第19話 迷う服のコーデ


 その後、詩帆の言う通りに一つ一つ着て、コーデを確かめていく。


「こ、これは、恥ずかしいだろ! お腹とか、見えてしまっているぞ……!」


 詩帆が最初に選んだのは、へそが出るほど丈が短いセーターだった。


『聖ちゃんめちゃくちゃスタイルいいんだから、大丈夫だよ! くびれもすごい綺麗で、おへそも可愛いんだから!』

「へ、へそが可愛いという感性はよくわからないが……さすがにこれは着れないぞ」

『えー、もったいない。それだったらもう絶対に、久村くんをメロメロに出来るのに』

(それに胸も大きいから、そのセーターだとすごい強調されてセクシーなんだよね。まあこれは言わないでおこうかな、悔しいし)

「べ、別にメロメロにしたいわけじゃ……」

『だけど可愛いって思ってもらいたいでしょ? 言われたいでしょ?』

「それはまあ……うん。だ、だが、さすがにこれは無理だぞ!」

『うーん、わかった。じゃあ……』


 詩帆のオススメをいくつか聞き、その中で聖が「これなら着れる」、というものを決めた。


 詩帆が選ぶものはスカートではないものの、どれも可愛い系で聖の趣味とは少し違うものばかりだった。

 理由を聞くと、「だって聖ちゃんの可愛いところを、久村くんに見せてあげないと!」というなんとも恥ずかしい理由だった。


 とりあえず明日、聖がデートで着ていくものを選び終わった。


『聖ちゃんもデートか……じゃあ聖ちゃん、もう返事はしたの?』

「うっ……まだしてないし、返事をどうするか決まってもないのだが」

『えっ、まだ返事してないのにデートすることにしたの?』

「な、なんか、流れで……」

『どういう流れかはわからないけど……まあデートは別に付き合っている男女じゃなくてもすると思うし、私も明日するから何も言えないけど。だけど聖ちゃんは久村くんに告白……じゃなかった、プロポーズされてるんでしょ?』

「プ、プロポーズじゃない!」


 数十分前、どこかの誰かが違う場所で同じことを言っていたが、聖と詩帆は知る由もない。


『返事をする前にデートしちゃったら、久村くんすごい期待しちゃうというか……』

「うっ……や、やはりもう返事をしないといけないだろうか」

『うん、そう思うよ。やっぱりあまり待たせちゃいけないと思う』

「そう、だよな……うん、わかった。明日、返事をする」

『うん! 付き合うか付き合わないかは、聖ちゃんが明日のデートでしっかり考えて決めればいいと思うよ!』

「そ、そうだな」


 久村とは告白する前から多少のやり取りはしていたが、知らないことの方が多い。

 告白されてから二人で色々と喋って、久村のことをよく知った。


 親友想いなこと、妹がいること、少年漫画の趣味が同じこと、コーヒーはミルクとガムシロを一つずつ入れて飲むこと……。


 それ以外もいっぱい知ることが出来て、明日のデート……正確に言えばデートではないのだが、形はデートである。


 明日のデートでもっと久村を知って……それから返事をしよう。


『ねえ聖ちゃん』

「ん? なんだ?」

『ぶっちゃけ、付き合う可能性の方が高いでしょ?』

「なっ!?」


 まだビデオ通話をしているので、からかうように笑みを浮かべて行ってきた詩帆の顔がはっきりと見える。

 もちろん、今の言葉で顔が真っ赤になった聖の顔も、詩帆からよく見えているだろう。


「ま、まだわからない! 明日のデ、デートで、あいつの嫌な部分がいっぱい出てくるからもしれないからな!」

『あはは、じゃあ今のままだったら付き合うってことかな?』

「っ……! も、もう切るぞ! 服を選んでくれたことは助かった!」

『ふふっ、そうだね。そろそろ遅い時間だし……ねっ、聖ちゃん。明日はお互いに頑張ろうね』

「っ……ああ、そうだな」

『うん、じゃあ、おやすみ』

「おやすみ」


 そして恋する二人の女の子は、お互いの成功を祈って電話を切った。



 ……その後、聖が寝ようとした時にあることに気づく。


「あっ……待て、詩帆に服を選んでもらったけど、その服を着てったら……バレるかもしれない」


 本来の目的は久村とデートではなく、詩帆と重本のデートを見守ることだ。

 つまり同じ場所、遊園地に行くので、バレないように遠くから見ている必要がある。


 そこまで近づくつもりはないが、詩帆が選んだ服を着ていったら……遠くにいても、バレる可能性が飛躍的に上がるだろう。


「ど、どうしよう……!」


 本来の目的であるデートを見守るというのが出来なくなるのは、それこそ本末転倒だ。


 だから先程詩帆に選んでもらったコーデ、いくつか全身コーデを組んでもらったのだが、それらは全部着ることは出来ない。


 もちろん詩帆にもう一度聞くのは出来るわけがない。


 つまり自分でもう一度最初から、しかも詩帆のアドバイスもなしで、詩帆が選んだコーデ以外のものを考えないといけない。


「くっ……さ、さらに難しくなってしまった……!」


 明日は昼前から詩帆と重本が待ち合わせをする。

 それに合わせて、聖と久村はもう少し早い時間に到着するようにして、東條院の邪魔がいつ来てもいいように備える必要があった。


 だから詩帆や重本よりも早く行かないといけないので、あまり夜更かしはしたくない。

 しかし服のコーデが全く決まっていないから寝れない。


「は、早く決めないと……!」


 聖のおっちょこちょいな部分が出てしまったので、とても焦りながら明日の服のコーデを考える。


 だがやはり難しく、最終的にはいつも詩帆と遊ぶ時に着るような服のコーデになってしまった。

 もちろん別に変ではないが、せっかくのデートなのにいつも通りというのも……と聖自身が思ってしまう。


 しかしもうそれしか考えられる服のコーデがないので、しょうがない。


 明日は早いので早く寝た方がいい、そう思ってベッドに潜り込むが……。


(ほ、本当に服はあれでいいのだろうか……もっと考えた方が……いやでも、私一人じゃあれ以上のコーデは作れない……それなら詩帆に言われた通りのコーデに……いやそれはダメだ、バレてしまう可能性が高くなる……いやしかし……)


 そんなことをずっと考えていて、ベッドには入ってから一時間は眠れなかった。



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