異世界の鉱物でモノづくりしていたら仲間とお金が集まりました~魔石の力も引き出せるようです~

かるぼな

第1話 始まり

 その場所は池というよりは大きい、湖といった方がいいのだろうか。

 毒々しい魔力が溢れており近寄りがたい雰囲気。

 特殊で強力な魔物の発生源になっており危険であるため、現在は立ち入り禁止になっている場所である。

 そこから少し離れた高台で彼らは少女達を見守っていた。


「いったい、あの子達は何をやろうとしているんだ?」


 男は訝しげに呟いた。

 湖の畔にいる少女の一人が鞄から次々と、ごつごつした鉱石を取り出しては地面に置いていく。


「彼女は鉱物から宝石を作る能力があるのよ」

「宝石を作る能力? そんな能力が役に立つのか?」

「まあ見ていなさいよ。ヒナノ達なら何とかしてくれるはずよ!」

「……」


 少女達の知り合いである女性は男にそう告げた。

 湖の毒と濁った魔力溜まりの浄化を依頼したのだが、関係なさそうな人物がくれば誰でも困惑するだろう。

 宝石を作ってどうにかなるのかと言いたくなるのも当然である。

 

「おい! なんかあの鞄おかしくないか? どう見ても鞄の容量を超えた鉱物が出てきているだろ!」


 鞄からはサイズ的に入るはずもない大きさの塊が次から次に出てくる。

 男の疑問に女は答えた。


「ああ、アイテムバッグですね。あれもヒナノが作った物らしいですよ」

「作った、まさか!? 国の魔導具技術者でもあそこまでの容量の物を作るのは不可能なはずだ!」


 アイテムバックは通常ヒナノと言われる少女が作ったとされる物の、半分の容量が入ればいい方である。

 それをあっさりと超える物を作れてしまう事に彼は驚く。


 ヒナノが鉱物に魔力を通していくと鉱物は形を変え、綺麗に輝く宝石へと変貌する。


「なっ!? 何だあの能力は! しかもあんなに大きな宝石は見た事がない! あれ程の物……一体どれぐらいの価値になるのだ……」

 

 男が驚くのも無理はない。

 男が知ってる宝石より数倍はあるであろう大きさであり、そんな物を一瞬で生み出せる能力など聞いた事がない。


「ガアアアアアアアアアア!」

「危ない!!」


 宝石を作り出していたヒナノへと湖から発生した魔物が襲い掛かろうとしていた、男は思わず声をあげる。

 

ドゴンッ!!


 ヒナノに近づこうとしていた魔物は大きな音と共に、足元にいたであろう小さな影に吹き飛ばされた。


「はあ?」


 男には何があったのか理解できない。

 再度、魔物が襲ってこないところをみると今の一撃で倒してしまったようである。


「な、なんだあれは!」

「あれはヒナノを守る従魔、守護獣ですね」

「バカな! あんなに小さな猫が! そんなに簡単に倒せる相手ではなかったぞ!」


 もし男の騎士団であれば多くの犠牲者を出したであろう、そんな相手である魔物。

 それを苦もなく倒してしまう強力な従魔なんて彼は聞いたことがなかった。


 その間にもヒナノは次々と宝石を作り出しては一つに合成しているようであった。

 最後の宝石を合わせ終わったのか、一つになった宝石からは光と強力な魔力が迸る。


「あ、あの少女は一体何を作ったんだ?」

「ふふ、何かしら。でもこれで解決できるのでしょうね」


 ヒナノは隣にいた別の少女に作った宝石を渡しているようである。

 宝石を渡された獣人の少女もただ者ではない、男はそう感じた。


 受け取った少女は振りかぶると、その宝石を湖へと投げた。


シュゴオオオッ!!


 獣人の少女の手から放たれたそれは凄まじい勢いで進み、偶然発生した湖上の魔物を貫通、吹き飛ばしても尚、勢いが止まらず先へと進む。


「バカな! ミスリル装甲の魔物を貫通するなんて!?」


 彼ら騎士団が、ほんの少し傷をつけるだけで精一杯の防御力を誇る強力な魔物が、宝石を投げただけであっさりと破壊してしまう。

 一体どんな肩と攻撃力をしているのか、男は現実を受け止めきれない。

 

 放たれた宝石は進み、湖の半分ほどで着水。

 それは獣人の少女が狙った場所であった。


 一瞬の静寂。

 

 湖の中央で弾けた音と光が波紋となり周囲へと広がる。

 波紋に触れた魔物達は消滅していき、濁った湖の水は浄化されていく。


 その波紋は湖全体に広がっていく。

 湖は透明度が増して上空からであれば湖底が見えるほど綺麗な状態になった。

  

「どうやら依頼は達成されたみたいですね」

「し、信じられない!?」


 男は何度目かの驚きを口にするのが精一杯だった。


***


 天花寺陽菜乃、29歳。読み方はテンゲイジでもテンゲジでもない。テンカジヒナノだ。珍しい名字なので今まで自分以外で同じ名字の人に出会った事は無い。陽菜乃としては綺麗な名字なので結構気に入っている。


 陽菜乃は名字の珍しさとは違って平均的な人間だった。

 可も不可もない、何をやらせても特に悪くもなく良くもない、よく言えばバランス型、悪く言えば特徴のないありきたりな人間だった。


 容姿も特別優れている訳では無いが、不細工でもなく、普通。


 そこそこの高校、大学を出て、そこそこの会社に就職。

 何かを残してきたかと言えば特にはない。

 虐められたりもしていないし、誰かを虐める事などなかった。


 両親も特に有名人という訳でもなく、ごくごく普通の家庭で育った。

 他に子供がいなかったので愛情を掛けて貰った事には感謝している。


 意外にもそんな普通人間は社会にフィットしたりする。

 宝石会社に就職した陽菜乃は販売営業として日夜業務に励んできた。

 ここでも陽菜乃の普通振りが功を奏したのか毎月安定した売り上げを続ける。

 元々宝石が好きだったというのもあり、浮き沈みなく売り上げに貢献出来たのかもしれない。


 爆発的な売り上げは無かったが、毎月しっかりとノルマを達成するので会社としては計算し易い。

 そんな事を何年も続けていたら安定した仕事ぶりが評価されたようで、エリアマネージャーとして最年少で抜擢される。

 しかしこれが陽菜乃の普通を壊していく。とにかく忙しくなってしまった。

 各店舗の売り上げを管理し、未達成の店舗は改善しなければならない。

 客からのクレーム対策、上司からの要求、部下からの不満等、様々なプレッシャーが陽菜乃を襲った。


 やりがいもあったし、自分なら出来ると信じて業務に励んだ。

 そして睡眠不足とストレスを緩和するために食事の量が増えた。

 運動の時間も取れなかったので、当然太ったし体調がいいとは言えなかった。 

 

 そんな生活を何年も続ければ、体にガタがくるのは必然。ふらつく事は何度もあった。

 その時に医者に行けばよかった、でも時間がなかった。

 いや、めんどくさがっただけかもしれない。当然、身体にしわ寄せが来て限界を迎える。


「ぐうう」


 鈍器で殴られた様な頭の痛み。割れそう、そんな表現が的確かもしれない。

 その場に倒れる。暫くは意識があったと思うが家で良かった、外だったら誰かに迷惑をかけてしまう。

 陽菜乃が最後に考えた事はそんな事だった。

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