第4話 詩帆からの連絡



 ――ポムポム!


「ぬあぁぁぁぁ!?」


 すぐ傍から聞こえてきたその音をキッカケに、聖は妄想の中から帰還した。


「はぁ、はぁ……わ、私は、何を考えて……!」


 顔を真っ赤に染めながら、今さっき妄想していたことを思い出す……が、すぐに忘れるように頭を横に振るう。


「うぅ、何を考えてるんだ私は!」


 聖は自分でもあまり気づいていないが、意外と妄想癖があり、家のベッドの上でそういうことを妄想してしまうことが時々ある。


 しかし今回は実体験を交えていたから、妄想がとても捗ってしまった。

 無意識に今も、自分の唇に手を当てていて、ハッと気づいて自分で頬を叩いた。


「くっ……わ、私にこんなことを想像させるなんて! 許さないぞ、久村……!」


 自分の妄想のせいだということは棚に置いて、全て久村のせいにする。

 実際、久村があんなことを言ったりしなければ、こんな妄想をすることはなかったのだから、ほとんどの責任は久村にあると言ってもいい。


「そ、そういえば、RINEレインの音が聞こえたな」


 先程の聖の妄想を邪魔……ではなく、悪化を防いでくれたのは、連絡アプリであった。


 誰かから連絡があると独特な音で知らせてくれる。

 スマホの画面を見ると、やはり誰かから連絡が来ていたようだ。


 RINEのアプリを開くと、誰から連絡が来たかがすぐにわかる。


 先程の連絡は、どうやら詩帆だったようだ。

 詩帆とのトーク画面を開くと、そこには……。


「えっ!? な、なんで……!?」


『聖ちゃん、私と教室で別れた後……久村くんと一緒にいた?』


「な、なんで詩帆がそれを知って……?」


 まさか詩帆に、あんな恥ずかしい現場を見られていたのか……!?

 そうなると恥ずかしすぎて、詩帆とどう顔を合わせればいいのかわからない。


 いやその前に、どんな顔をして久村と今後顔を合わせればいいのかは、詩帆以上にわからないが。


「と、とりあえず、返すか……」


 詩帆の連絡になんて答えればいいのか迷いながらも、とりあえず応える。


『ああ、久村があの後教室に来てな』


 とりあえずそれだけ打って送ってみて、詩帆の様子を見る。

 あの久村からの熱烈な告白のシーンを見られていたとしたら、それはもう、顔から火が出るくらいに恥ずかしいことだ。


 それにあの告白の前に、聖が重本に少し好意を寄せていたという話もしている。


 どこから詩帆が聞いていたのか、全くわからない。


 出来れば最低でも、聖が重本に好意を寄せていたという話は聞いてないといいのだが。

 まあ今となっては、重本のことなんて完全に頭からなくなり、久村のことしか頭にない。


「ど、どこから聞いてたんだ……」


 メッセージを送るとすぐに既読になった。

 そして一分も経たないうちに、返事が来た。


『そうだよね。あの声、久村くんだよね。聖ちゃん、久村くんに告白されたの?』

「ぐはっ……!?」


 やはり詩帆は、告白のところを聞いていたようだ。

 それだけでもとんでもないダメージが聖には入ってしまったが、さらに連投でメッセージが来る。


『だけど久村くん、聖ちゃんのことを聖ちゃんって呼んでたっけ? それもビックリしちゃった』

「そ、それは、私も初めて呼ばれた時はすごく驚いたが……!」


 告白をする直前まで、普通に「嶋田」と呼ばれていたはずだが、いきなり「聖ちゃん」呼びになっていた。

 ただなぜかわからないが、久村はすごく呼び慣れた様子だった。


(もしかして、久村は私がいないところでは、聖ちゃんと呼んでいたのか……? な、なんとも恥ずかしいことを……!)


