第5話 聖と詩帆の電話
聖は我慢出来ずに、詩帆にRINE電話をした。
呼び出し音が鳴り、一回目の呼び出し音が鳴り終わる前にあちらが電話を取った。
「……詩帆」
『あはは……こんばんはー、聖ちゃん』
「ああ、こんばんは。まさか私は、詩帆に騙されるとは思っていなかったよ」
『騙してないよ。ただ聖ちゃんが喋りやすいように、ちょっと誘導しただけで』
「それを世間一般、いや、私から言わせれば、騙したということなんだ……!」
『あはは、だけど聖ちゃん、すごく可愛かったよ。聖ちゃんが意識せずに惚気てくるなんて、今まで一度もなかったから』
「くっ……!」
実際、誘導されたのはともかく、喋ってしまったのは聖だ。
それに詩帆がどれほど現場を見ていたのか確認もせずに、ほとんど全部を言ってしまったのは不覚だった。
ただ……聖が帰るところしか見てないということを知れたのはよかった。
久村から告白をされる前に、聖が重本に好意を寄せていたというのを知られなくて済んだからだ。
『だけど電話してきてくれてありがとうね、聖ちゃん。これで思う存分、その時のことを聞けるよ!』
「い、いや、別にそのことを話すために電話をしたわけじゃ……」
『ふふっ、最近は私が重本くんのことで恋愛相談を聖ちゃんにしてたけど、聖ちゃんも同じく恋話が出来るようになったから、嬉しいよ!』
「くっ……わ、私はその、もう寝ないと……」
『まだ十時だよ! 聖ちゃんは寝るのもっと遅いでしょ! そんなに私と恋話をしたくないの……?』
「いや、そういうわけじゃないんだが……その、恥ずかしいんだ……」
聖が声を絞り出すようにそう言うと、電話口の向こうから息を飲む音が聞こえる。
『っ……聖ちゃん、今のすごい可愛いよ!』
「は、はぁ? 何が……!」
『今の言い方! 女の私でもキュンときちゃったよ!』
「い、言い方といっても、よくわからないが……」
『ふふっ、やっぱり聖ちゃんは可愛いね。久村くんにより一層可愛くしてもらったみたい』
「なっ、どういう意味だそれは!?」
『だってさっきの惚気を聞いてるだけでも、すごいいろんなこと言われたんでしょ?』
「うっ……そ、そうだが……」
詩帆に誘導されて、ほとんど全て言わされたのだ。
一番隠さないといけないことは隠しておけたが、恥ずかしいことは全て先程のRINEで洗いざらい話してしまった。
『というか、なんでいきなり久村くんは聖ちゃんに告白したの?』
「そ、それは私が聞きたいくらいだ」
詩帆も聖も、二人と久村とは多少の交流があったが、聖のことが好きだなんていう雰囲気は全くなかった。
『聖ちゃん、どんな感じで告白されたの?』
「な、なんでそこまで……!」
『いいじゃん。ほら、私も重本くんに告白するときに、参考にしたいからさ』
「うっ……だが、あんなの参考になるのかわからないが」
友達思いの聖は、詩帆が告白を成功させるためと聞いて、先程あった告白の流れ、言葉などを説明していく。
途中途中、聖が恥ずかしすぎて詰まる部分が多数あったが、なんとか最後まで説明しきった。
『あ、ありがとう、聖ちゃん……ごめんね、ここまでのことを話してもらって』
「はぁ、はぁ……いや、大丈夫だ。詩帆の告白の参考になれば、それで……」
『いや、その……ここまで話してもらってちょっと悪いんだけど、無理かなぁ』
「ど、どうしてだ?」
『だって、さすがに恥ずかしすぎるし……というか今の、学生がする告白じゃないよ。プロポーズだよ』
「ぷろ……!?」
そんなことを言われるとは思っておらず、聖は思わず咳き込んでしまった。
聖は客観的に久村の告白を把握出来ていなかったが、まさか親友の詩帆から客観的な立場で、そんなことを言われるとは夢にも思っていなかった。
『だってそうでしょ? 幸せにする、とか、一生を捧げられる、とか……もうプロポーズにしか聞こえないよ?』
「うっ……そ、そう言われれば、そうかもしれないが……」
確かに今思い返すと、久村の真剣な雰囲気とか、言葉とかがプロポーズに近かった。
ただ、「結婚してください」と言われなかっただけで、ほぼプロポーズだった、
『私もその、重本くんと付き合って一緒になりたいとは思ってるけど、プロポーズはまだ無理かなぁ……』
「わ、私も別に、久村の告白を受けたとしても、結婚までは考えているわけじゃ……!」
『えっ、じゃあ告白は受けるってこと?』
「そ、そうとは言ってない!」
『じゃあ受けないってこと?』
「いや、その……まだ、迷い中というか……」
実際、告白をされてずっと待たせているわけにもいかないだろう。
早めに告白の返事をしないといけない、久村も早く欲しいと言っていたし。
『うーん、聖ちゃんは好きな人はいないの?』
「す、好きな人……?」
『うん、そういえば聖ちゃんのそういう話は全然聞いたことなかったけど』
好きな人、と言われて……聖が一番最初に思いつくのは、今は久村の顔になってしまっていた。
