第27話 風のスティック
仲間が増えたことでヒナノの一日の流れができてきた。
まずは城に向かい歩を進め、ある程度行ったらレオとココは食料の確保、魔物狩りと訓練。
レオの方がココより強いとはいえ、ココの方が体は大きい。
どうやって訓練しているのか不思議であるが、そこはレオのパワー、スピードがあれば関係ないようである。
逆に体の小ささで攻撃が当たりにくく、繰り出される攻撃は重い。
相手からしたら、これ程やり難い敵もいないだろう。
レオを師匠として選んだのは間違っていないかもしれない。
ヒナノには分からないが、ココには得る物があるのだろう。
そんな二人とは別にヒナノは鉱物を探したり、料理、ものづくりをしている。
勿論、鉄を変形させての能力向上も怠らない。
地味であるが、どんどんと硬い鉄が柔らかくなっていく感じが何とも言えず、時間があればヒナノはこの作業を繰り返した。
常習性があるようである。
レオとココのコンビは色々な魔石を持って帰って来てくれる。
それはたくさんの種類があり、中には貴重な物もあった。
【スライムの魔石(銀)】:魔法収納可能。防御+2
【スライムの魔石(金)】:収納可能(時間停止)。防御+3
【アラクネの魔石(特異種)】:強力な個体の魔石。糸の力を宿している。
【シームルグの魔石(特異種)】:強力な個体の魔石。風の力を宿している。速度+1。
「良いのがあるわね」
これだけあれば今までできなかった物が作れる、嬉しい限りである。
ヒナノも能力で鉱物を色々と見つけた。
アルミ、銅、鉛、亜鉛、チタン等、能力で取り出してスライム魔石に保管済みである。
【スライムの魔石(銀)】:魔法収納可能。防御+2
銀のスライムから取った魔石である。
魔法収納可能というのが、意味が分からない。
いや、大体分かるがそんなことが可能なのだろうか?
例えば火の魔法を保管できたりなんて想像が付かない、魔石ごと燃えてしまうのではないかと普通は思ってしまう。
実際にやってみて検証するしかない。
【スライムの魔石(金)】:収納可能(時間停止)。防御+3
これは一番欲しかった機能といっても過言ではない。
時間停止機能付きの収納が作れるはず。
食材の痛みが防げるので長期保存ができる、肉や魚も取れ立ての状態を維持できるのはありがたい。
【アラクネの魔石(特異種)】:強力な個体の魔石。糸の力を宿している。
糸の力というのだから糸が作れるのだろう。
糸を使った製品を作るとかできるかもしれない。
【シームルグの魔石(特異種)】:強力な個体の魔石。風の力を宿している。速度+1。
火と水に続き風の力の魔石である。
風の力が扱えるとなると色々なことができそう、何から作っていいのか悩んでしまう。
特異種の二つは希少ではあるものの、大きさがあるので複数回に分けて使う事ができる。
対してスライムの魔石(金)と(銀)も希少であり大きさも小さいので、そのまま使うしかない。
一回きりということであり、二つは作れないだろう。
ヒナノは(金)と(銀)のスライムの魔石を自分で持つかレオにするかで悩む。
結果、時間停止の(金)はレオの首輪に、魔法収納の(銀)はヒナノの指輪に付けることにした。
狩をしてくるレオには新鮮なまま保管できるのでいいだろう。
逆に魔法収納は自分で魔法を使えるレオにはそれ程必要が無いので、ヒナノは自分で持つことにした。
レオ曰く、二匹ともかなりレアなスライムらしいので、今後見かけた時は必ず取ってくると言っている。
二人が出かけている間にヒナノは道具を作ることにした。
前から作りたかったものであり必要な物。
色々と作りたい物があった中でこれを選んだのは、単なる直感である。
まずは軽い金属であるアルミを選択、鉄より柔らかく扱いやすい。
【変形】で伸ばして持ちやすい長さと太さにする、大体割り箸ぐらいの大きさだろうか。
先端部に小さく千切ったシームルグの魔石を【合成】で接着する。
アルミの棒に丸い魔石が付いた物が完成。
試しに手元のアルミ部分から魔力を通して先端の魔石へと送り込む。
魔石の周りを風が回っているようである。
その状態で下に落ちていた石に近づけてみると、表面がガリガリと削れた。
「威力が強すぎるわね……」
ヒナノがイメージしていたものより威力が強かったようである。
先端の魔石を半分以下に小さくして再度挑戦。
今度は石に近づけても削れることもなく、風が当たっているだけのようだ。
(これぐらいかな)
風量は決まったようで次はヘルハウンドの魔石、クトゥルーの魔石を小さく千切って先端から順番に取り付ける。
先端から風、炎、水の魔石が取り付けられた。
ここからの微調整がなかなか難しかった、水量と温度、風とのバランスにかなり時間が掛かった。
『ヒナノ真剣だね』
「何を作っているのですぅ?」
『さあ、僕たちの食べ物じゃなさそうだけど……』
二人が帰ってきても作業は続いていた。
レオとココも不思議そうな顔をしてヒナノを見ている。
ヒナノは、あーでもないこーでもないと奮闘して何とか納得できる物を作り上げることに成功した。
適温に調整された温水が風の力で先端部を回っている。
指で両側から挟むと柔らかく温かいものでマッサージされているようで気持ちがいい。
後は持ち手の部分を持ちやすい形状で滑りにくい形に変形させる。
最後に香り鉱石であるミント石を水の魔石の隣に取り付けた。
「完成ね!?」
結構な時間が経っていたのだが、ヒナノにはそんな感じはしなかった。
実際には二時間近く経っており、とても集中していたようである。
手元から魔力を通すとミント石から出た香り成分が温水となり風で舞う。
ヒナノはそれを口に入れる、そう歯ブラシである。
電動歯ブラシならぬ魔導歯ブラシといえばいいだろうか。
しかも当たる場所は下の歯だけでなく、上の歯も同時に磨ける優れもの。
温水は口の中に飛び散ることなく風が拾ってくれる。
汚れを取るのは勿論のこと、歯茎のマッサージ効果付き。
そのまま口から出して魔力を切れば、汚れた水を捨てられるので便利。
口の中もミントの香りで爽やか、完璧である。
もし岩も削れる初めの風量で作っていたら、歯ごとむしり取られ歯茎はズタズタになっていただろう。
ヒナノ曰く、そこら辺の調整が難しかったらしい。
更に、過剰に魔力供給された場合、自動で排出される機構が組み込まれているのだが、それに関しては企業秘密らしくヒナノの口から語られる事は無かった。
「これ売れるんじゃないかしら。うん、絶対売れるよね!」
自画自賛のヒナノなのであった。
魔力があるこの世界であるからこその製品であるが、納得できる物が完成したようである。
ヒナノは異世界に来てから歯ブラシをどうしても欲しいと思っていた。
今回はそれが達成できたので満足である。
『それ、美味しそうだね』
「美味しそうですぅ!」
「レオ君とココにはそう見えるんだね」
【石食い】とは実は厄介な存在かもしれない。
ヒナノの魔力と相性が良すぎるからか、作ったものが全て美味しそうに見えるのは問題だろう。
食べるのを我慢して貰うのも可愛そうだし、どうすれば食欲のわかない製品が作れるのか今後対策が必要である。
まだまだ作りたいものがあるので、どんどんアイデアを形にしたい、ヒナノはそう思うのであった。
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