第74話 RINEで惚気?



『聖ちゃん、クッキーありがとう。凛恵もすごく美味しいって言ってたよ』


 そのメッセージを見て、思わず頬が緩んでしまう。


『そうか、それは何よりだ。前に凛恵の卵焼きを食べさせてもらったから、そのお礼になればよかった』


 前に司とお弁当のおかず交換をした時、凛恵の料理がとても美味しかった。

 そこで凛恵にもお礼をしたいと思い、司の分だけじゃなく凛恵の分もクッキーを作ったのだ。


 そうしているとすぐにまた返事がきた。


『俺は聖ちゃんに「あーん」をしてもらったぜ! って自慢したら、「バカじゃないの?」って言われた』

「な、何を言ってるんだ司は……!」


 他人に、いや、司にとっては身内だが、自分達以外に話すことでもないだろう。


『何を自慢してるんだ。そんなことを他の人に言うんじゃない』


 聖がそう送ると、すぐに既読がついて戻ってくる。


『あ、ごめん。ただ自慢したくて。怒らせるつもりはなかったんだ』


 そんな返事が戻ってきたが、聖も別に怒っているわけじゃない。

 ただ自分のメッセージを見返すと、確かにそっけなく怒っている感じがする。


『怒っているわけじゃない』


 怒っているわけじゃないということを伝えてから、続けてメッセージを書く。


『その、恥ずかしいだけだから』


 それを送ってから少し冷静になり、さらに恥ずかしくなってきてしまう。

 なぜか既読がついているのに、返事が数分経っても返ってこないというのもドキドキが止まらない原因だ。


(な、なんで返事が返ってこないんだろうか。このくらいで恥ずかしいっていうのが引かれてしまったか? だが恥ずかしいのは本当だし……)


 そんなことを思っていたら、司から返事が戻ってきた。


『怒ってないって安心したけど、聖ちゃんが可愛くて一人で悶えてた』


 そんなメッセージが返ってきて、さらに聖の頬が赤くなる。


『別に、いちいち報告しないでいいから』


 そうメッセージを返したが、今回はなぜメッセージが早く返ってこないのか気になっていたから、報告してくれてもよかったかもしれない。


『ごめんね。とりあえず自慢だけど、凛恵には今後あんまりしないようにするよ』

『ああ、そうしてくれ』

『だけど時々、別に自慢とか惚気とかしてるつもりはないのに「惚気はやめてくれる?」とか言われるけど』

『……どんな話をしてるんだ?』

『たとえば前は、一緒に学校に行ってる時に大きな犬が飼い主と散歩してて、すれ違う時に吠えられて聖ちゃんがビクッとしてて可愛かった、とか』

『まずその話はやめてくれ、恥ずかしい』


 確かにそんなことはあったが、聖にとっては普通に恥ずかしい出来事だった。


『他にも、お弁当を食べている時に一口で食べられるか微妙な唐揚げを、大きな口を開けて食べてリスみたいにもぐもぐしているのが可愛い、とか』

『それも恥ずかしいから、というか見ていたのか!?』


 つい先日、学校での昼休みに冷凍の唐揚げを一口で食べて、少し苦戦したことはある。

 もちろん下品にならないように手を口に立てて隠していたが、それを隣にいた司に見られていたとは。


『そういう毎日の聖ちゃん可愛い発表会をしてたんだけど、毎回「はいはい、惚気惚気」とか言われるな』

『……確かに他人には惚気に聞こえると思う。それに私も恥ずかしいから、控えめにしてくれ』


 ここで「やめてくれ」と言わないのは、少しだけ嬉しいという気持ちもあるからだった。


『わかった、一日一回までで我慢するよ』

『何回もしていたのか……』

「まったく、司は……」


(どれだけ、私のことが好きなのだ……うっ、自分で考えておきながら恥ずかしくなってしまった……!)


 気恥ずかしさを忘れるため、一度スマホから目を離して机の上を見る。

 そこには前に司に貸して、返してもらった「転ゴブ」の漫画があった。


「そうだ、ここで司にどういう漫画がいいか聞いてみるか」


 漫画を貸す約束を思い出し、そのことについてメッセージを送る。


『次に貸す漫画だが、どういうのがいい? 王道少年漫画や、異世界系の漫画、ラブコメ漫画など、いろいろとあるが』

『うーん、じゃあラブコメ漫画で』

『少女漫画系ではなく、少年漫画の雑誌とかに載っている系のラブコメ漫画だが大丈夫か?』

『もちろん、むしろそういうのが好きかな』

『わかった、じゃあそれを学校に持っていこう』

『ありがとう、俺も少女漫画のやつ持っていくね』

『ああ、楽しみにしている』


 そんなやりとりをしていると、意図せずに自分の口角が上がっているのに気づく。

 少女漫画が楽しみというのもあるが、やはり司と一緒に漫画のことを話しているのが楽しいのだ。


『司、好きだ』


 メッセージでそう書いたが、送信ボタンを押すのを迷う。


 これを送るのは、とても勇気がいる。

 口でも数度しか言ったことないから、メッセージなら言えるかもしれないと思って書いてみたはいいが……。


(は、恥ずかしすぎるな……)


