第17話 監視デート?


『詩帆のためだ、そのくらいなんてことない。だが詩帆には内緒にしてくれ、詩帆には東條院が邪魔しに来る可能性があるということは伝えていないからな。せっかくのデートなのに、余計な心配をかけさせたくない』

「いい子……! 大好きだ……!」

「お前、もう嶋田への気持ちを隠さなくなったな」


 なんか勇一が言っているが、俺の耳には聞こえない。


 はぁ、聖ちゃんがいい子すぎて辛い。

 聖ちゃんは最後まで藤瀬に教えずに、藤瀬と勇一のデートを成功させるために、負担を被るつもりだ。


 藤瀬に感謝されたい、なんてことは一ミリも思っていない。


 ただただ、親友の恋の成就を願っている。


 この子を好きになって、この世界に入れて、そして告白まで出来た。


 それだけで本当に幸せだ。

 聖ちゃんの藤瀬を想う気持ちに比べたら、俺は本当にダメダメだな。


 勇一に提案されて、「俺と聖ちゃんに負担かかりすぎじゃね?」と言ってしまうくらいなんだから。


 聖ちゃんなんて自分から提案して、それを藤瀬に隠して実行しようとしてるくらいだ。

 すごすぎる、カッコいい、好き。


「はぁ、俺もお前のために一肌脱がないとな」

「えっ、じゃあ……!」

「俺も行くよ、お前と藤瀬のデートを守りに」

「おー! さすが司、心の友よぉ!」

「お前はどこぞの空き地で下手な歌を歌ってるガキ大将かよ」

「はっ、俺は自分で言うのもなんだが、歌は上手いぜ!」

「知ってるよ」


 前の世界のドラマCDを聞いていたが、お前はめちゃくちゃイケボの声優がついていたからな。


 こっちに来てからこいつとカラオケ行ってないから、そのイケボの歌を聞いてみたいな。


「成功したら、カラオケお前の奢りな」

「もちろんそれくらいはさせてくれ」

「注文で一番高いやつをめちゃくちゃ頼むけど」

「それはやめてくれ」


 俺達はそう言って、お互いの顔を見合わせて笑った。


 そして俺は聖ちゃんにまたメッセージを送る。


『聖ちゃんに一人で行かせるわけにはいかないから、俺も勇一と藤瀬のデートを守りに行くことにするよ。一緒に頑張ろう』


 送信、っと。


「俺と藤瀬はいい親友を持ったな」

「本当だよ。俺にも聖ちゃ……嶋田にも感謝しろよ」

「もちろん。あと、別に俺の前でも聖ちゃんって呼んでもいいぞ、もうバレてるし」

「嶋田に二人きりの時しか呼んじゃダメ、って言われてるから絶対にやだ」

「……えっ、今、惚気られた?」

「の、惚気てねえよ!」

「いや、今のは惚気だろ……というかあれだな。明日はじゃあ、お前らもデートするってことになるのか」

「えっ? ……あっ、そ、そうなるのか」

「司、今気づいたのか」


 そ、そうか、藤瀬と勇一のデートを二人で守りに行くってことは、俺と聖ちゃんも二人きりで行くってことか……!


 や、やべぇ、さっきのメッセージも、そう考えるとデートに誘ったってことになる!

 全然意識してなかったけど、今更ながら緊張してきた。


 断られたらどうしよう……。

 トーク画面を見てみると、すでに俺がさっき送ったメッセージは、既読がついている。


 ま、まだ返事は来てないようだ……怖い。


「お、お前のせいで急にすげえ緊張してきたんだけど……」

「いや、盛大に告白……じゃなかった、プロポーズしたんだろ? ならこれくらい大丈夫だろ」

「プロポーズじゃねえから」


 告白はしたんだが、あの日の告白はなんというか、夢の中だと思ったから思い切って出来た部分がほとんどだ。


 さっき勇一が見たトーク履歴も、その夢の中テンションで送ったメッセージだからな……。


 ただ言ったことは、全部俺の本心だ。

 この物語で負けヒロインが確定してしまっている聖ちゃんを、絶対に幸せにしたい。


 悲しい結末になんて、させてたまるか。


 ……と思うのだが、ふられたらめちゃくちゃ凹むなぁ。


 ――ポムポム、独特の音がスマホから鳴った。

 っ、返事が来た!


 トーク画面を見ると……。


『久村も来てくれるのか。お前がいると心強い、よろしく頼む』

「よっしゃらぁ!!」

「うおっ!? いきなり叫ぶなよお前……」


 了承されたのを確認して、思わず叫んでしまった。


 よかった、断れなくて……。

 というか本当に、俺は明日、あの聖ちゃんとデートをするのか……!


 いや、二人で一緒に行動するのは確かだが、目的は勇一と藤瀬のデートを見守り、東條院の邪魔を阻止することだ。


 手段と目的を履き違えてはいけない。


「俺と嶋田、二人でデートすることになったぜ!」

「いや、それはそうなんだけど、俺達のデートを守ってくれるんだろ?」

「当たり前だろ! よし、明日は何を着ていこうか……!」

「本当にわかってるのか……?」


 俺のテンションが高いからか、勇一は心配していた。

 いやぁ、楽しみだなぁ。



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