第12話 放課後デート?



 そしてようやく、今回聖ちゃんを呼んだ理由を説明出来る。

 俺が「実は……」と話を切り出し、日曜日の勇一と藤瀬がデートすることを、東條院歌織に知られたということを話す。


「そうか、あの女に……」


 聖ちゃん的には、東條院歌織はそこまで好んでいないのだ。

 親友の藤瀬の恋愛の邪魔をする者なので、やはり好きにはなれないのだろう。


「デートの邪魔をしに来るということか?」

「多分、というか絶対に来ると思う」

「はぁ、一番知られてはいけない奴に知られたのか。何をしているんだ」

「それに関してはすまん、まさか聞かれるとは思ってなかったから」

「まあ過ぎたことはいい。とにかく、東條院にデートの邪魔をされたくないから、協力してくれということか?」

「まあ、勇一の要望ではそうだな」


 俺がそう言うと、聖ちゃんは少し考えるように黙り込む。


「もちろん断ってもらっても構わないぞ。俺達に悪いとか思わずに」

「いや、協力はする。なんといったって詩帆のためだ」

「えっ、マジか」

「ああ、詩帆が勇気を出して告白をしようとしているのだ。それを邪魔されるわけにはいかないだろ」


 さすが親友思いの聖ちゃんだ、すぐに協力してくれることを決めたようだ。


「だが邪魔をされないようにすると言っても、どうやるのだ? 相手はあの東條院グループの令嬢だぞ?」


 そうなのだ、邪魔を阻止するといってもどうすればいいか全くわからない。

 東條院グループは、この世界でトップクラスの会社だ。


 総資産は一千兆を超えると言われているのだが……高校生の俺にはよくわからん。


 そんな会社が現実でもあるのか? ここは漫画の世界だからな。


 とりあえず東條院歌織は、めちゃくちゃすごい大金持ちの家の令嬢さんということだ。


 その人が本気で邪魔をしてきたら、多分どうしようもない。

 有り余る財力でなんでもしてしまうだろうから。


「阻止するといってもどうするつもりなのだ? 何か策はあるのか?」

「全くないな。そう思うと、どうやっても無理じゃね?」

「ああ、私も難しいと思う。詩帆の邪魔を絶対にさせたくはないが……」

「……ん? いや、待てよ」


 そういえば忘れていたが、これって原作でもこの展開はあったよな?


 いや、もちろん久村司と嶋田聖がこのカフェで喋っている展開ではない。


 今回のデートを、東條院が邪魔をしにくるという展開だ。

 その展開通りに邪魔をしようとするのであれば……ワンチャン、邪魔を阻止出来るかもしれない。


 だけど今回で原作通りに進んでいないのは、デートの前に東條院に知られてしまったということだ。


 原作では当日に東條院がデートをすることを知るので、デートの邪魔は最低限しか出来ていなかった。


 だが今回は、事前に邪魔の準備をされている可能性が高い。


 原作通りの邪魔じゃなければ、阻止は出来ないが……まあやるしかないか。


「なんとなくだけど、東條院がやる邪魔はわかる気がする」

「本当か? 根拠は?」

「あんまないけど、強いていうなら東條院の性格を考えて、かな」


 原作でも久村司と東條院歌織は多少仲がいい。


 久村司は勇一と東條院の二人が付き合うのを邪魔せず、むしろ応援していた。

 まあほぼからかい半分、だったけど。


 だから東條院とは少し仲がいいので、一応性格は少なからずわかっているつもりだ。


 まあ今回の場合、性格を知っているからじゃなくて、原作を知っているからなんだけど。


「そうか、だが何も対策なしよりはマシか。どうするのだ?」


 聖ちゃんがなんとかフランチーノを飲みながら、俺に問いかけてくる。


「とりあえずまず、デートの前日、つまり土曜日の夜、勇一を俺の家に呼ぶ」

「はっ? どういうことだ?」

「多分東條院なら、日曜日の朝から重本の家を見張っている可能性がある。だから勇一は俺の家からデートに向かうことになる」


 実際に、原作ではデートのことを知らなかったのに、勇一の家の前にいた東條院。

 多分普通に遊びの誘いをしに来たんだろうが、勇一はデートがあるので東條院を撒いたのだ。


 勇一が慌てて撒いたことにより、東條院は不思議に思い勇一に隠れてついていき、デートの現場を見たのだ。


 だからまず今回も勇一の家の前に、東條院がいる可能性が高い。


「そういうことか。では詩帆も私の家から向かったほうがいいか?」

「いや、多分そこは大丈夫だと思う。東條院さんは勇一がまず誰とデートに行くのかは、わかっていないと思う。それに、デートだということもまだわかってないかもしれない」

「そうなのか?」

「東條院さんは、『勇一が日曜日に私に言えない何かがある』と思っているはずだから、勇一と藤瀬が二人きりで会っているところを見て、そこで初めてデートだとわかると思う」


