【#59 とんだ災難】

-5107年 3月25日 21:35-


ホーブロー神国 未知の古代遺跡




キュィィィィィィィン…


筒の先端に吸い込まれるように集まる光の粒は、徐々にその数と明るさを増し、やがて大きな光の玉になっていく。

「なんだ、あの光の玉は…」

「なんかとっても危険な感じが…」

四人は無意識に物陰に身を隠し、事の成り行きを見守った。

そして………


ボンッッッッッッッッ!!!


という物凄い破裂音とともに、猛烈な勢いで光の玉が放たれた。

その衝撃は、目には見えない音の波となって四人の体を襲う。

四人は反射的に目を閉じて、両手をかざして顔を背けた。

恐る恐る目を開けた四人が見た信じられない光景は、しばらく誰もが受け入れられないほどの驚愕の世界だった。

「これ、お前がやったのか…」

「ええ、もちろんです。私これでも一応、軍事ロボットですから♪」

壁にポッカリ空いた直径3mほどの真円の穴。

まるで刃物で切り取られたようなその穴は、少しの歪みもなく、まっすぐ一直線に100mほど続き、その先には美しいホーブローの夜空が広がっていた。

「今のは大砲?そんなデカイ弾、どっから発射したんだ?」

「弾を発射したわけではありません。今のはプラズマ砲といって、言わば電気の弾です」

「プラズマ砲?電気の弾?」

「空気中の原子に高い電圧をかけて電子とイオンに電離させた熱平衡プラズマを一気に放出したんです♪」

ポカンと口を開けた四人の表情が、物言わずとも何一つ理解出来てないことを物語っていた…。

「と…とにかく、スゲェ武器ってことだ…」

「そ…そうですね…」

「こんな武器を作れちゃうなんて、古代の科学技術って、私たちの想像の遥か上を行ってたのね」

「これだけの技術があれば、そりゃあ人類が月に行ったってのも納得できるな…」

「鉄砲や大砲みたいな弾じゃないのは理解できましたけど、そのプラズマ砲のエネルギーも電球を光らせるのと同じ電気ってことですよね?その電気って、どこから?」

ククタは、頭のいいククタらしい質問を三男に投げかける。

「私を動かす動力も、プラズマ砲を生み出す電力エネルギーも、どちらも私の体の中にある『リアクター』で作られています」

「リアクター?…」

「また知らねぇ言葉が出てきたぞ…」

「俺の脳ミソは完全にお手上げだ」

「私も…」

目を輝かせて三男と向き合うククタとは対照的に、アイン、パルマ、ミカの三人は、完全に理解の限界を越えていた。

「リアクターというのは、簡単に言えば原子炉のことです。半永久発電機と言えばお分かりいただけるでしょうか?」

「原子炉!?…それって、核融合だか核分裂だかを起こしてエネルギーを得る古代文明の装置ですよね?その原子炉がみっちゃんの体の中にあるんですか!?」

「はい。私の体の中にあるのは超小型リアクターで、大型のリアクターは…ほら、あそこにあります♪」

三男が指差す先にあったのは、広い空間の中央に設置された巨大な円筒状の装置だった。

「ここの施設の電力は、大型リアクター内にある電磁誘導装置で生産されています。あの巨大な円筒の内側は電磁コイルになっていて、超伝導磁石がコイルの周りを高速回転することで電力を得ているのです。超伝導を発生させるために円筒内は常に-196℃以下に保たれる必要があり、空気中の窒素を液体窒素にするために、大型リアクターの核分裂によって得られる電力はもっぱら冷却装置に使用されています。その方が核燃料の消耗を最小限に抑えることが出来、費用対効果が最大になるのです」

「……………」

もはや、ククタの脳ミソもオーバーヒートしていた。

ミカは手鏡を見ながら化粧直しを始め、パルマは鼻クソをほじり、アインは壁にもたれかかって爆睡していた…。


「今の説明で幾つか聞き覚えのある言葉が出て来たんですが、あの巨大な円筒状の装置は、巨大な原子炉であると同時に巨大な電磁石ってことですよね?だとすると、強力な磁界が発生してたりします??」

「普段はそれほど強力な磁界が発生することはありませんが、時折、自動制御されているリアクターが、冷却効果を上げるために出力をアップさせることがあります。気温上昇の影響や冷却装置の不具合のときに。その場合だけ強力な磁界が発生すると考えられます」

