第13話 放課後デートの帰り
聖は横で歩く久村の笑い顔を見上げながら、自分も無意識に口角を上げてしまう。
放課後で最初に二人きりで会った時はどうなるかと思ったが、告白の前のように普通に話せていた。
(いや、前のように、ではないか……こいつが時々、何かしらぶっ込んでくるから)
告白をされる前は、久村が聖に対して「可愛い」とか言ったことは一度もなかった。
しかし今日もカフェとかで話している間、そしてカフェから出た今も、何回かそういうワードが久村の口から出ていた。
その度に異性から言われ慣れてない聖は、恥ずかしい思いをしていた。
(なのにこいつは、何回も何回も言ってきて……もしかしてこいつは、女性にそう言うことを言うのは慣れているのか?)
そんな考えを持ち出すと、何やら心の中でモヤモヤが広がる。
久村がそういうことを色んな女性に言っているとはあまり思えないが、一度考え出すと止まらない。
「ん? どうしたの、聖ちゃん」
話している途中に考え込んでしまい、少し黙り込んでしまったようで、久村が問いかけてきた。
「いや、その……お、お前は……いや、なんでもない!」
「なになに? 気になるんだけど」
自分以外の女性にも、可愛いと言っているのか?
(なんて聞けないだろう! そんなことを聞けば……ヤ、ヤキモチを焼いているみたいじゃないか!)
そう思って聞くのにためらったが、この心のモヤモヤは聞かないと消せない気がするので、勇気を持って問いかける。
「お、お前は……よく私のことを、可愛いと言ったりするが……」
「まあ、そうだね。だって可愛いし。あっ、もちろん可愛いだけじゃなくて綺麗とも思ってるよ」
「っ……ほ、他の女性にも言ってるんじゃないか。とても言い慣れているようだからな」
「えっ?」
そんなことを言われるとは思っていなかったのか、久村は目を見開いて驚いていた。
しかしすぐに答える。
「言ったことないぞ、本当に。聖ちゃんだけにしか俺は言ってない……あっ、悪い、違うわ、言ってる奴いた」
「っ……ほ、ほら、いるのではないか」
最初の「聖ちゃんだけ」ということで嬉しくなったのも束の間、すぐに否定されてしまった。
やはり久村は他の女性にもそういうことを言う奴だった。
(いや、別にそういう女性を褒める言葉を言える奴というのは、いいではないか。別に私だけじゃないとしても……)
「妹にも言ってたわ。今日の朝とか」
「はっ? 妹がいるのか?」
「ん? あー、そうだな。まだ知らなかったか」
「お前から聞いてないのだから、知らないに決まっているだろ」
「そりゃそうだよな。凛恵っていう妹がいるんだが、凛恵に言うかな。だけどそれ以外には言ってないよ」
「そ、そうか……」
妹だったらいいのか……と思ったが、逆に違う心配をしだした。
「久村は、シスコンなのか?」
「なんでそうなる。違うぞ、俺はシスコンじゃない」
「じゃあ、妹が彼氏を家に連れてきたらどうする?」
「うーん……どうだろ。凛恵に彼氏……あいつと付き合うのはサブヒロインだから無理だと思うし……」
何やら難しい顔で考え込んでいる久村。
「そんなに悩むなら、シスコンではないのか?」
「いや、妹に彼氏が出来るか心配になっただけで、あいつが好きになった彼氏なら別にいいんじゃないか」
「そうか。それならまあシスコンではないのか」
「じゃあ逆に、聖ちゃんは兄が一人いるって言ってたけど、どうなの? ブラコンだったりする?」
「いや、私は違うが、あっちは少しシスコン気味だったかもしれないな。歳が離れているからこそ、小学校や中学校では可愛がってくれていた」
「そ、そっか、じゃあ聖ちゃんが彼氏を作ってその人に紹介したら……」
「反対されるかもな」
「マジか……それは大変そうだ」
久村が少し引きつった顔でそう言った。
それを見て聖は、久村が自分の兄のことを面倒に思って自分と付き合う気がなくなったのかと思ってしまった。
「い、いや、もちろん私がちゃんと好きで付き合っているのであれば、認めてくれる兄ではあると思うぞ」
「んっ? そうなんだ。えっ、てか今の、俺と付き合って紹介する設定で喋ってた?」
「っ!? い、いや違う! ま、まだそんな話はしてない!」
「そ、そっか、わかった」
聖の言葉でまた気まずくなってしまった二人の空気。
(くっ、余計なことを言ってしまったか……しかし、久村も兄妹がいたのだな。妹か……どんな子なのだろう)
先程は久村が自分の兄と会う時のことを考えてしまったが、逆もあるはずだ。
いつか久村から妹を紹介された時、しっかり挨拶を考えなければいけない。
付き合うのであれば、家族の人とも仲良くならないと……。
(って違う! だからなぜ私は付き合ったことを前提で……!)
また顔が赤くなり、妄想を振り払うように頭を振るう。
「ど、どうした、聖ちゃん」
「い、いや、なんでもない」
そんなことをしていると、分かれ道にきてしまった。
「じゃあ聖ちゃん、日曜日のデートについて、また何かあったらRINEする」
「ああ、そうだな……RINEといえば、昨日はその、なぜ私からの連絡を返さなかったのだ?」
「えっ? あっ、ごめん、聖ちゃんのRINE見てから寝落ちしちゃったんだ」
「そ、そうか、それならいいが……」
昨日の夜、心配だったことが聞けてスッキリした。
「本当ごめん、今度から気をつける、というか絶対に返事する」
「いや、大丈夫だ。しかしやはり詩帆が言ってた通り、寝落ちをしていたのか」
「申し訳ない……ん? 藤瀬が言ってた通り? どういうこと、俺と聖ちゃんがRINEしてたこと知ってるの?」
「あっ……」
久村にはそのことは伝えていなかった。
そこで二人はまた少し立ち止まり、久村が聖に向かって帰り間際に告白をしていた言葉を、詩帆が聞いていたことを伝える。
「マジか……えっ、じゃあ今日、なんかちょっと藤瀬に見られているな、と思ったのはそういうことか」
「す、すまない、詩帆はあの時の一部しか見ていなかったようだが、勘違いした私がほとんど喋ってしまった」
「は、恥ずっ……!」
「も、もちろん私も詩帆も、他の人に言い触らすつもりはないから、安心してくれ」
「そ、それはわかってるけど……!」
(というか私はもう絶対に、他の人になんてあんな恥ずかしいことは話せない……!)
最後に二人とも恥ずかしい思いをしながら、二人はそれぞれ帰路についた。
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