第26話 聖ちゃんの苦手なもの?



 いやー、さっきはマジでミスった。

 聖ちゃんが乗りたそうにしてるから一緒にジェットコースターに乗ったけど、そういえば俺はああいうのがダメだったわ。


 絶叫系は別に大丈夫なんだけど、三半規管が弱いから酔いやすいんだよなぁ。


 聖ちゃんにダサいところを見せてしまった……最悪だ。

 ただ聖ちゃんは楽しそうにしていたから、それはよかった。


 俺の醜態を見てもむしろ喜んでいたから、まあ複雑だけどガッカリされるよりはいいか。


 とりあえず休憩したら回復したから、勇一がRINEで教えてくれた場所へと向かう。


 今、勇一と藤瀬は昼ご飯を屋台とかで買って、座って食べられるところにいるようだ。

 俺と聖ちゃんもそっちに向かいながら、途中で屋台に寄って昼飯を買う。


 俺は適当にホットドックとかを買ったのだが、聖ちゃんはまさかのクレープのみ。


「聖ちゃん、それで足りるの?」

「ああ、私はもとから少食だしな。それにこれも結構量は多いぞ」

「そっか。それならいいけど」


 まあ昼飯としてクレープ一つは、栄養としてはどうだという話もあるが、そこはいいだろう。


 遊園地デートという特別な日だし、俺もホットドック一つで栄養にとやかく言うほど偉くはない。

 今の高校生の昼飯なんて、タピオカミルクティー一つでもいいくらいだ、それは違うか。


 俺と聖ちゃんはあの二人がいる場所へと向かい、遠くから二人の姿を確認する。


 そして同じ食べる場所にはいるが結構遠くに座り、それぞれ買ったものを食べる。


 目の前でクレープを大きな口を開けて食べる聖ちゃん。


 意外と甘いものが好きで、いつもはクールな女の子だからギャップがある。


 そう思いながら聖ちゃんの方を見ていたら、さすがに視線に気づかれる。


「な、なんだ、そんなに見て」

「ん? いや、なんでもないよ」

「っ、ま、まさかお前……クレープを食べたいのか?」

「えっ?」


 どうやら俺が聖ちゃんをジッと見ていた理由を、クレープを食べたいからと思った聖ちゃん。


「さ、さすがにまだ同じ食べ物を共有するのは……!」

「いや、その……」

「か、間接キスになってしまうし……!」

「んんっ!」


 顔を赤らめてそう言う聖ちゃんに、俺は可愛すぎて唸るように咳払いをしてしまう。


「聖ちゃん、別に俺はクレープを食べたかったわけじゃないよ」

「えっ……そ、そうなのか」

「うん、ただクレープを美味しそうに食べる聖ちゃんが可愛いなぁ、と思ってただけ」

「っ……ど、どちらにしても、私が恥ずかしい思いをするだけじゃないか」

「あはは、それはごめんね」


 さっきのジェットコースターの時にからかわれたから、そのやり返しが出来たようだ。


「……んっ!」

「ん? ど、どうしたの、クレープを俺の方に向けて差し出してきて」

「お、お前も食べろ! 私だけ恥ずかしい思いをするのは、気に食わないからな!」

「えっ? いや、ちょっと……いいの?」

「い、いいから!」


 まさか本当に間接キスを覚悟で、聖ちゃんが俺の方にクレープを差し出してくるとは。


 しかも聖ちゃんが持ったまま、俺がそれを食べるという形だからさらに恥ずかしい。


 くっ……まさか自爆覚悟でそんなことをしてくるとは。

 俺としてはあの聖ちゃんと間接キス出来るなんて嬉しすぎるが、やはり恥ずかしい気持ちは捨てきれない。


 だが静ちゃんに差し出されて「あーん」のような形で、間接キスが出来るという状況でやらないわけにはいかないだろう。


「じゃ、じゃあ……いただきます」

「め、めしあがれ」


 恥ずかしさを押し殺し、俺は前のめりになって口を開け差し出されたクレープを食べる。

 出来るだけ静ちゃんが食べていないところを食べようとしたが、もう結構食べ進めた後なので無理だった。


