第35話 もう一度
「そういえばさっき、俺が東條院さんのところに向かう時に、聖ちゃんの話を遮ってごめん。あの時はなんて言おうとしてたの?」
「えっ? あ、ああ……! その、だな。いや、私達も早くあの二人の後を追おうと言おうとしていただけだ」
「そっか。だけどごめん、それを振り切って行っちゃって」
「いいや、大丈夫だ……こうやって、この場に来れているしな」
あの三人の修羅場を見ているということは、もちろん俺と聖ちゃんもこのイルミネーションの綺麗な場所にいるのだ。
イルミネーションが花畑のようになっていて、とても美しい。
「……綺麗だね」
「ああ、本当にそうだな」
しばらく……俺と聖ちゃんはその場で二人、イルミネーションの美しさに見惚れた。
ただ俺はぶっちゃけ、イルミネーションを見つめる聖ちゃんの顔の方を、ずっと見ていた。
光に照らされて見える聖ちゃんの横顔が、本当にとても綺麗で……この遊園地のイルミネーションなんかよりも、ずっと見ていられた。
「……ん? な、なんだ久村、なぜずっとこっちを向いているのだ」
さすがに数分も眺めていたら気づかれて、聖ちゃんが恥ずかしそうにそう言ってくる。
「ふふっ、ごめん。聖ちゃんに見惚れてたから」
「なっ!? お、お前はというやつは……」
また顔を赤く染めた聖ちゃんだったが、さすがに少し慣れたのかいつもよりも動揺が少ない。
だけどまたイルミネーションを眺めようとしつつも、チラチラと俺の方を見ているのが可愛すぎる。
「聖ちゃん、もう一回……この場で、言ってもいいかな?」
「っ……な、何をだ?」
一緒になって同じ方向のイルミネーションを見ていたが、今一度、俺は聖ちゃんの方を向く。
聖ちゃんも緊張しながらも、俺の方を向いてくれた。
聖ちゃんの目が、俺の目を貫いてくる。
緊張で足が震えそうだ。
俺は前に放課後の教室で、聖ちゃんに告白をした。
だけどあれはぶっちゃけ、夢の中だと思っていたから出来たものだ。
まさか漫画の世界に入っているとは思っていなかったので、夢の中だと決めつけ、俺は聖ちゃんへの愛をただただ叫んだ。
だけど今……こうして本物の世界だと認識し、大好きな聖ちゃんと向き合って。
あの時のようにただ推しへの愛を叫んでる時とは、違う。
漫画を読んでいた頃とは違う、登場人物の嶋田聖ではなく、一人の女の子として生きている嶋田聖。
これは俺、久村司が……嶋田聖に対する、本気の告白だ。
「俺は、聖ちゃんが好きです」
「っ……」
「友達の藤瀬を想って自分の気持ちを隠して、藤瀬を本気で応援出来る優しい聖ちゃんが好きです。だけど自分の気持ちを押し殺しすぎて、一人で抱えちゃう聖ちゃんはあまり好きじゃないから……俺が聖ちゃんを支えて、幸せにしたいです」
めちゃくちゃ恥ずかしいけど、聖ちゃんの目を真っすぐと見ながら言う。
聖ちゃんも潤んだ瞳で俺の目を見てくれている。
「いつもクールでカッコいい聖ちゃんが好きです。照れ屋ですぐに顔が赤くなっちゃう聖ちゃんが好きです。甘い物を食べたり飲んだりして、幸せそうに微笑む聖ちゃんが好きです。前に告白した時よりも聖ちゃんをもっと知って、もっともっと好きになりました」
「っ……」
「……聖ちゃん、好きです。俺と、付き合ってください」
最後まで、言い切った。
心臓がすごい鳴っている、口から飛び出そうなくらいだ。
聖ちゃんは俺の告白の言葉を、顔を真っ赤にしながら、だけど一度も視線を逸らすことなく聞いてくれた。
あとは……返事を聞くだけだ。
聖ちゃんはずっと俺の目を見てくれていたが、一瞬だけ恥ずかしそうに逸らしてから……もう一度、視線が繋がる。
「……あり、がとう。とても、すごく嬉しい。前の告白はいきなりで、その、動揺ばかりが伝わってしまったと思うが、あの時も……ちゃんと嬉しかったんだ」
そういえばあの時は、聖ちゃんは見るからに動揺してすぐに帰っていってしまった。
だけどあれは俺がいきなり告白して、しかも夢の中だと思っていたから、返事を今してくれとせがんでいたからだろう。
その時のことを気にしていてくれたのか。
「私も、今日遊んで、それに前のカフェに行った時も、色々と久村と話せて……とても楽しかった。お前のことを知れて、話せて……デ、デートというものを初めてして、こんなにも楽しいものなのかと思った」
とても恥ずかしそうにそう言ってくれる聖ちゃん。
何回も俺から視線を外し、だけどその度にしっかりとまた目を見て話してくれた。
「いや……デートが楽しいのではなく、お前と遊ぶのが、楽しいんだろう。久村とデートをするのが、楽しかった」
「っ……」
好きな女性にそんなことを言われて、喜ばない男がいるだろうか。
心臓が余計に跳ねる、緊張だけじゃなく……期待をしてしまうからこそ、さらに鼓動が早くなる。
「まだお互いに知らないことは多いと思うし、久村が私を想ってくれているほど、私の気持ちはまだ強くないかもしれないが……久村に、好意を抱いているのは、私の偽りない気持ちだ」
「っ……!」
「だから、その……これから、追いつけるよう、頑張るから……」
聖ちゃんは俺のことを潤んだ瞳で見上げ、言う。
「そんな私でよければ――よろしく、お願いします……」
――っ……息が一瞬、出来なかった。
俺の、聞き間違いじゃない、よな?