ただ、その前……というか久村に告白される前までは、好きな人といって思いついたのは、重本勇一、詩帆の想い人だ。
「……いや、好きな人はいないな」
それだけは、詩帆に知られる訳にはいかない。
『そうなんだ。じゃあ久村くんに告白されてどうだったの?』
「そ、それは……その、嬉しかった、けど」
『……えっ? ちょっと声が小さくて聞こえなかった』
「だ、だから、嬉しかった……すごく」
思わず最後にどれだけ嬉しかったのかを表す形容詞をつけてしまった。
だけど実際、そのくらい心の中では喜んでいた。
だから数時間経った今でも、その時のことを思い出して顔が真っ赤になってしまうのだ。
『ふふっ、そうだよね。あれだけ熱烈な告白をされて、意識しない方が難しいよね』
「うぅ……あまりいじめないでくれ、詩帆。私もいっぱいいっぱいなのだ……」
『ごめんね。聖ちゃんとこんな話するのも初めてだから、私も興奮しちゃって』
いつもは詩帆の恋話、恋愛相談を話していたが、今回は聖の恋話である。
詩帆のテンションが上がってしまうのもしょうがないだろう。
『だけど聖ちゃん、本当にどうするの? 付き合うの?』
「いや……久村のことはとてもいい奴だとは思っていたが、いきなり告白されて……まだわからない」
『うーん、そこまで重く考えなくていいんじゃないかな?』
「……そうか?」
『うん。まあ久村くんのあの告白を聞いちゃったら、本当に結婚を考えてしまうくらい悩んでもしょうがないかもしれないけど、私達まだ高校生だよ?』
「ま、まあそうだな」
もちろん結婚まで妄想していたわけじゃない。
だが先程、詩帆からメッセージがある前は……あのまま告白を受けていたら、ということを考えてしまっていて……。
「くっ……いらないことを考えてしまった!」
『ど、どうしたの?』
「な、なんでもない、続けてくれ」
またぬいぐるみを二度ほど殴り、妄想を頭の中から取り払う。
『これはテニス部の友達の話なんだけど、男の子から告白されて別に好きじゃなかったけど、一回試しに付き合ってみた、っていう子も何人かいるよ』
「そ、そうなのか?」
『うん。まあそれで上手くいってる子もいるし、いってない子もいるけど……そこまで深く考えず付き合ってみるっていうのも、一つの手だよ。聖ちゃんは真面目だから、ちょっと難しいかもしれないけど』
「そう、だな……」
実際、高校生の恋愛なんてそんなものが多いだろう。
いや、高校生だけじゃなく、大人でもそうかもしれない。
最初から本気で二人が想いあって、両想いで付き合う男女なんか、むしろ少数なのかもしれない。
高校生だったら、告白されて少し気になる人だから試しに付き合ってみても、くらいの感覚で付き合ってもいいかもしれない。
この先、一生その人と付き合うわけでもないから。
それはそれで正しいのだろう。
(だけど……)
『聖ちゃん、俺は君が好きだ。絶対に幸せにするから、俺と付き合ってほしい』
真っ直ぐな瞳で、真剣にそう言ってきた久村。
そんな相手に、自分は「まあ好きじゃないけど試しにいいかもしれない」なんていう気持ちで、付き合ってもいいのか。
「ふふっ……違うな」
『ん? どうしたの?』
「いや、すまない、詩帆。その友達とかを否定するわけではないが、私はそういうのは性に合わない。それに久村も、その、あれだけ真剣に言ってくれたのだ」
『……そうだね。私も自分で提案してみて思ったけど、聖ちゃんにはそうして欲しくないとは思ってた』
「ふっ、そうか」
『それに私も、今度重本くんに告白するつもりだけど、そんな感じで付き合ってもらってもあまり嬉しくないかな』
「そうだな。まあ重本も久村と同様、そこらへんは真面目に対応してくれるだろう」
『うん、私もそう思う。だって私が好きになった人だもん』
「……そうか」
それほど詩帆が自信満々にそう言っていたのであれば、もしかしたら聖は重本に近づいて彼のことを調べる必要はなかったかもしれない。
そうすれば聖も、重本に好意を寄せないで済んだだろう。
だが聖が重本に好意を寄せてなければ、久村に告白されることはなかった可能性も考えると……やはり重本に近づいて正解だった。
(っ、いや、違う、なんで久村に告白されたことが正解みたいになっているんだ。まだ私は告白を了承してないし……)
『そういえば聖ちゃん』
「っ、な、なんだ?」
また少し余計なことを考えていた聖に、詩帆が電話越しでニヤつきながら話す。
『またさっき、ちょっと惚気たよね?』
「はっ? いや、惚気てなんか……」
『だって重本くんと同様に久村くんも真面目に対応してくれる、って言ったよね? つまり久村くんは聖ちゃんに対して真面目に接してくれた、ってことだよね?』
「なっ、いや、その……」
また無意識に惚気てしまっていた聖だった。
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