第41話 一緒に学校へ



「とりあえず学校に行こうか」


 俺がそう言って、自転車を降りて押して歩き始める。

 俺の左隣に聖ちゃんが、そしてその左に凛恵が並んで歩く。


 聖ちゃんを俺達兄妹が挟む感じだ。


 俺と聖ちゃんは毎日一緒に登校するわけじゃない。

 毎日一緒に登校していたら、さすがに付き合っているとバレてしまうかもしれないからだ。


 だから週に二日、月曜日は一緒に登校するのは確定の日。


 あと一日は、聖ちゃんが一緒に行きたい日に、待ち合わせ場所に来てくれと頼んでいる。

 そうした方があと一日、月曜日以外の日は「聖ちゃん、あの場所にいるかなぁ」と思って登校出来るから、俺としてもとても楽しいのだ。


 今日は月曜日なので、確実にいる日だった。


 だから俺はもう、「月曜日よ、来ないでくれ」と思って土日を過ごすことはないだろう。


 それだけ聖ちゃんと学校に一緒に行くというのが、楽しみなのだ。


「聖ちゃん、数学の宿題やった?」

「土日の課題のやつか? もちろんだ」

「さすが聖ちゃん」

「その言い方だと、久村はやってないのか?」

「いや、やったよ、一応。全部答え見てやったけど」

「それじゃあ意味がないだろう」

「やらないよりはマシでしょ、ほら、勇一とか絶対にやってこないと思うし」

「底辺と比べてどうするんだ」

「思った以上に酷い言い方するんだね」


 うちの学校、東條院学院は県内でもトップクラスの進学校だ。

 東條院グループが作った学校が、進学校じゃないわけがない。


 だがこの「おじょじゃま」の主人公である重本勇一は、運動神経と顔がいいのに、頭は結構悪い。

 二年生の中で最下位をギリギリ取るか取らないかレベルだ。


 俺は、中の中だ。良くも悪くもない。


 そして聖ちゃんは学年でもトップクラス。


 意外と成績がよくないのが、聖ちゃんの親友である藤瀬詩帆。

 あの子は俺と同じぐらいか、ちょっと下くらい。


 そして……学年一位を一年生の時から一回も譲ったことがない、東條院歌織。

 あの人はさすがだ、もう本当何でも完璧。


 苦手なものを探す方が難しい。


 まあそれは聖ちゃんもなんだけど。


「凛恵は宿題やったか?」

「お兄ちゃん、バカにしないで。お兄ちゃんみたいに答えを見るなんてことせずに、ちゃんとやったよ」

「さすが凛恵、いい子だな」

「それが普通でしょ。ねえ、聖さん」

「まあそうだな。私は宿題を答え見てやったことはないな」


 聖ちゃんも凛恵も偉いなぁ。

 ちなみに凛恵も結構頭はいい、聖ちゃんほどじゃないけど、学年の中でもトップクラスだろう。


 自慢の妹、そして自慢の彼女だろう。


 ……俺ももうちょっと勉強頑張ろう。



 そんなことを三人で話しながら、学校に到着した。


 一年生と二年生で教室の階が違うので、昇降口あたりで凛恵とは別れる。


 そして俺と聖ちゃんは一緒のクラスに入った。


「おはよう、聖ちゃん」

「ああ、おはよう、詩帆」


 教室に入ったらすぐに俺と聖ちゃんは分かれて、聖ちゃんは藤瀬のもとへ、俺は勇一の方へ行くのがいつもだ。

 少し寂しいが、教室でもずっとくっついていたら付き合っているとバレてしまうからな。


 俺としては別にバレても問題ないのだが、やはり聖ちゃんは恥ずかしいようだ。


 だが他の人に聖ちゃんの可愛いところがバレたくないから、積極的に言いふらすことはない。


 それに……男の嫉妬は、怖いからな。


「はよ、勇一」

「ん? ああ、司、はよ。宿題見せて」

「第一声がそれかよ、馬鹿が」


 この作品、「おじょじゃま」の主人公である重本勇一。