 クレープはチョコや生クリームなどがたっぷりのものだったはずだが……なんだか恥ずかしくて味があまりよくわからない。


「ど、どうだ、美味しいか?」

「う、うん、美味しいよ」

「そ、そうか……」


 そして聖ちゃんは俺が食べたところを、一瞬だけ躊躇したが……一気にかぶりついた。


「んっ……あ、甘いな」

「う、うん、甘かったね」


 クレープがどれだけ甘かったかはあまり覚えてないが、今の俺達の方が甘い空気を出している気がする……。


 こういう空気を俺は漫画とかで読んだことはあるのだが、自分が当事者として味わったことはなかったから……なんだかめちゃくちゃ恥ずかしい。


 おそらく聖ちゃんもそう思っているのか、恥ずかしそうに顔を赤らめていた。

 そして俺と聖ちゃんが同じタイミングでチラッとお互いの顔を見て……なんだかこの空気がおかしくなって、お互いに笑い合った。


「あはは、まさか聖ちゃんがあんな恥ずかしいことをするとは思わなかったよ」

「ふふっ、久村こそ。そんなに恥ずかしがるなんてな」


 あー、ヤバイ、聖ちゃんとこんなに楽しく過ごしている……死ぬほど幸せだ。



 その後、俺達が食べ終わったと同じタイミングくらいで、勇一と藤瀬が食べ終わって移動するのを確認した。


 勇一と藤瀬の方が食べ始めるのは早かったが、あの二人は結構食べ物を買って食べていたようだ。


「勇一は知っていたけど、藤瀬も結構食べるんだな」

「そうだな。詩帆も少し気にしてるが、重本もいっぱい食べるようだから、そこも二人は合っているようだな」


 原作でも藤瀬がそこまで食べるような描写はなかったから、初めて知った。


 ぶっちゃけこの「おじょじゃま」の漫画、人気の漫画なのだがまだそこまで長期の連載というわけじゃない。


 十巻も出ていないから、まだ出していないキャラの情報とかもあるのかもな。

 それからしばらく、また普通に勇一と藤瀬が遊園地を回るのを見守りながら、俺達も二人がやったアトラクションを入ったりした。


 さすがに一応見守るという目的なので、全部のアトラクションを入ったわけじゃない。

 昼飯を食べ終わって二時間ほど経ち、とりあえずここまではまだ東條院さんは邪魔しに来ていない。


 やはりここら辺は原作通り、まだ東條院さんは邪魔しに来てないようだ。


 さて、次にあの二人が行く場所は、あそこかな?

 原作でも二人が行った施設、それはというと……うん、やっぱり。


「お化け屋敷だな」


 ラブコメ漫画での遊園地デートでよくある、お化け屋敷の回だ。

 ヒロインの女の子が怖がりで「きゃー」となって男の子にくっつき、ちょっとしたラッキースケベがあるみたいな感じのやつな。


 勇一と藤瀬も一緒に入るのだが、この作品は少し定石から外れていて……まさかの、勇一がお化け屋敷が超苦手という展開だった。


 だから今も、俺と聖ちゃんが見つめる先には、勇一がどうにかしてお化け屋敷はやめようと藤瀬に提案しているところだった。


「ふ、藤瀬、ここはやめないか? ほら、こういうところって子供騙しなのが多いし、高校生になって俺達が入るような場所じゃないぞ?」

「えー、私は結構好きだよ? それに子供騙しでもいいじゃん、遊園地に来たんだから、子供の頃の気持ちを思い出さないと。あっ、もしかして重本くん、怖いの?」

「そ、そんなわけないだろ! よし、行くか!」

「ふふっ、そうだね」


 うん、原作通りの展開だ。

 すでに藤瀬は今の反応とかで、勇一がお化け屋敷が苦手ということがわかっているが、だからこそ一緒に入りたかったようだ。


 意外とドSなんだよなぁ、藤瀬って。

 まあ「そこがいい!」っていうファンも多かったから、重本もそこが好き……と言うと、あいつがそういう趣味みたいの奴になるな。


 いや、もしかしてそうなのか?

