第18話 その頃、聖は
「……ん? もしかしてこれ、私と久村のデートになるのか……?」
聖はRINEのメッセージを久村に送ってから数分後、そのことに気づいた。
土曜日の夜、明日は親友の詩帆が重本とデートをする大事な日。
そんな時に、久村からRINEで連絡が来た。
少しドギマギしながら見ると、最悪なことに、明日の詩帆と重本のデートの場所が東條院にバレる可能性が高まったとの話。
何をやっているのか、と呆れるが、過ぎたことはしょうがない。
考えるべきなのはどうやったら二人のデートが邪魔をされないか、である。
聖が一人で考えた結果、自分が二人のデートに内緒についていき、東條院が邪魔しに来たらそれを防ぐということだった。
それを久村に伝えて重本からも了承され、さらには久村も一緒についてきてくれるとのこと。
一人であの東條院歌織の邪魔を防げるか不安だったから、久村がいると心強い、と思ってメッセージを送ってから、気づいた。
詩帆と重本のデートを見守るという目的だが、形だけで言うと二人で遊園地にデートしに行く、ということになるのでは、と。
「くっ……き、気づくんじゃなかった……!」
すでに二人でデートを見守ろう、という了承のメッセージは送っている。
今から「一人で行く」と伝えることは不可能。
それに聖も、二人で行った方が楽しめると思ったのも事実だ。
「い、いや、楽しむことが目的ではなく、あくまで東條院の邪魔を阻止するという目的が……!」
自分自身にそう言い聞かせるが、一度意識してしまったら、その考えを捨て去ることは難しい。
行為自体は、ほとんど遊園地デートなのだ。
「うぅ……男と二人で出かけるなんて、初めてだから……!」
初めてのことはもちろん誰でも緊張する。
しかも相手は聖のことを大好きで、ほぼプロポーズをしてきたあの久村である。
なおさら緊張してしまうだろう。
「ま、待て、デートの服はどうすればいいのだ……!」
聖の中で完全にデートとなってしまっているが、そこはもういい。
今悩んでいるのは、明日着る服だ。
久村とデートするのに、どんな格好をすればいいか全然わからない。
部屋のクローゼットを開けて、自分の服を見てみるが……デートで着るべきものなど全くわからない。
「ど、どうすれば……そ、そうだ、詩帆に……!」
聖はいつも詩帆と服を買いに行ったりしている。
なので詩帆だったら聖がどんな服を持っているかも知っているし、聖が似合う服もわかっているだろう。
そう思ってスマホを手に取り、詩帆に電話をした。
コールが一つ二つと響き、繋がる。
『もしもし、聖ちゃん? 急にどうしたの、珍しいね』
「ああ、急にすまない。実は……」
ここまで言って、聖は言葉が止まる。
(な、なんて説明すればいいんだ……!)
勢いで詩帆に電話をしてしまったが、なんて言うべきか悩む。
まず絶対に言ってはいけないのは、明日の詩帆と重本のデートに自分と久村がついていく、ということだ。
詩帆にはついていくことを言ったら、心配をかけてしまう。
それだけは絶対にダメだ。
『どうしたの? 何かあった?』
「あ、ああ……ちょっと待ってくれ、説明の言葉を考えているのだが……」
詩帆と重本のデートについていく、ということを言わないようにするとなると……聖が久村とデートすることになった、と伝えるしかない。
(は、恥ずかしいが……! そ、そう言うしかない……!)
本当は詩帆達のデートを見守りに行くだけなのだが、それを知られてはいけない。
自分の羞恥心よりも、詩帆に心配をかけないことを優先する。
「じ、実は……その、久村に、デ、デートに誘われて……」
『えっ!? 本当に!? わー、いつなの!?』
「あ、明日だ」
『明日!? じゃあ私と同じ日に、聖ちゃんも久村くんとデートするんだ!』
「そ、そういうことになる……」
『わー、そうなんだぁ。なんか嬉しいなぁ、聖ちゃんもデートかぁ……』
「うっ……そ、それで、久村とデートするのは決まったのだが、服を迷っていてな……」
『それで私に相談ってことだね。任せて! 久村くんをメロメロにする格好を考えてあげる!』
「そ、そんなにしなくていい! あ、あくまで普通で!」
『えー、だけど久村くんに可愛いって言われたいでしょ?』
「そ、それは言われたいが……あいつにはいつも言われてるから、別に……」
『……えっ? 今、惚気られてる?』
「の、惚気てなんかない!」
ということで、詩帆が選びやすいように、ビデオ通話に変更してスピーカーにする。
そして机にスマホを立てかけて、聖が服を詩帆に見せていくということになった。
『聖ちゃん、明日は久村くんとどこにデートしに行くの?』
「へっ!? ど、どこにって……な、なんでそんなことを聞くんだ?」
『なんでって、どこに行くかで服も変わってくるからね。私は明日遊園地に行くんだけど、やっぱり動きやすい格好にしたよ。色んなものに乗ると思うから、ミニスカも履けないしね』
「そ、そうなのか……」
つまり聖も行くところは同じなので、動きやすくてミニスカは履いてはいけない、ということだ。
『それで、どこに行くの?』
「えっと……わ、私も詩帆と同じように、少し動くような場所だ」
『へー、じゃあスポーツ出来る場所ってこと?』
「そ、そんな感じだ」
『アラウンドワン、とか?』
「そ、そうだ」
アラウンドワンとは、いろんなスポーツが一つの施設で楽しめるところだ。
『じゃあ聖ちゃんもミニスカは無理かな』
「もとから私は、スカートなど履くつもりはあまりなかったが……」
そもそも聖は、スカート系はほとんど持っていない。
『えー、聖ちゃんスカートすごい似合うよ?』
「私のキャラじゃないし、詩帆には負ける」
『そんなことないのに……前に試着して買ったミニスカも、すごく可愛かったよ?』
「あ、あれは私が自分から買ったものじゃないからな! 詩帆がどうしてもというから……!」
『あれを久村くんに見せてあげたら、絶対にイチコロなのに』
「絶対に着ないからな! それに私も詩帆と同じ、動く場所に行くと言っただろ!」
『ふふっ、残念。じゃあそうだなぁ……』
その後、詩帆の言う通りに一つ一つ着て、コーデを確かめていく。
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