第25話 聖の初めてのデート



 重本と詩帆、それに聖と久村は無事に遊園地に入ることが出来た。


 この遊園地はとても広く、いろんなアトラクションや施設が多くある。

 一日じゃ全てのアトラクションを乗るのは不可能なくらいだ。


 重本と詩帆の二人についていくように、聖と久村は離れた場所で追っていく。

 二人がいきなり後ろを向いてもバレないくらい離れて、しかし決して見失わないような距離を保つ。


 そんな距離を保ちながら追っていくが、聖の心の中は少し荒れていた。


(や、やはりこの服装はやめておいた方がよかったか……!)


 一番気にしているのは、服装のことだった。

 昨日の寝る直前まで考えて、そして朝起きてからもずっと迷い、家を出る直前までどうしようかと悩んだ結果。


 一番最初に詩帆に勧められ、だけどすぐに却下したヘソ出しセーターにした。

 これを着るのは本当に迷った聖だったが、勇気を出して着てきた。


(恥ずかしいが、久村もとても喜んでくれたし……い、いや、別に久村に喜んでもらうために着てきたのでは……!)


 と心の中で言い訳をしようとしたが、思い直した。


(い、いや、自分に嘘はつけないな。もちろん久村にちょっとでも、その、可愛いと思われたいから着てきたのだが……想像以上のリアクションをされて、逆に恥ずかしくなってしまった……!)


 まあ全くリアクションがなかったり、微妙なリアクションをされるよりは全然よかったが。

 だがこれほどいい反応をされて……そして今も。


「……久村、少し視線が痛いぞ」

「うっ……ごめん」


 久村は詩帆や重本の方を監視しながらも、さっきからずっと久村の右側にいる聖の方をチラチラと見ていた。

 むしろ聖の方を見る時間の方が長いだろう。


「そ、そこまで見られるとさすがに恥ずかしいんだが……」

「ごめん、ほんとごめん。だけど聖ちゃんが可愛すぎるのがいけないと思う」


 久村は聖を見ないようにするためか、左手で顔を覆う。


「な、なんだその意味不明な責任転嫁は」

「いやまあ適当に言っただけだけどさ。だけど聖ちゃんの格好が可愛すぎるから見ちゃうのは事実」

「くっ……そ、そんなに正直に言って恥ずかしくないのか、お前は」

「少し恥ずかしいけど、事実を言ってるだけだしね」


 そこまで言い切られると、聖の方が恥ずかしくなってしまう。

 聖も逆にそこまで振り切って堂々とした方がいいのだろうが……まだ難しいようだ。


「と、とりあえず、私を見るのはいいが、詩帆と重本のことも監視するんだぞ。見失わないようにな」

「了解。というか、聖ちゃんを見るのはいいんだね」

「そ、それは、私だって見られるのは覚悟でこの服を着てきたわけで……」

「……可愛すぎない?」

「う、うるさい!」


 聖は恥ずかしくなって少し早歩きになって先に進み、それに笑みを浮かべながらついていく久村だった。



 そのまま数分進んでいると、最初に詩帆と重本が選んだアトラクションは……。


「ジェットコースターか……いきなり派手なものを選んだな、あの二人は」

「そうだね。まあこういうのは人気のアトラクションだから、午後とかは結構混むんだよね」

「そういうことか」


 列はまだそこまで長くないので、おそらく十数分も並べば乗れるだろう。

 午後とかになると一時間待ちなども珍しくないので、早めに乗った方がいい。


「それに詩帆は意外とこういう系が好きだからな。重本はどうなんだ?」

「あー、あまり聞いたことないけど、あいつはこういうのにビビるようなタイプじゃないだろうなぁ」

「確かにそうだな」


 並んでいる二人を見ていると、どちらもジェットコースターが楽しみなのか、とても笑顔で喋っている。

 なかなか楽しそうだ。


「よし、私達も並ぶか」

「えっ、乗るの? 乗っちゃったらあの二人を見失わない?」

「……あっ、そ、そうか。そうだよな」


 確かに聖と久村も並んで乗るとすると、あの二人が乗って終わった後ということになる。

 そうなるとあの二人を見失う可能性が高くなってしまう。


 聖としては詩帆や重本と同様、絶叫系が好きだったから乗りたかったのだが、我慢するしかないだろう。


「……まあ、俺達も並ぶか」

「えっ? だが乗ってしまったら、詩帆と重本を見失って……」

「見失っても勇一にRINEしてどこにいるか聞けば大丈夫でしょ」

「……確かにそうか」


 重本には聖と久村がこの遊園地に来ていることは知っているし、監視を頼んでいる方だから、居場所ぐらいすぐに教えてくれるだろう。


「だが、私達が乗っている間に、あの二人のところに東條院の邪魔が入ったらどうする。それこそ本末転倒だ」

「あー、そうだね。だけどまだ大丈夫だよ、遊園地に入ったばかりで、さすがにまだ邪魔しに来ないでしょ」

「なぜそう言い切れるのだ?」

「……俺の勘、かな?」

「なんとも適当な……」

「それに監視してるだけじゃ、せっかく遊園地まで来たのにつまらないし。最初から神経質に見守ってたら大変だから、多少は気を抜かないと」

「確かにそれもそうだが……」


 これから夕方、遅くなったら夜まで詩帆と重本のデートを見守らないといけないのだ。

 昼前からずっと気を張っていたら、いざという時に阻止出来ないかもしれない。


「ほら、とりあえず並ぼう」

「あっ……」


 それでも悩んでいる聖だったが、久村が手を取ってジェットコースターの列に並んだ。


「せっかく来たんだから、楽しまないとな」


 そう言ってニッと笑う久村を見て、聖も口角が上がってしまう。


「はぁ……これであの二人に東條院の邪魔が入ったら、お前に頑張ってもらうからな」

「えっ、邪魔が入ったらもう無理じゃない?」

「東條院が邪魔したら、最悪私達もそこに割って入って力づくで東條院を引き剥がすことになるぞ」

「そこまでやる?」

「ああ、詩帆の邪魔はさせない」

「……ははっ、さすが聖ちゃんだなぁ」

「それはどういう意味だ?」

「友達想いで行動力があって、カッコいいってことだよ」

「っ……そうか」


 また照れ臭くなって顔を逸らした聖だった。

 そして詩帆と重本がジェットコースターに乗った後、聖と久村もすぐに乗ることになった。


 乗る前はやはりあの二人に邪魔が入らないか少し気になっていたが、乗ってしまったら楽しくなってしまった聖。


 やはりせっかく遊園地に来たので、こうやって楽しまないと損かもしれないと思った。


 しかし……。


「久村、お前、ジェットコースター苦手なら乗る前に言えばいいものを……」

「ご、ごめん……テンション上がって、ちょっと忘れてた」


 久村が意外と三半規管が弱いのか、少し気分が悪くなってしまったようだ。

 ジェットコースターに乗った後、すぐそばのベンチで座って休憩している二人。


 ベンチの背もたれに寄っ掛かり、回復につとめている久村。


「ごめん、すぐに回復するから……」

「お前でもそういう風になるのだな。いいことを知ったぞ」


 今までずっとからかわれてばっかりで、ようやく久村の弱点を知った聖。

 実際……ある意味、聖の存在自体が久村の弱点ではあるのだが。


「楽しんでいただけたら何より……だけどイタズラはしないで欲しいかな」

「そうだな。じゃあ次はコーヒーカップのやつでも乗るか」

「ガッツリまた酔わす気じゃん……」

「ふふっ、冗談だ」


 久村が重本にRINEを送りどこにいるかがわかるまで、二人はそこで休憩をしていた。


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