第26話 反省ですね

『じゃあ、あの岩に向かって魔法を使ってみるね』

「うん、分かった」


 何故、岩に向かってやるのか疑問に思ったが、まあ何か理由があるのだろう。

 ヒナノはその時、深くは考えなかった。

 レオは大きな岩の前に立つ、ヒナノ達は後方の安全な場所まで下がり距離を取る。

 初めて使う魔法は制御が難しいと言っていたので、もしかしたらという可能性もあるだろう。

 水浸しになるのも嫌なのでヒナノはそうした。


 魔力を高めて魔法を使う準備。


『にゃん!』


 レオはその場でピョンと飛び上がり可愛い声を出す、魔法発動の呪文のようなものなのだろう。


ゴオオオオオ!!


 空気が揺れるような凄まじい熱量の塊が岩に向かう。 

 到達したそれは岩を直撃、溶けてどろどろになった岩が周囲に飛び散り引火する。

 辺り一面、火の海であった!


「ぎゃああ! レオ君何してるのお!!」

「た、大変なのですぅ!!」


 水の魔法の練習をすると言っていたのが、何故か火の魔法を放ったレオ。

 あれほど火の扱いには注意しないとねと話していたのに、この惨状。

 以前よりも確実に強力な威力となった火の魔法が周囲を地獄と化した。


 レオは更に飛び上がると前足を振る。


『にゃん!』


ドッパーン!!


 大量の水が火の海に注ぎ込まれた。

 水は一瞬で全体をおおい、火は勢いを無くす。

 ジュッウウとした音と共に、煙と蒸気があちらこちらに上がる。


『うん、いいかも』


 満足そうな笑顔で戻ってくるレオ、不満な顔で迎えるヒナノ。

  

「何を、何をしたのこの子は!!」


 戻ってきたレオの顔を両手で掴みぎゅうぎゅう引っ張るヒナノ。


『ぐうう、びだい、びだ、痛いよヒナノ! 何するんだよ!?』

「こっちの台詞よレオ君! 何で火の魔法なんて使うのよ! 危うく大火事よ!!」

『だ、だって、消火した方が水の魔法の威力が分かるかなと思って』

「他に確認する方法はあったでしょ!!」

『ええ~、そんなに怒んなくてもいいじゃん』

「いいじゃんじゃないの!」

「危ないですぅ師匠!」

『うぐっ!』


 ヒナノとココに攻められレオはショックを受けているようである。


「罰として師匠は今日のご飯抜きでいいんじゃないですか? 代わりに私が責任を持って食べますですぅ!」

『なっ、何言っているんだバカ弟子! 自分が食べたいだけだろ!』


 ヒナノとしてはそこまでするつもりは考えていなかったが、今後の事を考えると必要なことかもしれない、ヒナノは思案する。


『ヒナノも真剣に受け止めないで。反省してます。以後気を付けます!』


 何だか前世でそんな事を後輩に言われたような気がしたヒナノだが、記憶がはっきりしない部分があるので正確には思い出せない。

 そこら辺は神様が調整したようなので、どういった基準なのかは分からない。

 そんな事を考えていたら言葉を発していなかったので、レオはヒナノが許してくれないぐらい怒っていると勘違いして、ごめんなさいと可愛く反省ポーズを繰り返す。


(あっ、この子自分が可愛いのが分かっているのね)


 それでもあざと可愛い仕草はヒナノも大好物である、つい許してしまう。

 ヒナノも本気で怒っていたわけではない? かなり怒っていたのだが反省してくれてるのならいい。


「レオ君、これからは気を付けてよね」

『うんうん。やる時は事前に言うようにするね』

「うん。分かってくれればいいわ」


 レオはしっかりと反省もできる頭のいい子なのである。


「でも、一回は食事を抜いた方が……ぶへら」


 最後まで言えなかったココはどこかに飛んでいった、飛ばした張本人レオは何も無かったような、すました顔をしている。

 まあ、ココはタフだから大丈夫だろう。

 

 初めから考えると随分と賑やかになったなとヒナノは思うのであった。


 これでレオは雷と火と水の魔法が使えるようになった、そして同時にヒナノも水の力を引き出せる事になった。

 クトゥルーの魔石に魔力を込めれば、変換されて水が出てくる、飲み水としても問題なさそう。

 魔力が有る限り水が出せるので、今後神様のアイテムボックスが消えてしまっても、近くに水源が無くても水の確保ができるということであった。

 10日間でやらなければならないことの一つをクリアしたことになる。


 神様から始めに用意された物はこんな感じであった。


【水10個、パン10個、ナイフ10本、サンプル用のダイヤ10個】

【アイテムボックスは10日後に使用不可能となり他の物は入れられません】 


 今回の魔石で水はクリア、ナイフも自分で作れる。

 ダイヤは他の鉱物があるので、それほど急いではいない。

 金剛石を探せばダイヤモンドも能力で作れると思う。

 そしてパンであるが、他の食料でこれも賄える。


 レオに言えば食料を取ってきてくれるので安心、ココもいるので二人で探してきて貰えれば効率がいい、食事事情は改善されたはず。

 仲間ができたことと能力の上昇で異世界で生きていく為の準備が、ヒナノが思っていたよりも早くできたのであった。

 前世でも、もう少し周りを頼れば過労死なんてことにはならなかったかもしれない。

 そんなことをヒナノは思うのであった。



「そういえば最近レオ君、狩りをして魔石を取っても口の周り汚れないのね」


 以前は口の周りが血だらけだった。


『うん、ヒナノがうるさいから気をつけているよ』


 どうやら以前、ヒナノに口の周りの汚れを川で強引に洗われたのが嫌だったらしい。

 どうやって魔石を綺麗に取ってくるのか聞いてみると。


『ドコンッとやってスパッとしてシュッとしてジャブジャブって感じ?』


 何のこと? だったが纏めるとこんな内容だった。


 まずは魔物をボコボコにする。

 そうしたら爪で切る、岩塩を破壊したあれである。

 魔石が見えたら前足で触ってスライム魔石に収納、この時に周りの血に触れないように注意する。

 水辺に行って魔石を洗ってから収納、なるべく浅瀬で行う。

 水辺から離れて取り出した魔石を上に蹴り上げ水気をとり再び収納、これで完成である。


「い、意外に手間が掛かっているのね」


 近くに水辺がない場合はどうなるのだろうか。

 でも今回でレオは水の魔法が使えるようになったので大丈夫だと思う。


 たまに驚くようなことはするけど、しっかりと考えてヒナノの為に色々とやってくれている。

 ヒナノはレオに感謝するのであった。

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