第25話 クトゥルーの魔石
『あっ、そういえばヒナノにお土産があるんだ』
「さすがレオ君! 何かな?」
頼れる相棒は手ぶらでは帰ってこない。
ココとの戦闘があっても、それは関係なかったようであった。
ヒナノはしゃがんでレオの前に手を差し出す。
レオはヒナノの手に、ちょこんと自分の前足を置く。
(あっ、すっごい可愛いかも! 何だか、お手してるみたいね)
置かれた手は小さくて柔らかくて温か、ずっと触っていたい。
どうやったら、この手でココをあんなに弾き飛ばせたのか謎である。
ヒナノの手に現れたのは、かぼちゃぐらいの大きさの魔石だった。
「お、重っ!」
魔石の塊ともなると重量があるので片手ではきつい、ヒナノは魔石を落とさないように両手を添える。
いつものように【鑑定】が自動で発動。
【クトゥルーの魔石(特異種)】:強力な個体の魔石。水の力を宿している。筋力+1。
ヘルハウンドの魔石に続いて水の力を宿した魔石を手に入れることができた。
「さすがレオ君、ありがとう!」
『へへ、どういたしまして』
「えっ、えっ、そんな大きな物が突然現れるなんて、もしかしてアイテムボックスって奴ですか!?」
ココは急に目の前に出現した魔石に興味を示す。
アイテムボックスを知っているということは、どうやらこの世界には存在しているようである。
「そうよ。名前は違うけれど物が収納できるアイテムよ」
『ヒナノに作って貰ったんだ。いいだろ!』
「ヒ、ヒナノさんが作ったんですか!?」
大人げない感じでレオは首輪をココに見せた。
年齢100歳を感じさせない子供っぷり、そこもレオの魅力の一つであろうとヒナノは信じている。
スライムの魔石から作ったのでスライム魔石とヒナノは読んでいるのだが、いい呼び方があれば変えてもいいとも思っている。
「うん。今度ココにも作りましょうか?」
「ぜひ、ぜひお願いしますですぅ!! 私がいた村では長老とか一部の獣人しか持っていなかったんですよ。憧れですぅ!」
アイテムボックスは貴重なアイテムらしいことがココの話から分かる。
重い荷物を運びながら旅をするのはきつい。
それが手ぶらで可能となるのだから、それなりに高級なアイテムなのは当たり前なのかもしれない。
「分かったわ。作ってみるね」
「お願いしますですぅ!!」
ヒナノの能力もかなり上がってきているので、材料さえあれば簡単に作れてしまうだろう。
どんなタイプの物を作ろうかヒナノは考えようと思ったが、その前にやらなければならないことがあった。
レオから熱い眼差しを先程から感じている、それは勿論あれである。
「はい、どうぞ」
『ありがとう』
ヒナノは【クトゥルーの魔石(特異種)】を少し千切ってレオに渡す。
口にしたレオは満足そうであった。
「な、何で魔石がそんなに簡単に千切れるんですか!? ヒナノさん怪力なんですね! さすがは強い師匠の主様!! しかもそれ凄く美味しそうに見えるですぅ!!」
一気に、まくし立てる興奮状態のココ。
「ココも食べてみる?」
「食べます、食べます。くださいですぅ!!」
同じようにヒナノは魔石を千切ってココに渡す。
「はい、どうぞ」
「ぐはっ! 美味しい! 美味しいですぅ!」
瞳がキラキラしている、レオに劣らず可愛い仕草。
『ふっ、甘いなバカ弟子。ヒナノの実力はこんなものじゃないといったはず』
「ま、まさか。まだ何かあるのですか!」
二人分の熱い視線がヒナノに降り注ぐ、期待している目である。
分かっていますともとヒナノは追加で指で千切った魔石に魔力を込める、それを二つ。
「な、なっ!」
言葉にならない声と涎がココの口から流れ出す。
「ちょ、ちょっとココ汚いわよ! 女の子なんだから気を付けなさい」
「だってだってヒナノさん。何ですかその神々しい物は! 誰だって見たらこうなりますよ!?」
ココの容姿は頭の上にある耳とふわふわの尻尾が可愛いが、それを抜きにしても整った顔立ちの美少女である。
そんな子が人前で涎をたらすなんてと、ヒナノのお姉さん心に火がついてしまい、つい注意をしてしまった。
「ちょっ、レオ君も涎、出てるよ!」
『いいから早く食べさせてよ!』
「そうです、そうですぅ!」
貪欲な二人の石食い達、我慢の限界のようである。
「もう、仕方がないな。はい、どうぞ」
『「ありがとう!」』
一気に魔石を口に頬張る二人。
『「!?」』
一瞬の静寂の後、二人が魔石の美味しさに悶絶したのは言うまでもない。
食べ終わった後しばらくしてから二人は言う。
「やばいです、やばいですぅ。体が震える旨さでしたですぅ!?」
『たしかに、やばいな。それに関しては僕も同じ意見だよ!』
ココとレオがそんなことを話していたが、「ぐおおおっ!」とか「ぬおおおっ!」と食べた時に言っていたのでヒナノに気持ちは伝わっている。
誰が見ても美味しかったというのを体で表現していた。
自分が作った物をこんなに喜んでくれるなんて嬉しいものである。
『ねえ、ヒナノ。またスキルが増えたみたいだよ』
少しして落ち着いた後、唐突にレオは言った。
「やっぱり! 水属性のスキルってことよね?」
『そうそう、クルトゥーの魔石だからかな』
倒した魔物が持っている魔石で属性は決まるようで今回は水属性のようである。
食べただけでスキルが増えるなんて凄いことだ。
「ふぇ、スキルが増えるってどういうことなのですぅ?」
「ええ、まあそのままの意味なんだけど、レオ君は魔石を食べるとその内包する力を引き出せるみたいなのよ」
どんなチート能力なのよ、と言いたい。
「す、凄すぎます! 師匠! 最強じゃないですか!!」
どんどん使える能力が増えていくなんてデタラメな話だ、反則もいいところである。
真面目に修練を積んでスキルを身に着けている人達に謝って欲しいレベル。
「ココはどうなの? 同じ物を食べたしスキルを覚えた感じはあるの?」
「うーん、覚えてないみたいですぅ」
「そっか。レオ君が特別ってことなのかな?」
ヒナノが作った特殊な魔石で能力を得られるのは、今のところレオだけのようである。
「でも体がポカポカしたですぅ」
「えっ、そうなんだ。じゃあ筋力が上がったかもしれないわね」
クトゥルーの魔石には筋力+1の効果が付いていた。
それによりパワーアップした可能性があることをココに伝えると、しきりに関心していて「凄いですぅ!」を連発。
食べるだけてパワーアップできるなんて信じられないのかもしれない。
『試しに水の魔法使ってみようか?』
「そ、そうね。気を付けて練習してみようか」
以前の火属性の魔法の件で火事騒ぎを思いだしヒナノは慎重な意見を言ってみる。
まあ、水の魔法なので火事の心配はないので大丈夫なはず。
ヒナノの心は何故かざわついたのであった。
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