 俺が来るまで眠かったのか机に突っ伏す形で寝ていたが、顔を上げて俺の姿を捉えた瞬間にそれかよ。


「やっぱりお前は宿題やってねえのか」

「ふっ、俺を誰だと思ってるんだ。俺だぞ?」

「ああ、知ってた。じゃあお前もわかるだろ? 今まで俺がお前に無償で宿題を見したことはあるか?」

「……昼飯奢りで」

「俺の可愛い可愛い妹が作ってくれた弁当があるから、いらないな」

「か、缶ジュース一本」

「土日の宿題、結構キツかったからなぁ。缶ジュース一本じゃ足りねえよなぁ」

「くっ……コ、コンビニのスイーツ、二つで」

「ふむ、悪くないだろう」


 俺はカバンから宿題の紙を取り出し、勇一に渡した。


「くっそー、足元見やがって」

「お前がしっかり宿題をやってくれば、こんなことにはならないのだよ」


 コンビニスイーツ、二つか……聖ちゃんと一緒に買いに行こうかな。


 聖ちゃんは甘いものが大好きだから、喜んでくれるだろう。



 そんなこんなで授業が始まり、あっという間に……というほどではないけど、なかなか疲れながらも昼休みに。

 今日は俺の嫌いな数学と物理があったから、昼休みになるまでが長く感じた。


 さて昼休みになったので、いつも通り俺は勇一と一緒に教室の端っこの方で、机と椅子を移動させて五人が固まって座れるようにした。


「重本くん、久村くん、ありがとう」


 机を移動させたところで、藤瀬と聖ちゃんが弁当を持ってやってきた。


「こんくらいおやすいご用だ」


 先週の月曜、つまりちょうど一週間前から、俺達は一緒に昼ご飯を食べるようになった。

 その主な理由が……。


「勇一! 今日もご飯を作ってきたわ!」


 そう言いながらうちのクラスにやってきた美少女、東條院歌織だ。


 勇一のことを狙っている幼馴染の子で、藤瀬とライバル関係にある彼女だ。

 東條院さんが一週間前に、このクラスのど真ん中で、勇一に愛の告白をした。


 それに対抗するように、藤瀬も同じタイミングで告白をしてしまった。


 その日からずっと、昼休みになったらこの五人で机を固めて食べることになったのだ。


 俺としてはいろんな意味で楽しい時間なのだが、おそらくこの時間で一番天国と地獄を味わっているのは、勇一だろう。


「はい、勇一。愛妻弁当よ」

「あ、ありがとうな、歌織」

「ふふっ、ええ、妻なら当然のことよ、夫のお弁当を作るなんてことは」

「いや歌織、俺達別に結婚してるわけじゃないだろ」

「あら、そうだったわね。『まだ』結婚してるわけじゃなかったわ」

「むぅ……!」


 まずいつも最初に東條院さんから手作りの弁当をもらうのだが、その時にいろんな視線が勇一を襲う。

 まずはすぐ隣にいる藤瀬からの視線、頬を膨らませて睨んでいるが、まあこれは可愛らしい嫉妬の視線だ。


 だがクラス中の男から飛んでくる視線は、嫉妬というよりも殺気が込められた視線だ。


 先週の月曜から毎日のことなので、もう周りの男達も慣れたかと思ったのだが、まだ全然殺気を込めた視線を送っていた。


 まあすぐにそれに気づいた東條院さんが、怖い笑みでクラスを見渡す。


「あら、何か?」

「いえ! なんでもありません!」


 一人の男がそう答えて、周りの男達も大きく頷く。

 あの東條院さんに目をつけられるのはめちゃくちゃ怖いから、その反応は正しいだろう。


「久村くん、今、何か私に対しておかしなことを考えた?」

「いえ全く」

「そう、ならいいわ」


 読心術を覚えているのかな?

 東條院グループの一人娘は、そんなことも出来るように教育されたのかと思って、めっちゃビックリした。



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