第53話 聖VS東條院
試合が始まるとすぐに東條院チームが最初に点を決める。
五人中三人がバスケ部員、さらに運動神経抜群の東條院歌織が相手。
攻撃を止めるのは難しすぎる。
簡単にシュートを決められてしまう。
そして聖のチームの攻撃。
ハーフコートまでボールを運んでから、聖にパスが回る。
スリーポイントラインの外でボールをもらう聖。
聖をディフェンスする相手はもちろん、東條院歌織だ。
「さっきの命令……あれは本当にするつもりか?」
聖はボールを保持したまま、目の前で腰を落としてすぐに動けるようにしている東條院に問いかける。
「もちろんよ。私は嘘はつかないわ」
「っ……そうか、なら負けるわけにはいかないな」
そう言って聖もボールを保持したまま、攻撃を仕掛けるタイミングを探る。
ただ東條院が聖の近くでディフェンスをしてきているので、スリーポイントは打てない。
(こいつ、私のスリーポイントを潰すつもりか……)
聖の思う通り、東條院は聖のスリーポイントを警戒していた。
だからこそ打たれないように近くで守っている。
(嶋田さんはスリーポイントでより多くの点数を稼ごうとしている。それなら打たれないようにするだけの話だわ)
そう思いながら守っている東條院。
そして――聖が仕掛ける。
東條院の横を抜けるように一歩踏み出し、ゴール方向に向かってドリブルを始める。
ディフェンスは近くにいるとシュートを打たせないことは出来るが、近くにいるから簡単に抜かれやすくなってしまう。
だが東條院の身体能力だったら、並のバスケ部員でも簡単に抜くことは出来ない。
しかし聖の身体能力は東條院歌織を上回る。
一瞬にして東條院を抜き去ろうとする聖。
「くっ……!」
聖の速さにギリギリで反応して、東條院は聖の横をついていこうとする。
しかし……東條院がついていこうとしたのに、聖は一歩踏み出して一回ドリブルをついただけで、急に後ろに下がった。
「なっ!?」
東條院はさすがにそれを予想しておらず、聖から引き離されてしまう。
聖はすでにシュート体勢に入っており、引き離された東條院は止めることは出来ず。
綺麗なフォームでシュートを放った聖、ボールは綺麗な弧を描きリングのど真ん中に吸い込まれていった。
その入った点数は、三点。
つまり聖が打った場所は、スリーポイントラインよりも外であった。
(ステップバック、スリーポイント……!)
一歩だけ前に出て、一回だけのドリブルをついてすぐに後ろに下がってシュートを打つという技、ステップバック。
形だけやるのは簡単だが、その後のシュートを決めるのは至難の技だ。
身体はいつもよりも難しい体勢になるから、シュートを決めるのは難しい。
それがさらにスリーポイントというロングシュートになったら、難易度はさらに上がる。
そんな難しいシュートを、東條院歌織を相手に簡単に決められてしまった。
シュートが入ってからは一瞬の静寂……それから、体育館に爆発的な歓声が上がった。
「嶋田さん、カッコいい……!」
「めちゃくちゃ速いし! あれが女子の素人の動きかよ!」
「おい、お前バスケ部だろ。あれと同じこと出来るのか?」
「いやいや、あんなにべったりディフェンスがいて、ステップバックスリーなんて不可能だろ」
男子も女子も、見ている者全員が口々に今の聖のプレイに感嘆の声を上げていた。
「やってくれるわね……」
一番警戒して、絶対に決められないようにしていたスリーポイントを、こうも簡単に取られてしまった。
「まだまだこれからだ。これくらいで心折れるなよ、東條院」
そう言って不敵に笑う聖。
「カッコよっ……! 聖ちゃん、マジで聖ちゃんだわ……! 惚れる……いや、もう惚れてるけど、さらに惚れてしまう……!」
「司、独り言がちょっと大きいぞ」
そんな会話二階のキャットウォークで繰り広げられているのを、聖も東條院も知る由もなかった。
球技大会のバスケの試合は、二十分で終わる。
本来のバスケの試合は十分を一回としてそれを四回繰り返すのだが、さすがにそれをやるだけの時間も体力もない。
聖のクラスと東條院のクラスの試合、前半の十分が終わった。
スコアは、二十対十五。
勝っているのは、東條院のクラスであった。
さすがに聖が一人でバスケ経験者三人、そして東條院を一人で相手するのは厳しかった。
いや、聖が一人でずっとオフェンスをしていれば、勝つことは出来るかもしれない。
しかしこれは球技大会の試合、もちろん聖以外にも女子生徒はいて、彼女らにもパスを回さないといけない。
本気の公式の試合で本気で勝ちにいくのであれば、聖に全てボールが集まるだろうが、これはただの球技大会。
楽しむことを目的にしている試合で、聖が全てボールを持っていたらさすがに他の生徒はつまらなさすぎる。
何回かに一回のペースで聖にボールが回ってくる、前半の十分だったら五回ほど。
そしてその五回、全て聖は東條院チーム相手にシュートを決めた。
スリーポイントが三本、二点シュートを二回、合計十三点だ。
聖のチームが決めた十五点中十三点を聖が決めているのだから、聖がいなかったら試合になってないというのは誰の目が見ても明らかだった。
前半の十分が終わり、後半の十分もすでに始まっていた。
しかし聖は出ていない。
バスケを全力で十分もやれば、普通の女子だったら体力の限界を迎える。
だが聖はまだ全然動ける。
それなのに出ていない理由は、やはり球技大会で他の女子生徒もいるからだ。
聖がずっと出ていたら五人チームの一枠をずっと埋めることになってしまう。
「ふぅ……」
聖は試合の行方を見ながら、壁に背を預けて水を飲んでいた。
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