第55話 球技大会、終了
球技大会の全試合が、終わった。
最後に総合で優勝したクラスの発表があったが、もちろん俺らのクラスだった。
男子の野球、女子のバスケ、どちらも全クラスで一位なのだから。
俺ら男子はやはり勇一の存在が大きいだろう。
一試合に一回はホームランを打ち、打ち損じても二塁打くらいは打つ。
投手は俺がほとんど投げたが、まあまあ活躍した……と思う。
女子ももちろん、聖ちゃんの存在がほとんどだろう。
今回の球技大会で一番注目を浴びた試合は、男女合わせても聖ちゃんと東條院さんの試合だ。
試合をやっている時の熱気、そして終わった後の興奮度はすごかった。
あんなヤバい試合を見せられちゃ、そうなるのは当然だと思うが。
いやー、本当にすごかった。
もう聖ちゃんがカッコよすぎて、最高すぎた。
男も女もみんな聖ちゃんと東條院さんに熱中していただろう。
今現在、時刻は六時過ぎくらいだろうか。
俺達のクラスは球技大会の打ち上げに来ている。
「じゃあみんな! グラスは持ったか!? 酒は二十歳になってからだからダメだぞ!」
勇一が代表としてみんなが座ってる中で立ち上がり、音頭を取る。
「今日はお疲れ! 優勝おめでとう! かんぱーい!」
一拍遅れて、「かんぱーい!」という男女の声が入り乱れた。
ここは学校近くの大きな居酒屋で、座敷の大部屋を貸し切りにしている状態だ。
酒を頼まなければ別に高校生でも居酒屋に入っていいと思うが……なぜこんな大部屋を貸し切りに出来ているか。
普通の高校生だったらそんなこと出来ないが……普通じゃない高校生が一人、いるんだよなぁ。
「勇一、お疲れ様。いい挨拶だったから動画はしっかり撮っておいたわ」
「歌織、ありがとう、だけど動画は消してくれ。あとなんでお前、違うクラスなのに打ち上げにいるんだ?」
そう、勇一の隣にいる東條院歌織だ。
「あら、私がいなかったらここを貸し切りに出来ないのよ?」
「それはとてもありがたいんだが……お前のクラスの打ち上げはないのか? 一応お前のクラス、二位だろ?」
「いいのよ、勇一がいない打ち上げなんて行く価値はないわ」
「お前、自分のクラスで友達いるか? 大丈夫か?」
「心配してくれてありがとう、勇一。大丈夫よ、女性とはしっかりコミニュケーションは取れてるわ、男性とはあまり取らないけど」
ということで、なぜかこちらのクラスの打ち上げに東條院さんがいるのだ。
まあこんな大きな部屋で、料理もめちゃくちゃ豪華で美味しいものが食べられるのは、全部東條院さんのお陰だ。
普通のクラスだったらファミレスで打ち上げとかだろう。
このお店が東條院グループが運営しているようなので、俺達生徒は一円も払わずに打ち上げが出来ているのだ。
なんという権力と金だ、さすが東條院グループ。
その後、打ち上げは適当に進んでいき、みんながお腹いっぱいになりそれぞれグループに別れ、雑談をしている。
俺と勇一は最初の席から移動せず、勇一の隣にいる東條院さんも同様だ。
みんなお腹いっぱいになった頃なのに、勇一はずっとご飯を食い続けている。
「さすがね勇一、マイペースにずっとご飯を食べてるなんて」
「んっ……だってめちゃくちゃ美味いし、残すのはもったいないだろ」
みんなで取り分けるような食事が多いので、食べ残っている飯が多い。
そんな中、ずっと一人で食べながら隣にいる東條院さんと喋る勇一。
「ふふっ、そういう勇一が好きよ」
「んんっ! そ、そうか……」
「あら、今、照れた?」
「て、照れてねえよ!」
……なんか二人だけの世界を作ってやがる。
今回の球技大会の立役者である勇一の側に女子がいないのは、やはり東條院さんのせいだろう。
しかしそんな東條院さんに唯一挑む、勇気ある女子がようやく勇一の隣に座る。
