【#32 科学者と発明家】

-5107年 3月20日 10:24-


キルベガン領 チャカリヤ山 五合目付近



一夜明け、遅めの起床となったククタは、そこが幌馬車の荷台であることに気付くと、改めてブンバが居なくなったことを痛感して深い溜め息をついた。

隣には、まるで何事もなかったかのように大イビキでアインが寝ている。

そしてパルマは…

「あれ?パルマさんは?…」

荷台の中にパルマの姿はなかった。

ククタは幌馬車から顔を出し、周囲を見回したが見当たらない。

「アインさん、起きて下さい!パルマさんが居ません!」

「ん?…パルマが居ないって?…」

「辺りを見ても見当たらないんです…もしかして、何かに連れ去られたとか…」

心配した二人は、幌馬車を降りて周囲を探した。すると、遠くから意気揚々と山道を下りてくるパルマがいた。

「てめぇ!どこ行ってたんだ!心配すんだろが!」

「何かに襲われたのかと思いましたよ…」

「悪ィ悪ィ♪二人とも気持ち良さそうに寝てたから起こしちゃ悪いと思ってよ♪」

「で、何してたんだ?」

「へへへ♪何してたと思う?」

パルマは得意気な顔でニヤけた。

ポケットに手を突っ込んで、中から何かを取り出す。

「ジャジャ~ン♪正解は、コレを探してたのであります☆」

そう言って手の中の物を二人に見せた。

「これは…昨日グナさんから餞別で貰った虹玉石じゃないですか!」

「そう、虹玉石だ♪昨日グナ婆さん言ってただろ?この山の周辺で見付かるって…だから探してたんだ♪」

「そうだったんですか、それで見付けられたんですか?」

「驚くなよ?…なんと!ほんの1時間程度でほら!6個も見付けたんだぜ☆」

パルマはもう片方のポケットからも虹玉石を取り出し、両手に広げて二人に見せた。

「そんなに簡単に見付かるもんなのか…」

「スゴイですね!グナさんに貰ったやつと合わせて7つ☆売ったらいくらになるんでしょう?」

「そりゃわかんねぇけど…虹玉石を換金して、美味いもん食って、酒飲んで、温泉入って♪…早くサライって町に向かおうぜ!」

「行きましょう♪行きましょう♪」

「そうだな、向かうとするか☆」

三人は、それぞれが意識して、あえてブンバの話題は口に出さなかった。


(ここに来れば、またいつでもブンバに会える)


