第28話 売店で…?



 お化け屋敷を終えてあの二人に追いつき、そのまま監視デートをまた再開する。

 その後も特に東條院さんからの邪魔はなく、勇一と藤瀬のデートは続いていく。


 俺と聖ちゃんも所々でアトラクションに乗って楽しみながら、時間は夕方くらいになった。


 ……そろそろだ。

 原作ではこの後、勇一と藤瀬が行く場所で、東條院さんが邪魔をしに来る。


 次に行く場所は、この遊園地にある一番大きな売店だ。


 食べ物や飲み物を提供する店ではなく、どちらかというとお土産屋さんに近い。


 そこで二人がお土産などを選んでいる時に、東條院さんがやって来るのだ。


 勇一が夜になってイルミネーションとかがいい場所とかで告白をしよう、とか考えていたのだが、東條院さんが来たことによって告白が出来なくなるという感じだ。


 だからおそらくその売店で東條院さんが邪魔しに来るから、阻止をするとしたらそこだろう。


 ただどうやって阻止するかなどは全くの未定だけど。

 それに……本当に阻止した方がいいのか、いまだに悩んでいる。


 ぶっちゃけ、個人的には阻止したくない。

 ここで物語を終わらせたくないからだ。


 だけど聖ちゃんの気持ちなどを考えると、阻止した方がいいと思うのも正直な気持ちだ。


 どうしようか……。


 まだ悩んでいたが、勇一と藤瀬が原作通りに売店へと入っていった。

 それに俺と聖ちゃんはついていき、隠れながら売店へ入る。


 売店はかなり大きいので、遠くにいればバレることはないだろう。


「ふむ、ここはこういうのが置いてあるのか……」


 聖ちゃんは売店に並んでいる商品を見ていた。

 この時間まで東條院さんが現れないから、どうやら聖ちゃんも少し油断というか、緊張感がなくなってきたようだ。


 まあそりゃそうだよな、昼前からずっと見張っていたけど、結構俺たちもなんやかんや言いながら遊んでるし。


 このままだったら東條院さんがいきなり現れたら対応出来ないと思うが……まあいいか、俺としてはそちらの方がいい。


 ここはお土産用のお菓子とかも置いているが、目立つのは大きなぬいぐるみや被り物だ。


 女子高生とかが入る時に被り物とかを買って、それを被りながら遊園地の中で写真を撮ったりするやつだな。

 それで遊園地に来てテンションが高くなって買ったはいいが、遊園地以外で被ったら痛い奴でしかないから、家に置いておくのもダルくなって捨てるやつな。


 まあ、俺の偏見に近いけど。


 いろんな被り物があって、クマの耳、ウサギの耳をモチーフにしたもなど、色々だ。

 うーん、可愛いとは思うが、お土産として買うほどではないな。


 あっ、だが俺の家には、可愛い可愛い妹の凛恵がいる。

 ウサギの耳の被り物は、胸元くらいまで垂れているモフモフした部分があり、二つのモフモフの部分を握ると、ウサギの耳がピョンっと跳ねるようになっている。


 これを被って、ちょっと恥ずかしそうにウサギの耳をピョコピョコと動かす凛恵……。

 アリだな、買うか。


 いや、待て、落ち着け俺。

 本当にいるか? というか凛恵がこれを被ってくれるだろうか?


 凛恵だったら「バカじゃないの?」と言って、一度も被ってくれなさそうだ。


 だが頼んだらやってくれるかな?