 自分で書いたメッセージを見てるだけで頬が赤くなってくる。


 ダメだ、送れない……消そう。


 そう思って消そうと思って画面を触った瞬間、スマホが振動し始めた。


「うわっ! ビ、ビックリした……詩帆か?」


 親友の詩帆からいきなり電話がかかってきたようだ。

 時々こうして詩帆から突然電話がかかってくるので、そう珍しくはないことだ。


「もしもし、詩帆、どうした?」

『聖ちゃん、急にごめんね、数学の宿題で聞きたいことがあってさ、問題集のどこまでやればいいんだっけ?』

「それなら二四ページまでだな」

『そっか、ここまでか。うへー、苦手なところだぁ』

「私がこのまま少し教えてあげようか?」

『ほんと!? ありがとう! 実はそれを期待して電話したけどねー』

「ふふっ、だろうな」


 聖はスピーカーにしてスマホを耳に当てずに話せるようにしながら机に座り、数学の問題集を開く。


 するとまたスマホが震えた、誰かからメッセージが来たようだ。


『ん? 今、聖ちゃんのスマホが震えたのかな?』


 どうやら電話口の詩帆にも揺れたのが音でわかったようだ。


「ああ、すまない、揺れないように設定しておく」

『別にいいけどねー。もしかして久村くんかな?』

「ま、まあ、そうだと思うが……」


 このタイミングでメッセージが来るなて、さっきまでメッセージをしていた司くらいだろう。


 司との会話画面を開くと……。


「あっ……!?」

『えっ、どうしたの?』


 聖は思わず大きな声で反応してしまった。

 画面を見ると、さっき聖が書いて送らないでいた、


『司、好きだ』


 が、送信されてしまっていた。

 そしてすでに既読がついており、返事も来ていた。


『ありがとう、聖ちゃん。俺も大好きだ』

「し、しまった……!」


 顔を真っ赤にしながらそう呟いた聖。

 おそらくさっきの詩帆が電話してきてスマホが振動した時、指が画面に当たって送ってしまったのだろう。


『聖ちゃん、どうしたの? 大丈夫?』

「い、いや……大丈夫じゃないが、大丈夫だ……」

『どっちなの? 何か久村くん関連であったの?』

「くっ、まあそうだが……!」


 さすがにこのことを詩帆に言うのは恥ずかしすぎる。


『えー、どうしたのー? 何があったのー?』

「い、言わないからな。これは私と司だけの秘密だ」

『あ、今、久村くんのこと下の名前で読んだよね?』

「あっ……」

『へー、そうなんだー。下の名前で呼ぶようになったんだー。その感じだと二人きりの時はそう呼んでるだね?』

「いや、違う……こともないけど」

『動揺してないとそんなミスしないよね? 今、久村くんと何があったのかなぁ?』

「だ、だから言わないぞ。ほら詩帆、早く宿題をやるんだ」

『んー、久村くんから「好きだ」ってRINEで言われたとか?』

「なっ!?」

『あ、その反応、正解でしょ?』

「も、もういいだろ! これ以上からかったら、宿題を教えてやらないぞ」

『はーい』


 顔を真っ赤にしながらも、聖はちゃんと詩帆に宿題を教え終わった。


 しかしその後、司との会話画面を見て悶える聖だった。



 一方その頃、司は――。


「可愛すぎる……! なんだこのメッセージ、見た瞬間にスクショをしてしまった……! 直接言われたわけじゃないのに、文字だけなのになんでこんなに可愛いんだ? 聖ちゃんの可愛さが異次元を突破してる……!」

「お兄ちゃん、リビングで身悶えてしてないで、自分の部屋行って」


 妹の凛恵に冷たい視線を向けられていた。




――――――――――


本日から、ラブコメの新作を書き始めました!


「お堅い堅石さんは、僕の前でだけゆるえろい」


本作と同様に、甘々のイチャラブコメに仕上がっています!

ぜひ読んでください!


よろしくお願いします!


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