第23話 待ち合わせ
待ち合わせ場所に、着いた。
遊園地近くのカフェ、そこの前で待ち合わせをしている。
時刻はまだ九時半過ぎくらいだ。
約束の時間まであと一時間近くある。
早く着きすぎた……わけではない、俺の中ではこれがむしろ普通だ。
「ふぅ……」
俺は落ち着くために、深呼吸をする。
これから俺は、聖ちゃんと二人きりで遊園地デートをするのか……。
……これは現実なのか、今更ながら疑ってきたわ。
マジで俺は今から、あの「おじょじゃま」の漫画のヒロイン、俺の推しキャラの嶋田聖とデートをするのか?
冷静に考えたら、本当に信じられないことだ。
この世界にやってきてまだ一週間も経ってないのに、あの聖ちゃんとデートをすることになるとは。
前の世界にいた時は、本当に夢にも思ってなかった。
だがデートといっても、目的は少し違う。
あくまでも俺と聖ちゃんは、勇一と藤瀬のデートを成功させるために、東條院の邪魔を防ぐという目的で行動を共にするだけ。
だが実質、これは遊園地デートということだ。
しかもさっきのRINE、みんな見た? 誰にも見せねえけど。
もう俺は見なくても思い出せる、『その、遊園地に行くのは久しぶりだから、楽しみにしている』って書いてあったんだぞ。
聖ちゃんも俺との遊園地デートを、楽しみにしてくれているのだ。
もう本当に、心臓が止まらないのがやっと。
よく俺の心臓は止まらないでいてくれている、本当に。
この漫画の世界だったら本当、マジで止まる可能性あるからな。
ギャグ漫画とかで心臓が止まってすぐに復活する描写とかあるけど、あんなん現実で起きたら普通に心臓マッサージしないといけなくなるから。
頼むぞ、俺の心臓、今日は頑張ってくれ。
しかし遊園地デートか……どんなことをすれば、聖ちゃんを楽しまさせられるだろうか。
俺も遊園地なんて、小学生以降行ってないと思う。
だから楽しみではあるのだが、聖ちゃんをエスコート出来るのかが心配だ。
まあ遊園地だから、普通にアトラクションに乗っていけばいいと思うんだけど。
だけど俺と聖ちゃんって、アトラクションに乗っていいのか?
俺達がアトラクションに乗って楽しんでいる間に、勇一と藤瀬のデートを東條院さんに邪魔されてしまうかもしれない。
そうなったら本末転倒だ……だけど。
俺は心の中では、東條院さんが邪魔しに来ればいい、と思っている。
だってここであの二人が付き合ってしまったら、物語が終わってしまう。
そうなったら東條院さんが……救われない。
まあ、多分俺と聖ちゃんがどう頑張っても、東條院さんが本気で邪魔しに来たら、絶対に止められないだろうしな。
あの人だったら多分、遊園地を休園させることも出来るだろ。
そんなことされたらもう俺達じゃどうしようもない。
さすがにそこまではしないと思うが、ぶっちゃけそれが出来るような人なのだ。
俺達が止められるとは、到底思えない。
まあ止められなかったら止められなかったで、俺は構わないのだが。
だが聖ちゃんは絶対に止めたいと思うから、俺も聖ちゃんと協力して全力で止めにはいく。
少し時間が気になり腕時計を見ると、もう十時ぐらいになっていた。
待ち合わせまであと三十分か……いや、聖ちゃんの性格なら早めに着くことも考えて、あと二十分ちょいで来ると思う。
うわー、マジで緊張してきた。
あっ、そうか、今気づいたが、俺は初めて生で聖ちゃんの私服姿を見れるのか!
やっば、聖ちゃんの私服姿とか、楽しみでしかないんだけど。
まあ漫画を読んでいる時に、結構聖ちゃんの私服姿は見てきた。
よく藤瀬と遊びに行っている姿とかを見たので、おそらくそういう格好で来るのだろう。
絶対に可愛い、可愛くないわけがない。
マジで楽しみ……。
「ひ、久村……」
「……えっ?」
突如後ろから名前を呼ばれて、俺はビックリしながら後ろを向く。
今の声は、聖ちゃん?
いやだけど、まだ三十分近く待ち合わせの時間まであるが……だが俺が聖ちゃんの声を間違うはずがない。
そう思いながら後ろを向き、聖ちゃんの姿を視界に収めた瞬間――。
「っ……」
息をするのを忘れてしまった。
まず目についたのは上着、黒のブルゾンで裾が少し短く腰上くらいまでで、それをゆったりと着こなしている感じがとてもカッコいい。
下は淡い色をしたデニムパンツで、聖ちゃんの長く美しい足の魅力がこれでもかというほど出ていて綺麗である。
赤いショルダーバッグを肩にかけていて、それもとてもお洒落だった。
そして……一番目が引かれてしまうのが、黒のブルゾンの中に来ているセーター。
白の色のセーターで編み込みの模様が大きめの、少しゆったりとしたもの……それだけならそこまで驚かなかったのだが。
セーターの丈が異様に短く……聖ちゃんのおへそと、美しいくびれが見えてしまっている。
「や、約束の時間の、三十分前だぞ……全く、いつ来ていたというのか」
聖ちゃんが俺に向かって何かを言っているが、あまり耳に入らない。
まさかこんな私服姿で来るとは思っておらず、まだ脳の処理が追いついていないのだ。
ちょっと待ってくれ、本当に……。
「……っ、あ、あまりジロジロ見るな」
聖ちゃんはそう言って、自分のお腹の露出しているところを両手で隠すようにする。
その恥じらう姿がなんというか、うん、俺の心にまたブッ刺さってしまう。
「ご、ごめん……見惚れてた……」
「っ……」
俺が正直にそう言うと、聖ちゃんはさらに頰を赤くして顔を逸らした。
というか見惚れてた、というと過去形みたいだが、今もなお見惚れている。
「聖ちゃん、その、めちゃくちゃ可愛い。本当に、ビックリした」
「そ、そうか、ありがとう……」
「いや、いつも可愛いとは思ってたけど、今日の格好、本当にヤバい」
「も、もういい! もう褒めなくていいから!」
聖ちゃんは顔を真っ赤にしながら怒るようにそう言ったが、俺としてはまだまだ褒め足りない。
あと十分くらいは言っていたい。
まあ多分ずっと褒めていたいが、聖ちゃんの美しさの前に語彙力はなくなってしまうから「ヤバい、尊い」しか言えなくなると思う。
「と、とりあえず、まだ詩帆と重本は来るまでには時間がある! カフェで待つとしよう!」
聖ちゃんは照れ隠しのようにそう言って、カフェの方へ歩いていく。
「あ、ああ、わかった」
俺はまだ少し呆然としながらも、聖ちゃんの後についていく。
……後ろ姿も綺麗すぎて、言葉にならない。
生きててよかった……。
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