第33話 告白の行方



「あなたを絶対に取られたくない! 私の結婚相手なんて、あなた以外に考えられない! だから勇一、私と結婚して」


 歌織はそう言い切って満面の笑みを見せた。

 その場にいる三人が差はあるものの、顔を赤くしていた。


「勇一、私を選んで。あなたと幸せになりたいの。一生、側にいて」

「っ……歌織……!」


 小学校の頃からの幼馴染である歌織が、自分をそんなに想っていたことを初めて知った勇一。

 他の人から見ればわかりやすかったのだが、超鈍感の勇一は全く気づいていなかった。


 しかしここまでハッキリと言われたら、どんな馬鹿でもわかる。

 歌織が自分のことを、本気で好きだということが。


 今までの行動が全て愛情の裏返しで、自分を独占しようとしていたということが。


 ずっと仲よかった幼馴染で、これからもずっと友達だと思っていた。


 だけどこんなにも真摯に自分のことを想ってくれていたと聞き、何も思わない男がどこにいるのか。


「ちょ、ちょっと待って……!」


 そこに待ったをかけるのが、今日ずっとデートをしていた藤瀬詩帆。


「わ、私も……重本くんのことが、好き!」

「え、えぇ!?」


 まだ告白をしていなかったから、藤瀬の気持ちは知らなかった勇一。

 まさか自分が好きで今日告白をしようとしていた藤瀬から、逆告白をされるとは思っていなかった。


「高校に入って出会ったばかりで、東條院さんみたいに長い間一緒にいたわけじゃないけど……! 私も初恋で、重本くんのことが好き!」

「えっ、ちょ、まっ……!」

「高校一年生で同じクラスになって……重本くんは多分覚えてないと思うけど、私がナンパされた時に助けてくれたよね?」

「えっ? いつだ……?」

「私が中学校の時。大人の人にナンパされて怖がってた私を、重本くんが助けてくれたの」

「そんなこともあった気がする……」

「あの時は名前も聞けずに別れちゃってすごい後悔したけど、高校で会えて本当に嬉しかった!」


 どうやら勇一は、中学校の時から藤瀬詩帆とは知らずに助け、フラグを立てていたようだ。


「高校に入って話すようになって、もっともっと好きになった! こんな人と付き合いたいって、初めて思ったの!」

「ふ、藤瀬……」

「重本くんの優しいところが好き! 子供っぽいところが好き! お化け屋敷で怖がってた重本くんが好き! 重本くんをめちゃくちゃにいじめたい!」

「ちょっと待て、藤瀬もなんかすごいこと言ってない?」


 東條院と同様に、何か少し藤瀬の性癖が垣間見えた。


「だから私と……その、付き合ってください!」


 藤瀬は顔を真っ赤にしながらそう言い切った。


「勇一、私と結婚しなさい! 藤瀬さんなんかより私の方が絶対に、あなたに相応しいわ!」

「わ、私だって、東條院さんに負けないから! 重本くん、私を選んで!」

「ちょ、ちょっと待って……!」


 いきなりすごく仲よかった幼馴染の女の子と、高校に入って好きになった女の子の二人に告白をされて、戸惑わない男がいるのだろうか。


「藤瀬さんより私の方が、胸は大きいわよ! しっかりくびれもあるし、肌も最高級のエステに行ったりしてるから、触り心地はいいわよ!」

「か、歌織、何言って……!」

「わ、私だってCはあるから! 東堂院さんよりもスレンダーで、抱き心地もいいと……お、思います」

「ふ、藤瀬も、落ち着け。恥ずかしくなって敬語になってるから」

「あら、藤瀬さん、わかってないわね。勇一は私みたいなボンキュッボンが好きなのよ。スマホのエロ動画の履歴も、そういうのばかりだわ!」

「ちょっと待て!? な、なんで知って……ち、違うぞ藤瀬、誤解だ……」


 ほとんど白状してしまった勇一だが、藤瀬の誤解を解こうと……誤解ではないが、言い訳をしようとする。


「と、東條院さんもわかってないよ。重本くんは今日デートしててわかったけど、絶対にいじめられるのが好きなタイプだから。Sの私とMの重本くん、絶対に相性ぴったし。いじめられるのが好きな東條院さんには、満足させられないんじゃないかな?」

「ちょっと待って藤瀬!? お前も何言ってるの!?」


 えげつない角度からまた勇一の性癖についての暴露があった。


「くっ……勇一のスマホの履歴を見る限り、否定出来ないわ……!」

「おいやめろ、否定してくれ、頼むから。お前がそう言ったら本当に俺がMみたいになるだろ」


 藤瀬と歌織は自分から暴露していたが、勇一に関しては二人からぶっちゃけられたので、可哀想な立場である。


「だ、だから、私が重本くんの彼女に、相応しいの!」

「いいえ、私だわ! 東條院歌織こそ、重本勇一の彼女、そして結婚相手に相応しいわ! あなたはどうせ付き合っても三ヶ月くらいで別れるような彼女よ! それなら最初から私が付き合った方がいいわ!」

「そ、そんなことないから! 私だって重本くんと付き合ったら、何年も何年も付き合って結婚する!」

「本当に待ってくれ二人とも。俺もその、まだそこまでの覚悟が出来るほど大人じゃないんだけど」


 藤瀬と歌織が向かい合って言い争い、その真ん中くらいで勇一が止めようとしていた。


 そして、藤瀬と歌織が同時に勇一の方に顔を向け……。


「勇一! 愛してるわ、私と結婚しなさい!」

「重本くん! す、好きです、私と付き合って!」

「え、えっと……」


 二人の美少女にそう迫られて、嬉しくない男がいないはずがない。


 しかし、困らない男もいないわけがない。


 一人は幼馴染で仲がよかった女の子、その子は自分のことを好きで好きで独占しようとしていた、ちょっと行き過ぎた愛情表現をするが、とても可愛らしい子。


 もう一人は高校に入って好きになった女の子で、話していてとても楽しく癒されて、まさに勇一の理想形の女の子。


 どちらも勇一にとっては大切な女の子で、傷つけたくない、だけど二人と付き合うわけにはいかないから……。


「どっちなの、勇一!」

「し、重本くん!」

「うーん……!」


 頭から湯気が出るほど考えて……いや、本当に頭から湯気が出ている。


「っ……」


 いきなりいろんなことがあり情報過多になった脳がパンクして、ショートした。

 そのまま勇一は気を失って倒れてしまった。


「えっ、勇一!?」

「し、重本くん!? 大丈夫!?」


 倒れた勇一を支える二人だが……どうやらここで勇一から答えは、聞けないようだった。

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