【#15 対決】

-5107年 3月12日 6:01-


キルベガン領 ソミュール 寺院本堂前



「なぜ攻撃をやめる?…私が目を瞑っているからか?」

男の言葉には、どこか余裕すら感じられた。

「てめぇ……目を瞑ってても俺の攻撃は当たらないと思ってるのか?…ナメんなよ?」

アインは、屈辱的な男の行動に怒りを顕にした。

「そうか…気を悪くしたなら申し訳なかった……先に話しておくべきだったか…」

「今さら何だってんだよ」

「私は目を瞑っているのではない… 生まれつき目が見えないのだ」

「!!………何!?」

男が瞼を開くと、その目には黒目が存在しなかった…

「見ての通り、私は光を感じたことがない… 何も見えない…しかし、全てが見えている」


「見えないのに見えてる?何言ってんだ…」

パルマは理解不能だった。

「おそらく、それも『気』の…」

ククタは理解していた。


「気は私にとって光でもある。それぞれが放つ気が、光となって万物を形作る。その光は色を伴い、その色で相手の心も読みとれる」

「なるほどな… 目は見えなくても、気の光で形を捉えてるのか。だから攻撃もかわせるってことだな…」

「その通りだ。形として捉えるだけではない、気の流れをよむことで次の攻撃まで見えてくる」

「へぇ、そうかい… でもよ、オッサン、これから闘おうって相手に、そんなタネ明かししちまっていいのか?」

アインは不敵な笑いを浮かべた。

「タネ明かしをしたつもりはない。なぜなら、理屈が分かったところで、お前には気をコントロールすることなど不可能だからだ」

「そんなもん、やってみなきゃ分からねぇだろ? 要は、気の流れってやつを読ませなきゃいいだけだろうがよ!ォらぁぁぁッッ!」

アインは盲目の男に構わず攻撃を仕掛けた。


右、左、右、左、左、上、下…


アインの攻撃は、突きも蹴りも全てかわされた。

「なるほど、どうやら言ってることは本当らしいな…」

「お前の攻撃は当たらないと最初から言ってるだろう」

「今のはウォーミングアップってやつだ、これからギア上げてくぜ?覚悟しろよ?」


(ん? コイツ…一気に気が膨らんだ? それに何だ、コイツの気には色がない… こんなことは今まで一度も…)


「ボーっとしてんじゃねぇぞ!ゥりゃぁぁぁッッ!」

攻撃は徐々にスピードを増していく。

それでも全ての攻撃が当たらない。


(どんどん気が膨らんで…コイツを形作る白い光が大きく……なんだコイツは…)


攻撃は絶え間なく続いた。

それでも尚、男は攻撃をかわし続ける。

しかし、アインの勢いに押されてか、男は自分でも気付かぬうちに、少しずつ、ジリジリと後退していた。

一方のアインは、自分の攻撃のあまりの不発さにイライラしていた。まるで、おちょくられているような、弄ばれているような、そんな感じがしたからだ。

アインの放つ気の光が、少しずつ、怒りを表す赤色を帯びてきたことで、男はアインのイラつきを敏感に感じ取っていた。


(いいぞ、気の乱れは心の乱れ、心が乱れれば無駄な動きが増え、無駄に体力を消耗する… 勝機は我にあり!)


アインは一端、攻撃の手を休め、男との間合いを取るために後ろへ大きくジャンプした。

そこで目を閉じ、大きく深呼吸して呼吸を整え気持ちを落ち着かせる。


(何!?… 光が… 光が消えた!?)


一瞬、男は怯んだ。

死んで光を失う以外、気の光が消えることなど今まで一度も経験したことがなかった。

男は無意識に、掌をアインがいるはずの方向へ向けていた。


(これは… 無… 無の境地だと?まさか…)


「てめぇ…攻撃はしないんじゃなかったか?」

突然現れた声のする方へ、男は慌てて掌を向ける。

「こ、これは防御だ… 相手の動きを封じることは攻撃ではなく防御だ! むんッッ!」

「へぇ、そーゆー解釈なワケね…」

アインは体を捻って掌の延長線上から外れる。そうすることで、動きを封じられることはなかった。

「むんッッ!」

「ふんッッ!」

その度にアインは体を捻って延長線上から外れた。

男が何度も気を放っても、アインの動きを封じることは出来なかった。

男の額に一気に汗が噴き出した。

「てめぇだけに都合いい解釈してんじゃねぇぞ!コラぁぁぁぁぁあッッ!!」

アインは一気に怒りを爆発させた。


(な、何だこの光は!?… 大き過ぎて形がつかめん… 眩しすぎて何も見えん!!)


