第52話 バスケ、試合開始
体育館に着き、聖ちゃんはコートの方へ行って、俺は二階のキャットウォークに上がる。
体育館は校庭ほど広くはないから、応援する場合は二階に上がるのだ。
「聖ちゃん、応援してる」
「ああ、ありがとう」
最後にそう会話をして、俺と聖ちゃんは分かれた。
二階のキャットウォークのところに行き、俺のクラスの男子が固まっているところに行き勇一と合流する。
「おっ、司、来たか。そろそろ試合始まるぞ」
「ああ、多分今回の球技大会で、一番の接戦になるだろうな」
「そりゃそうだろ。こっちのクラスには嶋田がいて、相手には歌織がいるんだから」
どちらも今まで何試合かやっているが負けなし、しかも圧倒的大差で全試合を勝っている。
「勇一はどっちが勝つと思うんだ?」
「十中八九、歌織のクラスだろ。嶋田も強いけど、バスケは一人が強くても限度があるだろ」
相手のチームには東條院さんだけじゃなく、女子バスケ部が数人いて、こちらには一人もいない。
「同じクラスだし、頑張ってほしいけどな」
「東條院さんを応援しなくてもいいのか?」
「うーん、難しいところだよなぁ。敵チームだからすげえ応援しづらい」
確かに今回はうちのクラスとの対決だし、普通ならば敵チームに仲良い友達がいても応援しづらいだろう。
「だけどそんな状況で、東條院さんはお前を応援してくれてただろ」
「そう言えばそうだったな」
「まああの人は特殊だが」
東條院さんは勇一至上主義だから、自分のクラスの男子なんて本当にどうでもいい、みたいな感じだったしな。
「敵チームを応援するというよりは、一個人の東條院さんを応援するぐらいだったら大丈夫じゃないのか?」
「そうだな、学校のちょっとした行事なんだし、そこまで固くなくていいよな」
「まあ応援くらいだしな」
「あとでここから歌織に応援の言葉かけるか、じゃあ」
勇一が東條院さんに声をかけたら、あの人だったらめちゃくちゃ頑張るだろうなぁ。
さっきの俺みたいに。
いや、聖ちゃんに応援されて頑張る俺と、勇一に応援されて頑張る東條院さんだったら、頑張り度で言えば俺が勝つはずだ。
そのくらい俺は聖ちゃんに応援されて頑張ったからな、うん。
「そういえば司はどっちなんだ?」
「ん? 何が?」
「そりゃ、うちのクラスか歌織がいるクラス、どっちが勝つと思うんだ?」
勇一には俺が聞いたけど、俺からは答えていなかった。
だがまあ俺の答えは、当然決まっている。
「――聖ちゃんがいるんだ、うちのクラスが勝つに決まってるだろ」
「あっ、聖ちゃんって言った」
「今のなし、嶋田ね、嶋田」
二人きりの時以外は言っちゃいけない呼び方だった。
「あとてめえが聖ちゃんって言うなぶっ飛ばすぞ」
「理不尽だな!?」
◇ ◇ ◇
試合が始まる前の、軽いシュート練習。
聖は自分のシュート感覚を確かめるため、スリーポイントを何本か打つ。
全てリングに吸い込まれるように入る。
「よし」
シュートタッチの感覚は悪くないと確認して、係りの者が「整列―」という声が聞こえたので、コートの真ん中に最初のスタメンが集まる。
もちろん聖はスタメンに入っているので、コートの真ん中あたりに行く。
自分の目の前に並ぶのは敵チーム、その中の一人……東條院歌織だ。
「ご機嫌よう、嶋田さん。負ける準備は出来ているかしら?」
自信満々の顔をした東條院が、挑発をするようにそう言ってきた。
「勝つ準備しかしてないな。そちらこそ、重本の胸を借りて泣く準備は出来ているか?」
「あら、その準備はぜひしておきたかったわ。ただ残念、そうなることは絶対にないから準備はしてないわね」
「なら今のうちから心の準備だけはしておくんだな。重本なら準備なしでもお前の泣き顔を隠すくらいはしてくれるさ」
「そうね、勇一ならそれくらいは簡単にしてくれるわ。それなら嶋田さんこそ、あの人に胸を借りる準備は出来ているのかしらね?」
「あ、あいつにはそんなことしてもらう予定は、今のところはない」
「へー、そうなのね、今のところ、ね」
「くっ……!」
試合前の軽い言い争い、最後の最後で東條院にしてやられた感が否めない。
バスケの試合は、最初に両チームの代表が出てジャンプボールからゲームが始まる。
身長も高くジャンプ力も高い聖がやるのは当然、そして相手チームも東條院がジャンプボールを務めるようだ。
センターサークルの中に二人だけが入り、その周りに他のメンバーが囲む。
「そういえば、負けた方の罰ゲームを決めてなかったわね」
「罰ゲームか?」
東條院からいきなりの提案に、聖は少し戸惑う。
「これだけの勝負、何もなしじゃつまらないでしょう? 勝った方が何か負けた方に命令出来ることにしましょうか」
「……まあいいだろう。私が負けることはないからな」
「ふふっ、私が勝った時にあなたに命令するのはもう決まってるわ」
東條院がそう言うと同時に、審判が笛を吹きながらボールを宙に投げた。
「――久村くんと付き合っていることを公表する、よ」
「なっ!?」
東條院の言葉に驚いてしまった聖は、ジャンプするタイミングがズレてジャンプボールに負けてしまった。
そして、試合は開始した。
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