「重本くん、お疲れ様。今日の球技大会、すごくカッコよかったよ!」
「おっ、藤瀬、ありがとう。藤瀬こそお疲れ様。こう言っちゃ悪いが、意外と運動出来たんだな」
「あはは、聖ちゃんと比べたら全然だよ」
「いやまあ、嶋田はちょっと規格外だな」
そんなことを言って二人はチラッと聖ちゃんの方を見る。
俺もつられてそちらを見ると……聖ちゃんは女子に囲まれていた。
「嶋田さん、本当にすごかった! カッコよすぎたよ!」
「あ、ありがとう」
「シュートのフォーム? っていうのかな? それがもう様になりすぎてて、超カッコよかった!」
「東條院さんのシュートをブロックした時も、すごい跳んでて……もうそこら辺の男子生徒よりも全然イケメンだった!」
「そ、そうか……」
色めいた女子達が聖ちゃんを囲んで、とても楽しそうに球技大会の時のことを話している。
聖ちゃんは女子達の熱に圧倒されながらも、少し恥ずかしそうに微笑んでいた。
可愛い……が、打ち上げに来てから全然、聖ちゃんと話せてないのは少し寂しい。
まあしょうがないか、あれだけ活躍していればそりゃ注目されるよな。
「歌織もめちゃくちゃ上手かったが、嶋田には勝てなかったな」
……おっと、さすが勇一くん、地雷を簡単に踏み抜いていきますね。
ここら辺の気温が少し下がった気がした。
それに触れないようにしていた感があったと思うが、勇一は普通に聞くんだな。
「……ええ、そうね。今回は完敗だわ」
東條院歌織は今まで勉学や運動において、ほとんど負けなしだった。
小中高でテストがあれば学年一位は当たり前、それ以外取ったことがない。
運動においても部活動をやってないのに、そのスポーツの部活をやっている子に勝つレベル。
だけど今回、初めてスポーツで完膚なきまで負けたのだろう。
さすがにちょっと落ち込んでいるようだ。
「嶋田さんがあそこまでやるとは思っていなかったけど、次があれば絶対に勝つわ。だって私は、東條院歌織よ?」
そう言って不敵に笑う東條院さん。
その強さ、カッコよさこそ、東條院歌織というものだろう。
「そうか、頑張れよ」
「ええ、ありがとう」
勇一の言葉に、東條院さんは可愛らしい笑みを見せる。
また二人の世界が出来た……と思ったら。
「あっ、重本くん、口元にご飯ついてるよ」
「えっ、マジ? どこ?」
「こっちだよ」
藤瀬が勇一の頰あたりについてるご飯粒を指で取り、それをパクッと食べる。
「ふふっ、可愛い」
「っ……!」
自分の頰についたご飯粒を食べ、至近距離での悪戯っぽい微笑み。
鈍感で有名な勇一も、さすがに顔を赤くした。
「……ちょっと藤瀬さん、男性の頰についた米粒を食べるのは、はしたないのでは?」
「えー、そう? だけど東條院さんだったら、重本くんの頰についたものだったら取って食べるんじゃない?」
「取って食べはしないわ。それならまだ頰に直接口をつけて食べた方が絶対にいいわね」
「あっ、それをするのもよかったね」
「いやいやさすがにそれはやめよう、恥ずかしすぎるから」
顔を赤くして呆然としていた勇一も、二人の会話にツッコんだ。
「勇一、こっち側の頰にもご飯粒をつけなさい。私が取ってあげるわ」
「いや、ワザと頰につけたわけじゃないから。それにお前、今の流れだったら頰に直接口をつけて取るつもりだろ」
「あら、いけないのかしら?」
「いろいろと恥ずかしいからダメだ」
「ふふっ、残念だったね、東條院さん」
……なんで俺はこの三人の修羅場を見てないといけないのだろう。
なんか勇一がまた俺に助けを求めている顔をしているが、どうでもいいや。
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