第36話 付き合った翌日



 遊園地デートがあった、翌日。


 俺の告白が成功した後、俺達は普通に帰った。

 いや……普通にではない、か。


 俺と聖ちゃんは、手を繋ぎながら帰ったのだ!


 いやー、マジで緊張した。

 もしかしたら抱きしめるよりも緊張をしたかもしれない。


 抱きしめる時は、あれはほぼ勢いだったんだけど、手を繋ぐ時は二人とも勢いではなくおそるおそるという感じだった。


 聖ちゃんの小さくて柔らかい手の感触は、一日経った今でも忘れられない。

 いや、むしろ昨日あったこと全て、一生忘れることはないかもしれない。


 最初に会った時の服装の可愛さは衝撃的だったなぁ。


 それにアトラクションを一緒に楽しんで……ダメだ、お化け屋敷のことは思い出すな、俺。


 というか本当に俺……聖ちゃんと、付き合ったんだなぁ。

 思わず口角が上がってしまう。


「……お兄ちゃん、なんで朝ご飯食べながらニヤケてるの?」

「ん? ああ、ちょっと思い出し笑いみたいな感じだ」

「……そうなんだ」


 俺の目の前には、一緒に朝ご飯を食べている妹の凛恵がいた。


「今日も朝ご飯ありがとな、美味いよ」

「……んっ」


 俺がそう言うと凛恵は一瞬だけ食べる手が止まったが、適当に返事をして食べ始める。

 だけど少し耳が赤くなっているのは、俺の気のせいだろうか。


「お弁当も作ったから。昨日の夕飯の残り物だけど」

「ありがとう、昨日の夜ってことは肉じゃがか。好きだから嬉しいぞ」

「……そう」


 うん、やっぱり俺の気のせいじゃなく、今度は頬も赤くなっているな。

 それを隠そうとしている凛恵がとても可愛らしくて、頬が緩んでしまう。



 ご飯を食べ終わり、俺と凛恵はそれぞれ部屋に戻って学校に行く準備をする。


 今日から月曜日なので、普通に学校がある日だ。

 そういえば昨日、聖ちゃんに……。


『が、学校では、付き合っていることは内緒にしてくれ』


 と言われた。

 学生あるあるだと思うのだが、付き合っていることを公表するカップルと、隠すカップルがいると思う。


 多分それぞれ理由などはあると思うのだが、聖ちゃんが隠したい理由は……。


『ほ、他の人に知られると、恥ずかしいから……』


 ということだった。

 それを言われた時はまた可愛すぎて、心臓が破裂したかと思った。


 俺、聖ちゃんと付き合ってたら、本当にいつか漫画みたいに心臓が爆発するような描写で死ぬかもしれない。


 そうならないように頑張ろう……何を?

 そんなことを考えながら制服に着替え、部屋を出る。


「お兄ちゃん、行こ」

「おう、行くか」


 今日も俺と凛恵は自転車を二人乗りして学校まで行く。

 俺と凛恵は二階から一階に降り、玄関で靴を履き替え、玄関を出る直前。


「お弁当持った?」

「ああ、持ったよ。ありがとうな」

「んっ……そ、そういえばお兄ちゃん、昨日のデートはどうだったの?」

「えっ? あ、ああ……まあ、すごく楽しかったぞ」

「そっか……そ、その、付き合ったの……?」


 凛恵が心配そうに俺のことを見上げながらそう言った。

 どうやら凛恵は、俺がデート相手にふられたかもしれないと思って、心配しているようだ。


 まあ兄貴がふられてたら、妹としても少し気まずいもんな。


 うーん、聖ちゃんには他の人には言うなって言われたけど、妹くらいには大丈夫だよな?

 凛恵も別に他の人に喋るようなタイプじゃないしな。


「ああ、しっかり付き合えたから、安心しろ」

「っ……そ、そっか……」


 あれ……なんかより一層落ち込んでしまった?

 えっ、もしかして凛恵、俺がふられて欲しかったの?


 そんなに性格悪い子だったっけ……?


 お兄ちゃん、ちょっとショックだぞ、それは。


「よかったね、お兄ちゃんから告白したんでしょ?」

「あ、ああ……あれ、そんな話を凛恵にしたっけ?」

「昨日、お兄ちゃんがデートに出かけてから、重本さんに聞いた」

「ああ、勇一か」


 そういえば昨日、俺が出かけた後にまだ勇一が家に残っていたんだったな。


 しかしあいつ……昨日、俺がゴッキー君を倒しておけって言ったのに、倒さずに帰りやがったな。

 昨日の夜、めちゃくちゃ有頂天になっていたのに、部屋にゴッキー君が出て最悪な気分になったぜ。


 今度こそ倒してやったが、あの時はビビったなぁ。


「……彼女さん、可愛いの?」

「ん? ああ、もちろんめちゃくちゃ可愛いぞ」


 聖ちゃんを可愛くないっていう奴がいたら、俺がぶっ飛ばしてやるくらいには。


「……私とどっちが可愛い?」

「……えっ?」


 いきなり問いかけられた凛恵の質問に、疑問の声が出てしまった。

 凛恵の方を向くと、朝ご飯を食べていた時よりも頬を赤くしていた。


「や、やっぱりなんでもない! ほら、お兄ちゃん、行くよ!」


 凛恵は恥ずかしくなったのか、俺を置いて玄関を出ていってしまった。

 まさか凛恵がそんなことを聞いてくるとは、全く思っていなかった……。


 というか玄関を先に出ても、一緒にチャリで行くんだから意味はないと思うが。


 俺も玄関を出てチャリが置いてあるところに行くと、すでに凛恵が後ろに乗っていた。


「さ、さっきの質問は聞かなかったことにして。ほら、行こ、お兄ちゃん」

「……ははっ、そうか」

「な、何笑ってんの!」

「いや、凛恵はやっぱり可愛いなぁと思ってな」

「っ……バカお兄ちゃん!」


 俺が自転車に跨ると、背中を照れ隠しのように叩いてくる凛恵。


 それを甘んじて受けながら、俺は自転車を漕ぎ出した。



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