっと、ウェンブリー教会を一人で守り抜いてきたのです…。15年ぶりにミカちゃんに逢えたと思ったのに、また行方不明になってしまうなんて…」
ポロル神父は心痛な表情でミカの安否を心配していた。
「とにかく、行き先が分からない以上、今はミカを信じて夜まで待つしかねぇだろ…」
「そうですね…待ちましょう」
アインたちとポロル神父は、ミカの手紙を信じ、夜までミカの帰りを待つ他なかった。
「そう言えば、ミッチーは?あのデカイ鉄の塊が見当たらねぇけど…」
「三男様なら、外で大道芸の練習に励まれていましたが…」
「大道芸?」
三人が窓から外を見ると、三男は相変わらず変なポージングをして、未だ見つからない隠された武器を模索しているようだった。
「まだ見つかってねぇらしいな…」
「でも新しい芸は身につけたみたいだぞ♪ほら♪」
「新しい芸??」
見ると、赤と白の2枚のハンカチを広げた三男は、軽く握った拳の指の間に2枚のハンカチを人差し指で詰め込んでいく…
拳を開いて出てきた2枚のハンカチは、どーゆーわけか端っこ同士が結ばれていた。
「あいつ…何やってんだ…」
「すげぇじゃねーか♪客集めてアレやったら、金もらえるレベルだぜ?頭から鳩が出てくる芸も、赤い玉の芸もあるしよ♪」
「俺はピエロを仲間に加えた覚えはねぇんだけどな…」
アインは深い溜め息をついた。
「忘れてました!昨日頼まれた三男様の服、簡単な物ですが、あつらえておきましたので」
ポロル神父は、三男の服が入った紙袋をアインに渡した。
「すまない、これで三男を連れ回しても怪しまれずに済む♪」
すぐに三男を部屋に呼び、仕立てたばかりの服に袖を通させてみる。
その服は大きなフードが付いた白いカンドゥーラで、鼻や口の部分も隠せるように、同じ生地で出来たスカーフまで用意されていた。
革の手袋と革の靴まで揃っていた。
「すごくカッコイイですよ♪みっちゃん♪」
「目の部分以外は全部隠れてる♪これなら完璧だな♪」
「良かったな♪なかなか似合ってるぜ、ミッチー♪」
「たいへん嬉しいんですが、これだと腰のポッケから玉やハンカチが取り出せなくて…」
「…………(-_-)」
殴りかかりそうなアインを、パルマとククタは力ずくで抑えた。
自ら頭痛の種を抱え込んでしまったことを後悔したアインは、再び深い溜め息をついた。
アイン、パルマ、ククタ、そしてポロル神父、四人の心配をよそに、結局、夜になってもミカは戻って来なかった…
※※RENEGADES ひとくちメモ※※
【カンドゥーラ】
古代文明の時代、主に中東と呼ばれる地域で着用されていた長袖くるぶし丈のワンピースのような服
この時代になっても、ホーブロー神国では極一般的に着用され、古代とは生地や用途に違いが見られるものの、デザインや縫製には古代の名残が色濃く残っている
民族ごとに色や特徴に違いがあり、特にリスト教とスラム教では、それぞれ白と黒の生地でハッキリ区別されており、どちらの宗派か一目で見分けがつくようになっている
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