「なるほど…それで時々エルマ山の上空にオーロラが発生してたんだ…」

「そうですね♪きっと今も空にはオーロラが輝いてると思いますよ☆どーゆーワケか、先ほど少しの間だけリアクターの出力が最大になりましたから」

「オーロラが輝いてる!?」

ミカは三男の言葉を聞くや否や、化粧道具を放っぽり投げて穴の出口へ駆け出した。

「リアクターの出力が最大になったお陰で、溢れた過電流がケーブルを通して私の体にも流れ、私は目覚めることが出来たのです♪」

「それって、さっきパルマさんがいじったレバーが原因では…?」

「ん?俺が何かした?」

人の話など丸っきり聞いてなかったパルマは、人差し指を鼻の穴に突っ込んだままククタに聞き返す。

「パルマさんがレバーを動かしたのがきっかけで、みっちゃんは目覚めたらしいです」

「あ、そうなの?」

「あなたが私に命を吹き込んでくれたんですか?ならば、あなたが私の命の恩人…今後、私はあなたの命令には絶対服従いたします、マスター♪」

「マ、マスター?!よせよ、そんな気持ち悪い…俺は家来を持てるようなガラじゃねぇし、そもそもレバーを動かしたのだって、たまたまなんだからよ…」

「家来にしていただけないのなら仕方ありませんが…それでも私は、あなたに降りかかる危険から全力でお守りいたします、マスター♪」

「心強いじゃないですか♪パルマさん」

「それは有難いけどよ…アインが何て言うか…」

そのとき、穴の出口でミカが大声で叫んだ。

「みんな来て!オーロラよ☆オーロラが見えるわ☆」

パルマとククタも穴の出口へ駆け出した。

三男は金魚の糞のようにパルマの後を追う。

「すげぇ…」

「これがオーロラですか…☆」

「まるで夜空に光のカーテンがかかってるみたい…キレイ☆」

「夜が明けるまで下山は待ちましょう。現在の外気温は-2℃です、今夜は施設内に…」

「お前、気温が分かるのか?」

「はい。気温だけじゃなく様々なセンサーが内蔵されていますので、マスター♪」

「マスター?…あなた、いつからみっちゃんのマスターになったのよ?」

「知らねぇよ、コイツが勝手に…」

「コイツとかお前じゃなく、どうぞ気軽にみっちゃんと呼んでください、マスター♪」

「……………(-_-;)」

「だらしなくて臆病なパルマには、これ以上ない家来が出来て良かったじゃない♪アイン様もきっと認めて下さるわ☆」

「そう言えばアインさんは?」


アインはオーロラを見ることなく、元いた場所で大イビキをかいていた…





遡ること30分前………


エルマ山9合目付近でビバークする一行がいた。

雪崩を生き延びたモスタールと特命部隊の一行だった。

「まったく!!山頂まであと一歩とゆー所まで来て足止めとは…このままではアイン王子を取り逃がしてしまうではないか!」

モスタールは、いつにも増して機嫌が悪かった。

「そう言われましても、テントや食料は犬ゾリと一緒に雪崩で流されてしまいましたし…気温も氷点下となってしまっては、雪が凍って滑落の危険が大きくなります…」

「そんなことは分かっておる!全ては犬ゾリが流されたのがいけないんじゃ!何が悲しくてこの歳になってカマクラを作らねばならんのだ!」

「カマクラの中は暖かいので、今晩はここで一夜を明かす他ございませぬ…」

「ふん!…とんだ災難とは、まさにこの事じゃ」

誰に向けるでもないモスタールの八つ当たりが続く中、カマクラの外で声がした。

「モスタール卿、あれをご覧ください☆」

カマクラの外から手招きでモスタールを呼ぶ兵は、なぜか喜びに満ちた明るい表情をしていた。

「何じゃ、外の方が暖かいとでも言いたいのか?…」

モスタールは渋々ながら、笑顔で手招きする兵に導かれ、カマクラの外に出た。

他の兵もカマクラの外に出る。

「あちらです☆」

兵は、そう言いながら夜空を見上げた。

そこには、この世のものとは思えない光のカーテンが、まるでそよ風を受けてるかのようにゆらゆらとなびいていた。

「う…美しい…」

「これがエルマ山の謎の光か…」

「なんとも神々しい光じゃ…☆」

機嫌が悪かったはずのモスタールも、他の兵も、しばらくの間みんなが恍惚の表情で光のカーテンを眺めていた。

「ん?何じゃ?…我々の足元にも光が…」

モスタールは、自分たちが立つ地面とカマクラの内部が青白く光っていることに気付く。

光のカーテンに照らされて光っているのではなく、下から、地面の中から照らされてるような、そんな光りだ。

そのことに気付いたのはモスタールだけだった。

「錯覚ではないぞな?確かに光っておるよの?」

見間違いでないことを確認すべく、少しでも広い視野で捉えられるようモスタールが数歩下がったときだった…


ドォォォォォォン…!!


光は一気に明るさを増し、他の兵たちも地面から光が差していることに気付いた瞬間、突然地面から現れた光の玉が夜空の果てまで突き抜けていった。


モスタールたちにとって、本当の『とんだ災難』だった。


モスタールたちがビバークしていた場所には、直径3mほどの真円の穴がポッカリと口を開けていた。

カマクラも、雪崩を生き延びた兵たちも、2機の鉄騎兵も、もちろんモスタールも、光の玉と共に吹き飛んでいた…




※※RENEGADES ひとくちメモ※※


【この59話に出てくる科学技術】

話の中に出てきた様々な科学技術、リアクターとかプラズマとか超伝導とか…これらは全て、作者の「確かこんなんじゃなかったっけ…?」というレベルの、ちょっとでもそれっぽく聞こえるようにアレンジされた内容ですので、決して正しい説明ではありません…m(._.)m

ですので、正しい知識をお持ちの読者の方からすれば「何をテキトーなこと言ってんだ!」と叱られそうですが、そこはあくまで空想の物語とゆーことで、寛大に御容赦願います…

今後も無知識のせいでトンチンカンなことを書くことがあるかと思いますが、大きな心で読んでいただけたら幸いです☆   飛鴻

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