第21話 デートへ
勇一が不審な動きをしている間に、俺は部屋を出て一階に向かう。
俺の家の構造上、リビングを通らないと玄関にいけないので、リビングのドアを開ける。
するとすでに朝飯を作って食べている凛恵がいた。
「凛恵、おはよう」
「んっ……おはよう。あれ、お兄ちゃん出かけるの? 朝ご飯は?」
凛恵が座っている席の対面の席、いつも俺が座っている席だが、そこにはすでに朝ご飯が用意されていた。
やべっ、凛恵に朝ご飯いらないって言うの忘れてた、悪いことしたな。
「すまん、ちょっと急いでるからいらないわ。昼もいらないから。その朝ご飯は上にいる勇一に食わしてやってくれ」
「えっ、勇一さんとは一緒には出かけないの?」
凛恵の口から「勇一さん」という言葉が出たが、とても新鮮で聞き覚えがない言葉だ。
原作で凛恵は勇一のことを、「重本先輩」とか「先輩」と呼んでいたからな。
うーん、距離が近くなったような、遠くなったような。
原作では先輩呼びなのが可愛い、というファンが多かったと思うが。
まあどうでもいいか。
「あいつも俺も、違う人と待ち合わせしてるんだ。あいつは俺よりも後に出る。多分一時間後くらいにこの家を出ると思うけど、俺の部屋からは出ないと思うから、大丈夫か?」
「う、うん、わかった……だけどお兄ちゃん、そんなに急いでどこに行くの?」
「人を待たせないように、ちょっと早めに待ち合わせ場所に行くだけだ」
うん、ほんのちょっと、約束の時間の一時間前に行くだけだ。
「えっ……も、もしかして、女の人と出かけるの?」
「まあ、そうだな」
しかも超大好きな聖ちゃんと……うわー、改めて思ったらめちゃくちゃ緊張してきた。
俺はリビングを抜けて玄関で靴を履く。
すると朝ご飯を食べていた凛恵が、玄関までついてきた。
まさか、「いってらっしゃい」を言いに、お兄ちゃんのために朝ご飯を食べるのをやめて、玄関まで来てくれたのか?
なんと可愛い妹なのか……!
「え、え……お兄ちゃん、今日、デートなの?」
「デート……とは少し違うが、まあ女の子と二人で出かける、というのは合ってるな」
「う、嘘……」
「嘘じゃねえよ、さすがにそんなに悲しい嘘つかないぞ」
玄関のドアの方向を向きながら座って靴を履いているので、後ろにいる凛恵の顔は見えない。
だけどなんか、声を聞く限り少し落ち込んでるような……。
そう思いながら外靴を履き、立ち上がり凛恵の方を向く。
「じゃあいってくる。朝ご飯作ってくれてごめんな、勇一に食わしたら絶対喜んでくれると思うから。むしろあいつが喜ばなかったらぶっ飛ばしていいから」
「……う、うん、わかった」
「ん? どうした、なんか元気ないが……」
「いや、大丈夫……いってらっしゃい」
「ああ、いってきます」
可愛い妹に「いってらっしゃい」を言われるのは、やっぱり嬉しいな。
少し呆然としている凛恵にちょっと疑問を抱きながらも、俺は玄関のドアを開け外に出た。
外に出てまずやることは……周りを見渡す。
いつもはこんなことしないのだが、今日はしないといけない。
なぜかというと……あっ、もしかしてあれか?
俺の家を出てすぐのところに、黒い車が止まっていた。
リムジンほど目立つ車ではないのだが、よく見ると普通に高級車だ。
こんな朝早く閑散な住宅街に、あんな高級車があるのは不自然だろう。
近所に住んでいる人の車かもしれないが、それだったら普通に家の駐車場とかに置いておくはずだ。
つまりあれは……おそらく、東條院さんの車だ。
俺は気づかないフリをしながらその車の前を通って、待ち合わせ場所へ向かう。
向かっている間に、俺はRINEを打って勇一と聖ちゃんに送る。
やっぱりデートの場所までついてくる可能性が高い、と。
するとすぐに勇一から返事がくる。
『マジか……悪いが歌織の阻止を頼んだぞ』
『了解。で、ゴッキーは始末した?』
『いやマジでどこにいるかわからんから、全然くつろげねえよ』
使えん奴め。
するとまたすぐに聖ちゃんからもRINEがきた。
『そうか。それなら私達がしっかり詩帆と重本のデートを見守り、阻止しないとな。ところで、久村はもう家を出ているのか? 約束までは結構時間があるが』
あっ、やべ、聖ちゃんにこの時間に外に出ていることがバレてしまう。
『いや、まだ出てない。窓から外を眺めて、怪しい高級車があっただけだ』
『そうか、それならいい』
あっぶねー、俺が楽しみすぎて一時間も前に家を出て、待ち合わせ場所に向かっているなんてバレたら、恥ずかしすぎるもんな。
それに聖ちゃんに余計な気を使わせてしまうかもしれないし。
ん? 聖ちゃんから連投でRINEが……。
『その、遊園地に行くのは久しぶりだから、楽しみにしている』
「っ……可愛すぎる……!」
聖ちゃんはどうやら、待ち合わせの前に俺の心臓を止めにきているようだ。
可愛すぎて辛い、心臓が痛い……。
聖ちゃんみたいなクールな子がこういうメッセージを送ってきてるというギャップが、もうね、語彙力がなくなるくらい可愛い。
『俺も、聖ちゃんと一緒に遊園地行くの、めっちゃ楽しみだ』
自分の正直な気持ちを送り、俺はウキウキ気分で電車に乗り待ち合わせ場所へと向かうのだった。
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