第61話 リムジンの中で


 その後、リムジンは止まった……めちゃくちゃ滑らかに止まったな、さすが一流の運転手。


 東條院さんがリムジンを出て藤瀬と聖ちゃんを迎えにいく。

 またすぐにリムジンのドアが開いて、三人が入ってきた。


「うわー、リムジンだ……初めて乗ったよ」

「もちろん私もだが、さすが東條院だな」


 藤瀬も聖ちゃんもやはりリムジンに驚いているようだ。


「あ、凛恵ちゃん、だよね?」

「はい、久村凛恵です、よろしくお願いします」

「藤瀬詩帆です、よろしくね! 詩帆でいいからね、凛恵ちゃん」

「わかりました、詩帆先輩」


 凛恵と藤瀬は初対面なので挨拶をしている。

 藤瀬は青色のブラウスに白のショートパンツを履いていて、とても春らしい爽やかで可愛らしい格好だ。


 藤瀬はフレンドリーなのですぐに仲良くなれるだろう。


「おはよう、聖ちゃ……嶋田」

「……おはよう、久村。あとこのメンバーだったら、その呼び方でも構わない。だけど気をつけてくれよ」

「あはは、ごめん聖ちゃん、気をつけるよ」


 呼び方を間違えてしまったから、ちょっとジト目をしている聖ちゃん。

 すごい可愛いけど、俺も気をつけないとな。


 聖ちゃんの今日の格好は……可愛すぎて辛い。


 以前の遊園地デートのようにお腹が見えていたりはしないが、そんなものなくても聖ちゃんは可愛いのだ。

 俺と同じような濃い色のジーンズ、やはり聖ちゃんは足が長くて細いのでジーンズとがとても綺麗で似合う。


 ……ショートパンツとか、スカートも履くのだろうか。


 めちゃくちゃ見てみたいけど、見たら俺死ぬかもしれない。

 そこは気をつけないとな。


 上はシンプルな淡い灰色のニット、大きめでふんわり着ている感じが可愛らしい。

 そして首元が少し緩いから、覗き込んだら何か見えてしまうのではと、少しドキドキしてしまう。


 さすがにそれはないとは思うのだけれど。


「聖ちゃん、今日もすごく可愛い、似合ってるよ」


 俺はせいちゃんの耳元あたりで、他の人に聞こえないように小さな声で言った。


「っ! あ、ありがとう……」


 聖ちゃんは頰を赤らめて、口元を手で隠しながらお礼を言った。

 その仕草すら可愛いなぁ。



 そして全員が乗り込み、またリムジンは出発した。

 凛恵は藤瀬と会ってまた緊張していたようだが、少し話してすぐに打ち解けていた。


 藤瀬は誰とでも仲良くなれるような性格だからな、さすがだ。


「というか久村くん、こんなに可愛い妹いたんだね。知らなかったよ」

「か、可愛いって、別にそんな私は……」

「藤瀬には言ってなかったからな。自慢の妹だ、藤瀬には渡さんぞ」

「別に欲しいって言ってないけど、こんな可愛い妹なら欲しいかもー」


 そう言って藤瀬は凛恵に抱きついた。


「あ、あの、その……」


 反応に困っている凛恵は固まってしまっていた。


「詩帆、凛恵が困っているだろう」

「あっ、ごめんね凛恵ちゃん」

「い、いえ、大丈夫です」

「凛恵、詩帆は悪いやつじゃないんだ、ただ可愛い女の子が好きで時々残念な子になるから、許してやってくれ」

「もう聖ちゃん、そんな紹介やめてよー」

「ふふっ……」


 聖ちゃんと藤瀬のやりとりを見て、凛恵が控えめに笑った。


「だけど凛恵さんはとてもいい子だから、私も妹に欲しいわ」

「そうだよね、東條院さん」

「だけどさっき私の妹にならないかって聞いたら、凛恵さんにフラれてしまったのよ」

「何をやってるんだ東條院は……あんまり凛恵を困らせるなよ」


 東條院さんの言葉を聞いて、聖ちゃんが呆れながら言う。


 すると……東條院さんがニヤッとした。

 先程と同様、何か企んでるような顔だ。