 ……今度聞いてみよう。


「よし、二人が入ったみたいだな。じゃあ俺達も……」

「い、いや、別に行かなくていいんじゃないか?」

「……えっ?」


 聖ちゃんの言葉に、俺は疑問の声を上げてしまった。


「ほ、ほら、別にあそこは中は暗いし、東條院も邪魔しに来ることはないだろう。うん、あそこは大丈夫だ、入らなくても大丈夫だろう」


 今までもあの二人が入った施設に毎回入ったわけじゃないが、今の聖ちゃんの断り方はどう見ても……。


「……えっ、もしかして聖ちゃん、お化け屋敷とか苦手?」

「……べ、別に、苦手ではない。ただあんなの子供騙しで行く意味があるのか、と思っているだけだ」


 いや、勇一とほぼ全く同じこと言ってるじゃん。

 まさか聖ちゃんが怖いものが苦手とは……まだ原作では出ていなかった情報だろう。


 いや、まあ普通の女の子は苦手な子の方が多いだろう。

 むしろ嬉々として入って行く藤瀬の方が珍しいのだ。


 ただこれは……俄然、入りたくなってきた。


「俺は結構好きだよ。童心に返ってああいうところに行くのも楽しそうじゃない?」

「うっ……」

「ほら、行ってみない?」

「……に、苦手なんだ」

「えっ?」

「苦手なんだ! 正直に言うと、ああいう、お化け屋敷とかは……!」


 おー、まさかのカミングアウト。

 そうだよな、勇一みたいに無理して意地を張らなくても別にいいもんな。


「あっ、そうだったんだ」

「……幻滅するか?」

「いや、別にお化け屋敷苦手くらいで幻滅はしないよ。そんなこと言ったら、俺もジェットコースター苦手だし」

「そ、そうか、それはよかった」

「ただ……ごめん、めちゃくちゃ聖ちゃんと一緒にお化け屋敷に行きたいんだけど」

「な、なぜだ!? 苦手だと言っているだろ!」

「だからこそというか、怖がる聖ちゃんは絶対に可愛いと思って」

「せ、性格悪いなお前!」

「いやいや、それを言うなら藤瀬もそうだろ」


 俺は正直に言ったが、あっちは心の中で楽しんでるだけだからな。


 むしろ聖ちゃんの親友さんの方が性格悪いと思うぞ。


「無理にとは言わないよ。だけど聖ちゃんもお化け屋敷とかって、子供の頃に行って苦手な意識があるだけじゃない?」

「ま、まあそうだが……」

「だからもしかしたら、高校生になって気づかない間に克服してて、楽しめるくらいにはなってるかもよ?」

「た、確かに……」

「まあ俺の本音は、聖ちゃんがまだ全然克服してなくて、すごい可愛い姿を見せてくれることを祈ってるんだけど」

「おい、最低じゃないか」

「自分に正直と言ってくれ」


 いや、本当にマジで。

 本当にマジで、って二重に同じことを言ってしまっているが、本当にマジでそう思っている。


 聖ちゃんがお化けに怖がるところなんて、死んでも見たい。


「お化け屋敷なんて怖がってナンボだから、むしろ怖がらない人よりも楽しめるんだよ? まだ克服してなくても聖ちゃんはお化け屋敷をすごい楽しめるってことになると思うよ」

「……お前、どれだけお化け屋敷に入りたいんだ」

「そりゃもう、この遊園地で今一番入りたいアトラクションになったくらいには」

「そ、そんなに入りたいのか」


 俺は別に怖いのは得意でも不得意でもないけど、聖ちゃんの怖がっている姿をめちゃくちゃ見たいのだ。


「……わ、わかった。そこまで言うなら、入ろう」

「おっ、マジで?」

「ああ、私も苦手は克服したいとは思っていたんだ。小学生以来入っていないから、もしかしたら行けるかもしれないしな」


 おー、本当にまさか行ってくれるとは。

 俺もマジで行きたかったから、土下座をしてでも頼みこんでいたかもしれない。


「よし、じゃあ行こっか。まあ無理だったら途中リタイアとかもあるから、そこに行けばいいと思うよ」

「一度入ったからには最後まで行くさ」


 そして俺と聖ちゃんは、勇一と藤瀬が入っていったお化け屋敷に入っていく。


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