三人とも心の中で同じことを考えていた。

三人は、ブンバとの思い出を胸にしまい、山道を下って行った。




チャカリヤ山麓の森を抜けると道も平坦になり、もう少しで街道に出るという所で、どこからか助けを呼ぶ声が聞こえてきた。

「お~い!誰か~!…助けてくれなのね~!…」

声に気付いた三人は辺りを見回すが、どこにもそれらしき人物は見当たらない。

三人とも「空耳か?」と思ったとき、再び

「お~い!…そこの旅の人~!…助けてくれ~!…ここ、ここなのね~ん!…」

と、ハッキリと声が聞こえた。

「アインさん、パルマさん、あそこ…あの木の上…」

見ると、少し先の木の上に、何かの箱のような物に入った白髪の老人が、三人に向かって大きく手を振っていた。

「なんだ?あの爺さん…」

「何がしたくて、あんな高い木の上にいるんだよ…あんなの放っといて先に進もうぜ、アイン」

「そうもいかねぇだろ…こんな所じゃ他に誰もいねぇし、名指しで助け求められてんだからよ…」

三人は仕方なく、高い木の上からその老人を救出した。


「いやぁ~助かったのねん♪お前さん達が通りかからんかったら、エジピウスに襲われてたかも知れないのねん」

「エジピウス?」

「ハゲタカが凶暴化した異形種です。巨大化は確認されてませんが、それでも翼を広げると3m以上ある出会いたくない鳥です」

「そりゃ襲われなくてよかった…」

「それより爺さん、あんな高い木の上で何やってたんだ?」

「ワシゃ、バラザード国立科学研究所の天才科学者エド博士なのねん。科学者であると同時に発明家でもあるのねん。今日は朝から気球の実験をしてたのねん」

「科学者?…白衣を着てること以外、ボサボサの髪といい、変な喋り方といい、とても科学者には見えねぇけどな…」

アインは鋭くツッコミを入れた。

「自分で天才とか言ってるところが余計に怪しいし…」

パルマはイタい人を見る目で老人を眺めた。

「エド博士…聞いたことあります。確か、あまり役に立たない変な物ばかり発明してるヘンテコ発明家として有名な…」

ククタも辛辣な言葉で老人を評した。

「それはちょっと言い過ぎなのねん。ワシのハートは深く傷ついたのねん…」

「あ、ゴメンなさい…ちょっと語弊がありました。それで、気球の実験をしていて事故に遭われたんですね?」

「気球??なんだそりゃ?」

「竹で編んだカゴに大きな袋を繋げて、その袋に入れた空気を暖めてカゴごと空に浮かぶ物なのねん。暖かい空気は上昇する、その原理を利用してるのねん。でもこれはワシの発明ではなく、古代文明に実在した物のパクりなのねん」

「てことは…爺さんは、その気球ってやつに乗って、空を飛んでここまで来たのか?」

「空を飛んで?!」

「飛んで来たとゆーより、風で勝手に流されて来たってゆーのが正解なのねん。空気より軽いガスを利用すれば、上昇効率と燃料効率が上がると思ったのが間違いだったのねん。上昇効率も燃料効率も上がったまでは良かったけど、計算以上に上昇してしまって、地上と固定してたロープが切れて、そのまま風に流されてしまったのねん。やがて燃料の油が尽きて、少しずつ降下して、この木に引っ掛かってしまったとゆーわけなのねん」

「まぁ、だいたい言ってることは分かった。で、爺さんはどこから飛んで来たんだ?」

「サライの町なのねん。そこにワシの研究所があるのねん」

「サライの町…」

パルマは嫌~な予感がした。

「ちょうど僕たちもサライに向かってるところなんです」

「ちょ!ククタ!余計なこと言わなくていいんだよ!」

「おぉ♪それならサライまで乗せてってほしいのねん。馬車もあるから気球も乗せられるのねん♪」

「ほら…やっぱこのパターンだ…」

「しょうがねぇな…こんなデッカイ荷物もあるんだし…」

「ありがとうなのねん☆」

三人は、木に引っ掛かっていた気球も下ろし、馬車に乗せた。

幸い、空気の抜けた大きな袋の部分は、折り畳むとエド博士が乗っていた竹カゴにスッポリ入るサイズにおさまった。

それでも、動物の皮を縫い合わせて造られた袋はとても重く、竹カゴにおさまったとは言え、とても老人が一人で運べる重さではなかった。

「良かったな!爺さん!こんなもん爺さん一人で運んでたら、町に着く前に死んじまってたかも知れねーぞ!」

パルマは思いっきり機嫌が悪く、エド博士に冷たく当たった。

「すごく感謝してるのねん☆町に着いたら何かご馳走するのねん☆」

「あたりめーだ!ご馳走くらいじゃ足りないくらいだ!」

パルマはずっとこの調子だった。

「まぁ、そう言うな、困ってる人は助けてやんねぇと後味悪いだろ」

「ったく、どこまでお人好しなんだよ…」


エド博士を連れた三人がサライの町に到着したのは、辺りが暗くなってからだった。




※※RENEGADES ひとくちメモ※※


【エド博士】

本名、エドワード=ストレンジ

バラザード国立科学研究所の科学者

元々キルベガンの出身だが、最愛の妻を病気で亡くしたことをきっかけに、工業技術発展に注力するキルベガンから科学技術発展に邁進するバラザードへ移民した

科学者としての見識を買われ、国立科学研究所に迎え入れられる

専門は飛行科学

発明家としての一面も持ち合わせているが、今のところ画期的な発明はなく、唯一のヒット商品は、茹で玉子の殻を一発で簡単にキレイにむける『茹で玉子殻剥き機』のみ

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