 多分、まだ勇一と藤瀬の二人がデートすることは知られていないはずだ。

 だけど当日は確実に、邪魔をしに来るとは思うが。


「むっ? ではデートの場所は、知られていないのか?」

「ああ、そうだな、多分知られてない」

「では東條院に重本を追跡されないなら、それで終わりじゃないか? さすがに東條院も、デートの場所まではわからないだろう」

「……あっ、確かに」


 そうか、原作では勇一が追跡されたからデートだとバレて、そしてそのまま跡をつけられて邪魔をされた。

 だけど今回の場合、東條院は二人がどこに行くかを知らないのだ。


 だから東條院に見つからずに勇一をデートの場所まで送り出せば、その時点で勝ちが決定か。


「ふむ、なら特に私がやることはないみたいだな」

「そうかもしれない。ごめんな、放課後の時間をもらったのに」

「いや、大丈夫だ。詩帆のデートが台無しにならずに済むのならば、これくらいお安い御用だ」


 めちゃくちゃカッコいいな。


 男前すぎてイケメン、惚れるわ。あっ、もう惚れてた。


「やっぱり聖ちゃんは優しいな」

「っ、べ、別に、このくらい普通だ」

「ははっ、さすが聖ちゃん」


 俺が褒めるとすぐに顔を赤くしてしまった聖ちゃん。


 多分あまり褒められ慣れてないのだろう。

 いつまでもそのままでいてほしい、めちゃくちゃ可愛いから。



 そして俺と聖ちゃんはその後、軽く雑談をしてカフェを出た。


 軽く雑談といったが、だいたい三十分ほどカフェで二人きりで話していただろうか。


 死ぬほど幸せな時間だった……最高かよ。

 学校のことや、勇一や藤瀬の話など、話題は特に尽きることはなかった。


 カフェを出てまた二人で話しながら歩いていた。


「えっ、聖ちゃんってお兄さんがいるんだ」

「ああ、一人いるな。もう社会人で一人暮らしをしているから、家にはもういないが」


 初めて知った。

 これも原作では出ていない情報だ。


 どうなんだろう、原作でも聖ちゃんには兄がいたのかな?


 あー、だけどそうか。


「だから少年漫画とかアニメが好きだったのか……」

「っ!? な、なぜお前がそれを知ってる!?」

「えっ、あっ……」


 そうだ、この話は久村司に言ってないよな。

 原作では聖ちゃんが藤瀬のために勇一のことを調べていて、二人が仲良くなっていく過程で、そんな話が出てくるのだ。


 聖ちゃんが少年漫画とかそういうのが好きな理由は、おそらくその兄の影響なのだろう。


「その、勇一から聞いて、な」

「あ、あいつ、内緒にしろと言ったのに……!」


 ごめん、勇一。

 俺はもちろんあいつから何も聞いてないが、漫画の情報で知ったなんて口が裂けても言えないだろう。


「別に恥ずかしいことじゃないだろ? ほら、俺も少年漫画好きだし」

「そ、そうか? 私みたいな女が少年漫画が好きなんて、似合わないだろ」

「別に漫画の趣味に似合う似合わないは関係ないだろ」


 本当にマジでそれは思う。


 俺は少女漫画はあまり読まないが、男でも少女漫画を読む奴はたくさんいると思うし、それがキモいなんて全く思わない。


 人にはそれぞれ趣味があるからな。


「それに、俺は聖ちゃんと少年漫画の話が出来るなら、すごく嬉しいよ」

「っ、そ、そうか……それなら、よかった」


 恥ずかしそうに頬を赤らめて、そっぽを向く聖ちゃん。

 似合う似合わないの話じゃないが、そういうのを少し気にしている聖ちゃんが俺的には可愛くて頰が緩んでしまう。


「なっ、お前、笑ってるだろ!」

「ははっ、ごめんごめん。だけど似合わないから笑ってるんじゃなくて、聖ちゃんのこと可愛いなぁ、と思ったから笑っちゃっただけ」

「くっ、それも私をからかってる意味では同じことだ!」


 そんな楽しい話をしながら、俺と聖ちゃんは歩いていた。



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