 ……一応聞いてみるか。

 スマホを起動させ、RINEを開いて凛恵にメッセージを送る。


 このウサギの被り物を写真に撮り、送った方がわかりやすいかな。


 そう思ってカメラ機能にして、ウサギの被り物を手に取った。


「えっ、久村、もしかしてそれを買うのか?」

「ちょっと迷ってる」

「ま、まさかお前にそんな趣味があるなんてな……」

「いや、俺用じゃないから。妹にどうかな、って」

「妹さんか……何歳だ?」

「一個下」

「高校一年生の妹に、これを?」


 聖ちゃんもウサギの被り物を手に取り、そう聞いてきた。

 どうやら俺の妹がこれをお土産で買ってきて喜ぶような、ちょっと痛い子だと思われているようだ。


「いや、喜ばないと思うけど、買って帰ったら被ってくれるか聞いてみる。絶対に可愛いと思うんだよなぁ、凛恵が被ったら」

「むっ……」


 凛恵のようなちょっとツンデレっぽい子が被ったら、ギャップがあって最高に可愛いと思う。

 一回でも被ってくれたら、写真を撮って保存したい。


 まあダメ元で聞いてみるか。


 そう思っていたら……。


「ひ、久村」

「ん? なっ……!?」


 名前を呼ばれて隣にいる聖ちゃんの方を向いたら……ウサギ聖ちゃんがいた。

 まさか聖ちゃんが、このウサギの被り物を……!


「ど、どうだ、やっぱり似合わないか……?」


 聖ちゃんがちょっと恥ずかしそうに照れ笑いをしながら、俺にそう問いかけてきた。

 ――カシャ。


「……ん?」

「あっ、ごめん、反射で」


 気づいたら俺は、起動させたカメラアプリで聖ちゃんのその姿を撮っていた。


「な、何をやってる!?」

「ごめん、脊髄反射だった。脳が指示を出す前に、身体が動いてた」

「訳わからないことを言ってないで! 今の写真を消せ!」


 聖ちゃんは顔を真っ赤にしながら、ウサギの被り物を外しながら言う。


 さすがに今のは失礼だろう。

 俺はそう思って聖ちゃんの言う通り、写真を消そうと画面を見るが……。


 そこには天使が写っていた。


「……消したくない、家宝にしたい、印刷して額縁に入れて飾りたい」

「ダメに決まっているだろう!?」


 めちゃくちゃ本音が出てしまった。

 ただマジでそう思う、こんな可愛い姿の聖ちゃんの写真を消すなんて、もったいなさすぎる。


 一生保存していたい。


「本当にダメ? めちゃくちゃ可愛いんだよ、これ」

「くっ……ダ、ダメだ」

「お願い、誰にも見せないから。これを毎朝見て、どんなに辛い日だとしても一日頑張ろうって思えるから」

「ま、毎朝!? なおさらダメだ! そんな恥ずかしい格好!」

「……本当にダメ?」

「……うん、ダメ」


 なんとか粘ったものの、やはりダメなようだ。

 あぁ……こんな可愛い聖ちゃんを消すなんて、俺には出来ない。


「くっ……聖ちゃんが消してくれ。俺にはそれを消すなんてことは出来ない」

「そこまでか……?」


 俺は手を震わせながら、聖ちゃんにスマホを渡した。

 そして聖ちゃんは受け取り、操作をして……写真を消したようだ。


「ああ……一生ものだったのに……」

「……そ、それなら、その、一緒に写真を撮るのはどうだ?」

「えっ?」

「ほ、ほら、詩帆と重本みたいに」


 聖ちゃんが見ている方向に視線をズラすと、そこには藤瀬と勇一が顔と顔を結構近づかせて、藤瀬がスマホを持って自撮りをしていた。


 二人ともクマの耳のカチューシャみたいのをお揃いでつけていて、とんだバカップルのようだ。

 まだあの二人付き合ってないよな?