 ただ呼び慣れていたからかわからないが、別に嫌ではなかった。

 むしろしっくりきていたのが、聖も少し戸惑うところだ。


 そんなことを考えていたら、さらに「ポムポム」という独特な音が響き、詩帆からまたメッセージが届いた。


 どうやら詩帆も興奮しているのか、連投が続く。


『久村くん、本気って言ってたね! 本気で聖ちゃんのことを好きだって!』

「ぐっ……!」


 ポムポム。


『それに、絶対に幸せにするって言ってたよ! 私にじゃないってわかってたけど、言葉だけでもドキッとしちゃった!』

「くっ、そ、それは、私もそりゃ……」


 ポムポム。


『聖ちゃんはなんて答えたの? というか付き合ったの? どうなの?』

「ま、待ってくれ詩帆! ちょっと落ち着いてくれ!」


 電話でもないのにきたメッセージに対して、そう叫んでしまう聖。

 やはり詩帆も花の女子高生、恋話がとても好きなのだろう。


 次のメッセージが来る前に、聖がメッセージを打って送る。


『付き合ってはない』

『えっ、じゃあふっちゃったの?』


 聖がメッセージを送ってからこの返事が来るまで、約五秒。


『ふってない!』


 それだけのメッセージだが、先程の返事の速度を上回る早さで答えていた。


『ま、まだ保留中というか、考えさせてくれって言ったんだ』

『そうなんだね。じゃあどうするの? 多分聖ちゃんのことだから、今までずっと考えていたんだろうけど』

『別にずっと考えていたわけじゃ……』


 告白をされてからもう数時間も経っている。


 さすがにその間ずっと考えていたわけじゃない。


 明日の授業の宿題などもやっていたし、夕飯を食べている時はテレビを見ていた。


 ただまあ、いつもよりも宿題が終わる時間がすごく長かったし、テレビを見ていたけどその内容は覚えてないし、さらには夕飯も何を食べたのか覚えてないのは、別に久村のことをずっと考えていたとか、そういうわけじゃない……と思っていたい聖だった。


『返事をどうするか決めた?』

『まだ、決めてない……』

『ふふっ、そうなんだ。だけど聖ちゃんのことだから、脈なしだったらすぐにふってたよね』

「くっ、今日の詩帆は、なぜこうも攻めてくるのだ……!」


 既読がついてから数秒、数十秒の間に返事が返ってくるのだが、なぜこうも的を得たことを言ってくるのかも疑問だ。


 詩帆と聖がとても仲がいい親友だから、わかってしまうものなのかもしれない。


『だけどそうだよね。あんなに熱烈に告白をされちゃったら、意識するのも仕方ないよね』

『別に意識をしているわけじゃないが』

『嘘でしょ。聖ちゃん、絶対に今も顔真っ赤』

「か、監視カメラでもついているのか!? それとも、ビデオ通話になってるのか!?」


 部屋を見渡して監視カメラを探しても見当たらず、スマホもビデオ通話にはなっていないようだ。


『だけど絶対に幸せにするって、久村くんカッコよかったね。私も言われてみたい』

『くっ……だがあいつは、私の何を持って好きといったのか……』

『えー、だって聖ちゃんすごく可愛いじゃん』


 詩帆はいつも聖にそう言ってくれるが、特に他の人からそう言われたことはないので、多少のお世辞が入っていると思っていた。


 しかし久村からは、お世辞なんていう感情や雰囲気は全く見えなかった。


『た、確かにあいつからも、可愛いとかカッコいいとか綺麗とかいっぱい言われたが……私自身は別に、詩帆の方が可愛いしな』


 聖がそのメッセージを送ると、先程よりも少しだけ返事が遅くなったが、それでも早くに返ってきた。


『聖ちゃん可愛いしカッコいいもんね! それに優しいし!』

『久村からも、優しいとかも言われたが……別に私は詩帆のことが友達として大事なだけで、優しいわけじゃ……』

『聖ちゃんは優しいよ! だけど久村くんも優しそうだよね!』

『確かにその、私が転びかけた時に支えてくれたのは優しかったが、抱きかかえられるとは思っていなかったぞ! それのその後も、まさか壁ドンをされるなんて……』


 聖がそのメッセージを送った後、また少し時間が空いて……詩帆からメッセージが届く。


『聖ちゃん、気づいてる? すごく惚気てるよ?』

「はっ?」


 そのメッセージを見て、今までのやりとりを遡って確認する。

 ……確かに、言われてみれば、久村からこんなことを言われた、あんなことをされたと惚気ているようにも見える。


 恥ずかしくなってすぐにまたメッセージを送る。


『ち、違う! そんなつもりはなかったんだ!』

『うんうん、わかってるよ。聖ちゃんはそういう子じゃないってね』

『詩帆は私の何なんだ、母さんか』


 思わずメッセージでそうツッコミを入れてしまう。


『詩帆だって見たのだから、知っていたのだろう。あまり茶化さないでくれ……』

『ごめんね。だけど私、見てはないよ?』

「……えっ?」


 詩帆からのメッセージ、「見てはない」というのを聞いて、思考が一度ストップする。


 その間に詩帆からまた連投でメッセージが来る。


『多分私が見聞きしたところは、聖ちゃんが教室から出ていくところだけ。そこで久村くんが、聖ちゃんのことを好きだし絶対に幸せにする、って言ってたのは聞いたよ。逆に、そこしか知らない』

「……嘘」

『だから久村くんが聖ちゃんのことを可愛いとカッコいいとか綺麗とか言ってたことも、優しいって言ってたことも、さらには抱きかかえられて壁ドンをされたことも知らないよ』

「……詩帆、まさか」

『まさか聖ちゃんがこんなに喋ってくれると思っていなかったよ。やっぱり聖ちゃん、まだ恥ずかしくなったりして、慌ててたんだね』

「ハメられた……!」


 詩帆からスタンプという絵文字のようなものが届く。


 そこには「ごめんねっ」と可愛らしく謝っているような猫のスタンプがあった。



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