第71話 望遠鏡と魚の魔物
水面から出ている浮きの先端にヒナノは光石を付けておいた。
光っているので遠目で見ても多少は見やすいはずである。
「ココ、あの光っている浮きが見える?」
「は、はい。大丈夫ですぅ!」
ヒナノが見ても辛うじて見えるという距離なのであるが、ココには問題ないようであった。
やっぱりココは目もいいようである。
「じゃあ、あの光っている物が水に沈み混んだら引っ張ってね」
「りょ、了解ですぅ!」
そこら辺は釣りをやったことがあると言っていたので大丈夫だろう。
只、上から見ていたら水辺に浮かんでいる浮きは光の点、もう少し拡大して見たいものである。
浮きが沈む瞬間を見るのがヒナノは好きだった。
そんな記憶が、おぼろげながらヒナノの中に残っていたようである。
ということでヒナノは拡大鏡、望遠鏡的な物を作製することにした。
床がガラスで出来ているので、それを利用するらしい。
まずは反対側が綺麗に見えるまでガラスの表面の凹凸を極力減らしてつるつるにする。
ここら辺は【変形】と【光沢】でおこなう。
綺麗になったガラスを湾曲させて凸のレンズを作り、床から切り離す。
更に後でレンズの大きさを変えたりできるよう微調整用に、周りに加工していないガラスを少し付けておく。
それを床より下に移動させて空中で待機させる。
そして新たにガラスをスライム魔石から取り出して同じレンズをヒナノは作っていく。
『ヒナノ、また見たことない物を作るんだね』
今まで作ったことがない物だからか、レオが興味深そうな目でヒナノの手元を見てそんなことを言う。
「ふふ、そうね。食べ物じゃないけれど良い物よ」
ヒナノが作った物であれば魔力が宿りレオは食べられるだろうが、あえて食べ物でないことをヒナノは強調しておく。
穴が空いた床に今作ったもう一つのレンズを嵌め込む、準備はできたようである。
「焦点が上手く合わないわね……」
二つのレンズを使って水の上に浮かんでいる浮きを拡大しようとしているのであるが、調整が意外に難しい。
ここからは試行錯誤であった。
湖面に近い方のレンズの大きさや出っ張り具合を変えながら、床に設置したレンズで確認する。
「うー、うん、こんなものかな」
何とか焦点が合ったものができたようである。
『へぇ~、また変なもの作ったね。これで水面が大きく見えるんだ!」
ヒナノの隣に来たレオは拡大された湖面に感心しているようである。
ココは釣竿を持っているので手を離せないが、興味があるのか短いフサフサした耳がピクピクしている、何だか可愛らしい。
あとでココにも見せてあげよう。
「あっ!!」
その時、物凄い勢いで光った浮きが水の中に引き込まれた。
――ズザザザッ!!
同時にココは足で踏ん張るが釣竿ごと引っ張られ床が鳴る。
どうやら魚が掛かったようであった。
ココはガラスの縁で何とか止まるが、ガラスの床と柵は衝撃でヒビが入っていく、このままではガラスが砕け散ってしまう。
「あっ、危ない!?」
ヒナノは急いで床と柵をを鉄で補強する、鉄鉱石をたくさん持っていて良かった。
それを足場にココは踏ん張り釣竿を両手で引く、しなった竿は折れそうなぐらいに曲がり糸はピンと張っていて今にも切れそうである。
厚めに作った鉄の補強板であったが、ギギギッと凹み軋しんでいく。
凄まじい負荷が掛かっているようであった。
「ど、どれだけの大物よ!?」
「ぐぬううううですぅううう!!」
ヒナノは声を上げ、ココは釣竿を握りしめて踏ん張り、口からは声が漏れる。
圧倒的なパワーであり、まともな引きではない、超大物であることは間違いない。
「ぜ、絶対、釣り上げるですぅうう!!」
『よし! ココ踏ん張れ!!』
実際に釣っているココは勿論、レオもやる気であった。
ヒナノとしても負けたくない気持ちはある、絶対に釣り上げて欲しい。
「釣竿と糸を強化するわね!」
ヒナノはココのサポートに回り、道具が壊れないように調整する。
張って今にも切れそうな糸には【アラクネの魔石】から糸を複数出して撚るようにして巻き付け、釣竿には細い鋼で補強。
太くなり簡単には折れないだろう。
足場の悪い空中でココは左右、上下に揺さぶられるが何とか堪えている。
普通の人間なら体ごと持っていかれるか、釣竿を離してしまう程の衝撃。
『魔法でも打ち込んでみる?』
「そ、それは駄目じゃない」
レオは提案するがこれはココと魚、いやヒナノ達と魚の釣るか釣られるかの戦いである。
純粋な釣り勝負としてヒナノは攻撃魔法の使用は、いけない気がしてるようであった。
「うわあああ! な、なんですぅうう!?」
釣竿が急に軽くなった為にココはバランスを崩す。
水面から飛び出した巨大な魚がヒナノ達に、ガラスの床に向かい突進してくるのが見えた。
「ま、不味いわ! レオ君!!」
ヒナノは柵の外に鉄鉱石を投げる、平らに変形させて空中に斜めに固定。
レオはヒナノの意図したことを感じ取り、柵から飛び出す。
ヒナノが作った鉄の板を足場にレオはガラスの床の下に潜り込んだ。
『うらああっ!!』
普段は聞かないようなレオのイケメンボイス(念話)が辺りに響く。
――ドゴオオン!!
世界一凶悪な猫パンチであった。
凄まじい音とスピードで魚は水面に叩きつけられ水中に消える。
水しぶきが高々と上がった。
空中に投げ出されたレオは拡大鏡用のレンズを足場に真上にジャンプ、戻る方法も察する辺りは流石である。
ヒナノ達の頭上を遥かに超えてから、空中でくるくると回りながら落ちて来た。
「あっ、レオ君、捻りもいれてるわ」
ヒナノとココが以前にやっていた技に対抗したのか、難易度高めの回転でレオはヒナノに向かい降りてくる。
ヒナノが両方の手のひらを迎えるように上に向けると、空中で小さくなったレオは音もなく着地する、不思議と衝撃も無い、完璧な着地であった。
ココが持っている釣竿は再度勢いを取り戻して動き回る。
どうやらレオの一撃をくらっても魚はピンピンしているようであった。
『あいつ、魔物だったよ』
「そうなのね」
釣りの相手は魚の魔物、しかもココのようなタフさの相手であった。
「絶対に釣りあげるですぅううう!」
ココが言ったセリフはヒナノ達の総意であった。
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