 ……ん? なんかあの光景、違和感があるな。


 どっか既視感があるというか、なんというか……。


「あの二人みたいに一緒に写真を撮るなら、別に構わないが……」

「えっ? じゃあ俺もウサギの被り物して、ってこと?」

「そ、そうだ」


 なんと、俺もあのウサギ耳の被り物をしないといけないようだ。

 だがそれをすれば、あの二人のような形で写真を撮ってもいいとのこと。


「もちろんやります」

「そ、即答だな」


 逆にやらない理由が見当たらない。

 聖ちゃんのウサギ耳姿をまた写真に収めて保存が出来て、しかもそれが俺とのツーショットの写真なんて、金を払ってでも欲しいくらいだ。


「じゃあ俺もつけて……」

「ぷっ……す、すまない、あまりにも似合ってなくて」

「うん、俺も似合うとは思ってなかったけど、まさか聖ちゃんが吹き出すほど似合ってないとは思ってなかったよ」


 まあ聖ちゃんのそんな笑みを見れたのなら嬉しいけど。

 とりあえず聖ちゃんももう一回被り直す……うん、可愛い、天使、最高。


 すでに聖ちゃんが俺のスマホでカメラを起動させているので、それで撮ることになる。


「ほ、ほら、もっと近くに寄れ」

「う、うん……」


 俺的には結構もう顔を近づけたのに、聖ちゃんはまだ足りないと言ってくる。

 先程の藤瀬と勇一の写真の撮り方を見ているので、聖ちゃんはあの二人のようにやりたいようだ。


 あの二人、頰と頬がくっつきそうなくらい近づいていたけど?

 さすがにそこまでは無理なのでもう少しだけ近づいたら、肩と肩が当たった。


「そ、そこでいい……! じゃ、じゃあ、撮るぞ」


 聖ちゃんはそう言ってスマホの画面を指で押し、カシャと鳴った。

 そしてすぐさま俺と聖ちゃんは離れる。


「と、撮れたようだな」

「そ、それはよかった」


 もう一度あれだけ近づけ、というのはさすがに心臓がもうもたない。


 いや、さっきのお化け屋敷ではあれ以上近づいていたのだが、あれとはまた別だ。

 あれは聖ちゃんから近づいてきたし、しかも聖ちゃんは極限状態だったので、あの時にあれだけくっついていたことをあまり覚えていない。


 しかし今のは俺から近づいたし、聖ちゃんも俺も素面だ、なおさら恥ずかしい。


 聖ちゃんからスマホを返されて写真を見ると、どちらも頰が赤くて少しぎこちない表情をしていた。

 俺はもうどうでもいいが、聖ちゃんはこれでも可愛いから最高だな。


「あ、あとでこの写真、RINEで送るね」

「あ、ああ、頼む」


 めちゃくちゃ恥ずかしいが、これは一緒に共有した方がいいだろう。


 ……ん? 待てよ、今の俺のセリフも、なんか既視感を感じた。

 なんだ、この既視感は……。


 ――っ、わかった……!

 えっ、だけど待て、なんで……!?


 俺はあることに気づき、勇一と藤瀬を探した。

 そして見つける、普通にまだ売店でお土産などを探している。


「ど、どうしたんだ? いきなりあの二人の方を見て……」

「い、いや、見失ったのかと思ったんだ」

「ふむ、大丈夫だぞ。今のところ、東條院の姿形も見えないしな」


 そう、まだ東條院さんの姿は見えない。


 しかし、それはおかしいのだ。

 もうすでに原作では、東條院さんが邪魔しているはずなのだ。


 先程の違和感、藤瀬と勇一がクマの耳のカチューシャをつけて写真を撮ったところ。


 あそこで原作なら、その後ろから「あら、お二人で楽しそうですね」と割って入ってきているのだ。

 だからその時の写真は、勇一と藤瀬の真ん中に怖い笑みを浮かべている東條院さんがいるのだ。


 三人になってから軽く修羅場になるが、その時に藤瀬が勇一の耳元で言うのだ、「この写真、あとでRINEで送るからね」と。


 だが今……見てわかる通り、東條院さんは邪魔しに来ていない。


 つまりすでに……原作は、崩れている。


 なんでだ? どうして、東條院さんは邪魔しに来ていないのだ?

 このままでは……本当に、あの二人が付き合ってしまうぞ?



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