「ぅオぉぉぉぉラぁぁぁぁッッ!!」

アインは拳を振り上げ、男に突撃した。

「う、うわぁぁぁッッ!!…」


ドスッッ!…


アインの腹に、棒がめり込んでいた。

その棒は、男が弓とともに背中に背負っていた棒だった。

男の体の中心とアインの体を結ぶ直線上に突き出された棒の端を、男は両手でしっかり握っていた。

「て……てめぇ………」

アインはそのまま気を失った…。


-------


「う……うぅ……」

「あ!気がつきましたか、アインさん!」

「それにしても、アインにしては珍しくタイミングばっちりなカウンター食らっちまったなぁ」

「俺はどれくらい気を失ってたんだ…」

「一時間くらいです」

石畳に横たわるアインの左右には、パルマとククタが心配そうな面持ちで座っていた。

そして足元にもう一人、苔色のローブを纏って腕組みをしている男が立っていた。

「!!……てめぇ!…イタタタタ…」

急に起き上がろうとしたアインだったが、腹を押さえて顔を歪める。

「まだ無理ですよ!もうしばらく安静にしてないと!」

「さっき無理やり痛み止めの薬草飲ませといたからよ。心配すんな、口移しで飲ませたワケじゃねぇから」

「てめぇ…てめぇは攻撃はしねぇって決まりじゃなかったか?」

「咄嗟のこととは言え、本当にスマン… 決まり事を破った私の敗けだ」

男は深々と頭を下げた。

「当たり前だ!あのまま行ってりゃ間違いなく俺の拳は当たってたはずだ!イタタタ…」

「その通りだ。あまりの気迫に圧倒され…無意識に手が出てしまったのだ」

「てめぇも攻撃してくると分かってりゃ、それなりの対応は出来たんだ!イテテテ…ちくしょう!これじゃヤられ損じゃねーか!」

「そう怒るなよ、オッサンも敗けを認めて謝ってんだし…。それにホラ、ちゃんと弓も返って来たしな♪」

パルマの手には、しっかりブルージュの弓が握られていた。

「じゃあ、何とかの秘密ってやつは?」

「聖武の秘密、それもしっかり聞きましたよ、驚くくらいすごく簡単なことでした♪」

「簡単なこと?」

「おう♪実に簡単♪弓に名前を彫るだけで良かったんだ☆」

「名前を彫るだけ?…本当か?オッサン」

「本当だ。お前を突いてしまったこの棒…これはもう1つの聖武、ブルージュの棒だ。その証拠に、弓と同じ材質、弓と同じ模様が彫刻されているのが分かるだろう。そしてココに私の名前が刻まれている」

「ホントだ、確かに同じ模様が彫ってありますよ。そしてココに……読めないけど、名前っぽい文字も彫ってあります」

「たしかアインと申したな?あとでお前の名前を彫るといい。名前が刻まれてる者しか、その武器の本当の力を引出すことは出来ないのだ」

「…これはパルマの物だ、彫るのは俺の名前じゃねぇよ」

「何?!…私は、お前の持つ気の力を認めたからこそ敗けを認め、素直に弓を返したのだぞ?」

「そんな事はどうでもいい、俺は気なんて分からねぇし、仲間の物を奪ったりしねぇ… この弓はパルマの物だ、だからパルマの名を刻む」

「仲間か………まぁ、それも良かろう。元々その弓はお前達の物だからな」

「本当に俺の名前でいいのか?アイン…」

パルマは不安そうに聞いてきた。

「当たり前だ。あとはパルマ自身が、この弓の本当の力ってやつを引出せるように努力すればいいんだ。そうだろ?」

「そうだな、頑張るよ」

パルマは涙ぐんでいた。

「パルマとやら、精一杯励んで、我が国の聖武ブルージュの弓をしっかり守ってくれよ」

「はい!わかりました!」

「私はもう1つの聖武を探してまた旅に出る。私はアナムル王国の僧、名はチェンロン。お前達とはまたどこかで出会えるだろう、大地を流れる気がそう告げている…。 三人とも達者でな☆では、さらばだ」


チェンロンと名乗ったアナムル王国の僧は、最後の聖武を求めてまた旅立って行った。

「仲間…私は仲間というものを知らないが……なかなか良いものだな」

チェンロンは、誰に向けるでもなく独り言をつぶやいた。




※※RENEGADES ひとくちメモ※※


【 気 】

国や地域によってオーラとかフォースと呼ばれることもある、万物に共通する生体エネルギーの流れ

気の流れをよむことで、相手の動きを察したり感情や健康状態を見抜くことが出来ると言われている

また、修行を積んで気を極めれば相手の動きさえ操れるとされるが、その信憑性は定かではない

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