第2章

第40話 月曜日



 月曜日、というものは、日本人のほとんどがあまり好きではないのかもしれない。


 休み明けである月曜日、通勤通学をしていて、仕事や学校が苦痛な人は、「めんどくせえ……」と思いながら目を覚まし、重い身体を起こす。


 日曜日の夜がずっと続いて欲しいから、夜更かしする人もいるだろう。


 俺も昔はそんなことをして、余計に翌日の体調が悪くなり、学校やバイトがキツくなったこともあった。

 そんな俺だが最近は「土日よ早く終われ!」と思うくらいになってしまったのだ。


 自分でもこれほど変わるとは思っていなかったが、まあ理由はとても明白だ。


 月曜日の朝、いつもなら「また一週間が始まってしまう」と思っていたが……。


「ふむ、とても清々しい朝だ!」


 寝起きもとてもよく、部屋の窓をバッと開けて太陽光を浴びる。

 なんとも健康的な朝なのだ。


 部屋を出てリビングに行くと、すでに凛恵が起きて朝ご飯を作っていた。


「んっ……おはよう、お兄ちゃん」

「おはよう、凛恵」


 凛恵はまだ眠いのか、目が開き切ってない状態で朝ご飯を作っている。

 見てて少し危なかっしいが、これが凛恵のいつも通りなのだろう。


「凛恵、朝ご飯一緒に作るか」

「……えっ? お兄ちゃん、料理出来るの?」

「ん? あー、まあ軽くならな」


 前の世界ではカフェでバイトをしていたから、簡単な料理なら出来る。

 さすがに毎日朝昼晩作ってくれている凛恵には負けるが、そこら辺の女子よりも出来ると思う。


 凛恵の隣に立ち、野菜を切ってサラダを作る。


「……なんか、本当に手慣れてるね。いつから出来るようになったの?」

「ふっ、俺はなんでもこなす天才だからな」

「……バカじゃないの」


 朝から妹に罵声を食らってしまった、まあクスッと笑った顔が可愛いからいいか。


 そのまま二人で朝ご飯を作り、一緒に食べる。

 というか俺達の親は、めちゃくちゃ朝早く家を出てるんだな。


 学校に余裕で行ける時間に起きても、もうすでに仕事に行っているのか。


 そんなことを考えながら凛恵と一緒に作った朝ご飯を食べ終わり、それぞれ部屋に戻り学校へ行く準備をする。


「よし、行くか、凛恵」

「うん」


 制服に着替えた俺達は一緒に家を出て、いつも通り俺が自転車に乗り、その後ろに凛恵が乗る。


「忘れ物はないか?」

「うん、大丈夫。お兄ちゃんこそ、お弁当持った?」

「ああ、持ったぞ。凛恵が作ってくれた弁当を忘れるわけないだろ」

「……んっ、なら大丈夫」


 一瞬だけ返事が遅れたようだが、何か気にすることがあっただろうか。


「じゃあ出発するぞ」

「ん、よろしく」


 この世界ではおそらく許されているであろう二人乗りをして、学校へと行くためにペダルを漕いだ。



 学校に近づくにつれて、いつもだったら「今日もめんどくさいなぁ、あの授業があるし」とかネガティブなことを考えていた。


 ぶっちゃけ今も少し考えているが。


 俺は文系なので、数学とか物理が苦手なのだ。

 月曜日はその苦手な教科がどちらもあるので、最悪だ。


 だけどそれでも、もう俺が今後「月曜日よ、来るな! どっか行け!」と思うことは、二度とないかもしれない。


 その理由はもちろん……あの子だ。


「聖ちゃん!」


 俺は目の前に見えた女の子の名前を、自転車を漕ぎながら呼んだ。

 スマホを見ていた彼女は名前を呼ばれてビクッと一瞬だけしてから、こちらを見てきた。


 銀色の短い髪が、風に揺られて太陽の光を反射しながら美しくなびいている。


 ぱっちりとしたつり上がった目が、俺のことを貫いてきてドキッとした。

 ようやく見慣れた制服姿なのだが、どれだけ見慣れても可愛いという感想が出てこなくなることはないだろう。


「おはよう、久村」


 自転車で近づくと、軽く笑みを浮かべてそう言ってくれた聖ちゃん。


「おはよう、聖ちゃん」

「おはようございます、聖さん」

「ああ、凛恵もおはよう。今日も兄妹仲がいいようで何よりだ」

「べ、別に、普通ですけど……」


 後ろに座っている凛恵が、自転車を降りながら恥ずかしそうに言う。


「今日も一緒に行くか、凛恵」

「……うん、そうする」


 いつも凛恵は俺と二人で登校する時は、この辺から一人で歩いて、俺が自転車で先に行くということをしていた。


 凛恵もお年頃なので、兄である俺と二人で登校するのを友達にあまり見られたくないのだろう、うん、なんか自分で言ってて悲しくなった。


 だけど俺が聖ちゃんと一緒に学校に行く時、凛恵も一人で行くのではなく、一緒に登校するようになったのだ。


 朝から彼女である聖ちゃんと一緒に、さらには可愛い妹と一緒に登校出来るなんて、最高だな。


「聖さん、お兄ちゃんと二人きりの時間にお邪魔してすいませんね」

「別に構わない。久村の妹の凛恵も、すでに私にとっては大事な女の子だから」

「っ……そ、そうですか……」

「聖ちゃん、ちょっと俺の妹を口説こうとしないでくれないかな?」

「く、口説こうとなんてしていないぞ。ただ事実を言っているだけだ」


 なおさらタチが悪いやつじゃないですか。

 聖ちゃんはもちろん可愛いのだが、同時にカッコいいも備えているハイブリット系女子だ。


 原作の情報だが、聖ちゃんは男性から告白されたことはないが、女性から告白されたことは何度もあるらしい。

 そんなに女性に告白されるものなのか、と思っていたけど、凛恵への態度を見ると女性にモテるのはわかる。


 なんか仕草や言動がカッコいいのだ、男よりも女性に対して紳士的というか……上手く説明出来ないが。


 だけどもう聖ちゃんは俺のものだから、男にも女にも渡したくはない。


「とりあえず学校に行こうか」


 俺がそう言って、自転車を降りて押して歩き始める。


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