第20話 デート当日
……日曜日が、来てしまった。
いや、来てしまったという言い方だとなんか嫌だった、来て欲しくなかったみたいな感じになってしまうな。
聖ちゃんとほぼデートをするのだから、めちゃくちゃ嬉しいに決まっている。
俺と勇一は俺の部屋で一緒に寝て、バッチリと目が覚めた。
もちろん俺がベッドで優一が床に敷布団を敷いて寝ていたが……ベッドで寝ている俺が全然寝れず、敷布団のこいつが熟睡していた。
いや、そりゃ寝れないだろ、普通。
漫画を読んでいた頃から大好きで推しキャラだった聖ちゃんと、遊園地デートするんだぞ?
逆に寝れる奴がいたら、そいつはおそらく本当にそのキャラを好きではないのだ。
それか勇一みたいに、神経が図太いやつか。
こいつも今日、藤瀬に告白するんだよな?
なんでそれなのに前日の夜、めちゃくちゃ爆睡出来るんだよ。
神経図太いというか、そういう神経が死んでんじゃねえか、こいつ。
「ふぁぁ……よく寝た。よし、今日は頑張るぞ!」
「寝起きもいいな、お前は」
「ん? おお、お前も朝早いな」
「お前には言ってなかったが、俺と嶋田はお前らよりも早く待ち合わせしようって話をしてるんだよ」
「そうなのか! マジでありがとうな、俺達のために!」
「……ああ、まあ気にすんな」
ほとんど寝れなかった俺に対して、しっかり八時間睡眠をした勇一に何か恨み言でも言おうとしたのだが……こんな晴れ晴れした笑顔を見せられたら、言う気も失せた。
ほんと、顔がいいってズルいよなぁ。
俺は勇一よりも先に起きて、すでに出かける準備は出来ている。
「なぁ、俺の服、おかしいところはないよな?」
「ん? 別にないと思うぞ。普通に似合ってる」
「普通じゃダメだろ! 相手はあの聖ちゃ……嶋田だぞ!? 隣にいて見劣り……は絶対にするけど、ギリギリ隣にいて許されるくらいにはなってるか!?」
「いきなりどうした!? 大丈夫だよ、司も普通にカッコいいんだから」
「だから普通にじゃダメだろ!」
「めんどくせえな!」
この世界の久村司になった俺だが、顔とか身体は前の世界の俺になっている。
どういうことだか説明が出来ないのだが、この世界に入っていることに比べたら、もう気にしてもしょうがない。
俺の顔は……普通だ。
別にブサイクではない、と俺は思っている。
顔のレベルで言えば、中の上くらい……真ん中よりは上、くらいには思っていたい。
ただこの漫画の世界の登場人物は、もう顔のレベルが高すぎて……。
主人公の重本勇一を始め、ヒロインの東條院歌織、藤瀬詩帆、そして聖ちゃん。
全員、なぜアイドルやモデルになっていないのか不思議なくらいに、顔がいい。
聖ちゃんなんて俺から言わせてみれば、ただ天使だから。
アイドルやモデルなんかじゃ収まりきらないから。
まあとにかく顔についてはしょうがないから、せめて格好だけでも聖ちゃんの隣に立っても大丈夫なくらいにはしておきたいのだ。
「というか、準備するの早くね? 何時に約束してんの?」
勇一がパジャマから私服に着替えながらそう聞いてくる。
くっ、こいつは……シンプルな格好なのに、顔とスタイルが抜群にいいから、嫌味なほど似合ってるな!
「お前らが十一時に約束してたから、俺達は十時半に約束してる」
「今、九時だけど?」
「嶋田と待ち合わせしてるんだぞ? 一時間前に着くのは常識だろ」
「どこの常識だよそれ」
聖ちゃんを俺が一秒でも待たせるわけにはいかないだろ。
聖ちゃんは意外とおっちょこちょいだから、もしかしたら早めに家を出て待ち合わせ場所についているかもしれないしな。
絶対、絶対に俺が先についておくのだ。
しかも聖ちゃんが一人で待っていたら、ナンパに会うかもしれない。
そんな現場を目にしたら、ナンパしている男に俺は何をするかわかったもんじゃないぞ。
「お前も藤瀬を待たせるわけにはいかないだろ?」
「そりゃ男として先に待つのは当たり前だが……せいぜい十五分前とかだろ?」
「ダメだな、お前は俺のようにはなれないようだ」
「なりたくねえよ別に」
聖ちゃんを絶対に幸せにするのだから、俺はそれくらい軽くこなさないといけない。
というかこのくらい、全然苦ではないだろ。
むしろ一時間も聖ちゃんが来るのを待てるなんてご褒美に近い。
「勇一は何時に出るつもりなんだ?」
「俺は十一時の十五分前に着けばいいと思っていたが……お前に見習って、三十分前に着いた方がいいのかな?」
「ふっ、それくらいで俺に追いつけるとは思うなよ?」
「追いつきたいと思ってないので大丈夫です」
ふん、軟弱者めが。
「司が先に出るのに、俺はまだこの家にいていいのかよ」
「まあ大丈夫だろ、勇一だし。ただ妹の凛恵に手を出したら全力で殺すからな」
「怖えよ! 瞳孔開き切ってるんだけど!」
俺の可愛い可愛い妹を守るためだ、瞳孔くらい開くだろ。
「お前、最近なんか怖くなること多くない?」
「普通だよこんくらい。まあ凛恵にはお前のことを話しておくから、家を出るまで大人しくしとけば大丈夫だ」
「おう、わかった。サンキューな」
だが実際、もうこいつが俺の家からデート場所に向かう意味はあんまりないんだよな。
すでに東條院さんに勇一がここから出かけると知られているからだ。
まあこれから勇一が自分の家に帰るのもダルそうだし、別にいいか。
「じゃあ俺はもう出るから」
「マジか、本当に一時間前に待ち合わせ場所に行くんだな」
「当たり前だろ。俺の部屋の中で適当にくつろいでるんだな」
「ああ、そうさせてもらう」
「あっ、言い忘れたが、昨日の夜お前が寝た後、ゴッキー君が出て始末出来ずに逃したから、まだ俺の部屋にいると思う」
「くつろげねえじゃねえか!」
俺が聖ちゃんとのデートで緊張して寝れない時に、いきなりあの黒い悪魔が出てきたんだよな。
適当な紙を丸めて対決したんだが、逃してしまった。
俺とゴッキー君が戦っている間も勇一は熟睡していた、こいつマジでやばいな。
「出来れば始末しておいてくれ」
「マジかよ……」
勇一は壁や床を見渡していたが、もちろん目立つような場所にはいない。
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