「だから私、久村くんが羨ましいって思ってね。ねえ、藤瀬さん」

「そうだね、東條院さん。私も一人っ子だからなぁ。聖ちゃんはお兄さんがいるんだっけ?」

「ああ、そうだな。だけど私も凛恵のような妹が欲しい、とは思うぞ」

「も、もう、聖さんまで……!」


 何やら凛恵ハーレムが巻き起こっている。

 凛恵は顔を真っ赤にしていて恥ずかしそうだ、可愛いな。


 みんな凛恵のことが好きなようだが、凛恵は俺の妹だぞ。


「あら、私は嶋田さんも羨ましいわよ」

「ん? 私の兄のことか?」

「いえ、違うわ。だって――いずれ、凛恵さんが妹になるのでしょう?」

「ん? どういう意味……っ!?」


 聖ちゃんが聞き返そうとした瞬間、その意味に気づいたように顔を真っ赤にした。


 それと同時に、俺も片手で顔を覆って赤くなった顔を隠す。

 くっ……東條院さんは、これを狙っていたのか……!


「何年後になるかわからないけど、最短で一年くらいかしら?」


 俺らは高校二年生で、まだ十七歳。

 聖ちゃんが凛恵を妹に出来るのは、最短でも十八歳……くっ、やばい、俺にもダメージがすごい。


「いいわね、こんな可愛い凛恵さんが妹になるなんて」

「くっ、お、お前……!」


 聖ちゃんは顔を真っ赤にしながら、凛恵と俺の方をチラチラと見てきた。

 やめて、聖ちゃん、さらに意識してしまうから。


 これはなんて作戦だ、東條院さん。

 俺にも聖ちゃんにもダメージを与え、凛恵がいることによって聖ちゃんが否定しづらいようにしている。


 否定してしまったら、凛恵を妹にしたくないという感じなってしまうから。


「ねえ、藤瀬さん。とても羨ましいわよね」

「ふふっ、そうだね! いいなぁ、聖ちゃん」

「し、詩帆まで、何を言って……!」


 そうだよなぁ、藤瀬はこういう時、そっち側に回るよなぁ。

 聖ちゃんは俺の方を見てくるから助けてあげたいが、ここで俺が何か言ったら悪化する予感しかしない。


「凛恵ちゃんも、聖ちゃんがお姉ちゃんになったら嬉しい?」

「し、詩帆、何を聞いて……!」

「……ふふ、そうですね、すごい嬉しいです」


 凛恵、お前もか。

 凛恵ももちろんこの流れがわかっているようだが、あっち側についてしまった。


 さっきまで恥ずかしがっていた凛恵だが、今度は俺と聖ちゃんを恥かしめようとしている。


「だって聖さんはとても優しくて、綺麗で可愛くて、カッコいいですから」

「そ、それはその、素直に嬉しいが……」

「ふふっ、凛恵ちゃん、練習しておいた方がいいんじゃない? ほら、呼び方とか、ね」

「し、詩帆、いい加減に……!」

「……聖、お姉ちゃん」

「っ――!」

「ふふっ、私も少し恥ずかしいです」


 凛恵がそう言って頬を少し赤らめるが、それ以上に顔を真っ赤にしたのは聖ちゃんだ。


 まさか凛恵にトドメを刺されるとは。

 そして凛恵の言い方も可愛い、お姉ちゃんもいいなぁ。


「あら、久村くん。自分の彼女が辱められてて、何も言わないのかしら?」


 こっちにまで飛び火が。

 東條院さんは俺を見逃してはくれないようだ。


 どうすればいいのか、俺には全くわからないんだが。


 もうここから助けるのは無理、というか最後まで恥ずかしめられただろう、これは。


「……勘弁してください」

「あら、何がかしら? 久村くん、凛恵さんもお姉さんが欲しがっているようよ。あと何年後くらいに出来るのかくらい、言ってもいいのでは?」

「ふふっ、私も聞きたいなー、久村くん」

「お兄ちゃん、どうなの?」

「も、もうやめてくれ……!」


 ……その後、東條院さんの家に着くまで、俺と聖ちゃんはいじられ続けた。


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