「ほ、本当に? お、俺と、付き合ってくれる?」
「……そ、そうだ。こんな私で、いいのなら……」
「聖ちゃんだから、俺は付き合いたいんだよ」
「っ……そ、そうか」
「ま、まじか……聖ちゃんが、俺の、彼女になる……?」
「うぅ……あ、あまりはっきり言うな……」
もじもじとしながら、恥ずかしそうにうつむく聖ちゃん。
俺が、こんなに可愛い聖ちゃんと、付き合う……。
この世界に来る前でも大好きだった、そしてこの世界に来てもっと好きになった嶋田聖と、付き合う……!
「嬉しすぎて……死にそう……!」
「くっ……お、お前は、そういうのを口に出しすぎだ」
「いやマジで……聖ちゃんと付き合えるなんて、本当に、死んでもいい……」
「っ……」
俺が両手で顔を覆って仰いでいたら、服の裾をちょいちょいと引かれる感触がした。
両手を外して下を向くと、聖ちゃんがさっきよりも少し近づき俺の懐に入り、上着の裾を指で引っ張っていた。
「し、死ぬなんて言うな……し、幸せにしてくれるんだろう?」
「結婚しよう」
「ふぇ!?」
「あっ、間違えた。いや、間違えてないけど」
俺の気持ちとしては、マジで結婚をしたいくらいだ。
幸せにすると豪語しているのであれば、絶対にそこまで考えないといけないだろう。
「そ、その……まだその返事は、出来ないが……これからの相性、ということで頼む……」
「っ……わ、わかりました……」
俺の勢いで言った言葉を、真摯に受け止めて返事をしてくれた聖ちゃんが可愛すぎて、思わず敬語になってしまった。
俺の彼女が、可愛すぎて辛い……!
……ほ、本当に聖ちゃんが、俺の彼女になったのか。
嬉しすぎて、マジで死にそう……いや死なない。
絶対に生きて、聖ちゃんを幸せにする。
というか、聖ちゃんが俺の服の裾をちょんと掴んで、めちゃくちゃ近くにいるんだが。
どちらかがあと半歩前に出れば、身体が当たってしまうくらいに。
聖ちゃんも離れるタイミングを見失ったのか、俺のすぐ側で俺の顔を見上げて、目が合ったら下を向いて、そしてまた顔を上げて……を繰り返している。
……めちゃくちゃ抱きしめたい。
「その、抱きしめてもいい、かな?」
「っ……あ、ああ、いいぞ……」
「……し、失礼します」
許可が取れたので、俺は震える両腕を聖ちゃんの背中の方に回し……優しく、抱きしめた。
「んっ……」
聖ちゃんは抱きしめた瞬間に、ため息のような声を漏らし……それから聖ちゃんも、俺の背中に腕を回してくれた。
聖ちゃんを、抱きしめている。
とても温かく、柔らかい。
このままずっと、永遠に抱きしめていたいくらいだ。
だけど俺はまだ勇気が出なくて、背中に回す腕も添えるくらいの力で抱きしめていたのだが……。
急に聖ちゃんが、俺の背中に回す腕に力を込め、強く抱きしめ始めた。
「せ、聖ちゃんさん?」
「お、お前も、もっと強く抱いてくれ……!」
「っ……!」
あっ、やべ……可愛すぎ……。
俺は言われた通り、背中に回す腕に力を入れ、聖ちゃんを強く抱きしめる。
「んぅ……!」
さっきよりも艶やかな声が漏れて……もう俺は、耐えられなかった。
「ごめん、ちょっと聖ちゃん……鼻血出た……」
「えっ!?」
聖ちゃんを抱きしめるのをやめ、鼻から垂れる血を手で覆って聖ちゃんにつかないように離れる。
聖ちゃんも慌てて離れ、カバンの中からティッシュを出してくれた。
「な、なぜいきなり鼻血を……!」
「聖ちゃんが可愛すぎて、ちょっと……」
「っ……も、もうこれくらい慣れてもらわないと困るぞ。さらに先に進むことも……い、いや、なんでもない!」
「……聖ちゃんは、俺を勇一みたいに気絶させる気なのかな?」
「そ、そんなわけないだろ!」
「とりあえず、ティッシュが足りない。今の言葉でさらに出てきちゃった」
「だ、大丈夫なのかお前の身体は?」
「大丈夫だと思うよ、さすがにこれで死ぬことは……いたなぁ、鼻血で死にかけた人。だけどあんなに出てないから大丈夫だと思う」
どうにも締まらない結末だが……こうして俺は、聖ちゃんと付き合うことになった。
なんども言うようだが、死ぬほど嬉しいし、死なずに聖ちゃんを幸せにしたい。
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