第29話 風呂作り

 レオもココも風呂には入らなかったらしい。

 ココの村では水で濡らした布で体を拭いたり、水浴びしたりで体の汚れを落としていたようである。

 住んでいた場所が温かい地域だったからなのか、それが普通だったとのこと。


 水嫌いのレオもどうしても匂いが気になる時は仕方がなく川に洗いに行ったとか。

 それ以外は『ふんっ!』とやって汚れを飛ばしていたらしい。


「どういうこと?」


 とヒナノが聞いてみるとレオが実践してくれた。

 掛け声と共にレオの体から魔力が急速に放出されると、体の汚れは綺麗になる。

 まあ、周りに汚れが飛び散ったようであるが。


「へえ~、便利ね」


 匂いはともかく汚れは取れるのでヒナノも参考にしたいと思った。

 忙しい時には便利だろう、でも洋服がビリビリに破れるとかあるかもしれない。

 レオは服を着ていないのでその心配は無いからやっているのだろうが、人間向きではないかもしれない、今度実験してみたいと思う。

 

 レオの技も便利そうであるが、風呂は作りたい。

 風呂の良さを二人にも分かって欲しいとヒナノは作製に入る。 


 ヒナノが風呂作りをしている間、食べたいものがあったのでレオとココには食材を集めて貰うことにした。

 

「じゃあ、よろしくね二人とも。気を付けて行ってきてね」

『はーい』

「はいです。行ってきますですぅ!」


 二人は元気に出発、しなやかで軽快な動きで先を歩くレオ、ふわふわな尻尾を左右にフリフリさせてついていくココ。

 子猫の後を、大きな犬がついていくような感じがおかしくて、ヒナノはつい微笑んでしまう。

 猫と犬を同時に飼っているような、前世ではできなかったことが異世界で叶ってしまった、不思議である。


 ヒナノも風呂作製の準備に取りかかることにした。

 タイプは露天風呂になるのだろうが、ヒナノの能力をもってすれば問題なくできそうである。

 レオ達が取ってきてくれた魔石もあるので魔力があれば、お湯は問題ないはず。

 川から水を汲んできてもいいのだが、せっかく魔力がある世界なので自動でお湯が出る機能は作りたい。

 自分が持っている魔力でみんなが入れる湯量が賄えるのかは分からないので、実際にやってみるしかない、足りなかったらその時に考えればいいだろう。


 完成のイメージとしては岩をくり貫いた岩風呂で持ち運び可能なタイプ。

 スライム魔石に入る大きさが条件となるのだが、何回もダイヤで魔石を強化しているので容量不足で入らないということにはならないはず。

 

 とりあえず手頃な大きさの岩を探すが、いい物は見当たらない。

 やっぱり能力で切り出すしかないだろう。

 大きな岩山から能力で必要分を移動させる。


「ふっ!」


 ぬるっと岩から柔らかくなった石が移動して、溶けた滴が下に丸く集まるような感じにヒナノが指定した位置に石の塊ができていく。

 この工程も以前から比べれば段違いに早くなっており、ヒナノの能力が向上しているのは明らかである。

 次に固まって丸くなった石を平らにしていくのだが、この時点で石は固い。

 能力で取り出しただけなので、ここでやめれば岩山に丸い石が不自然にあるだけで、他人が見たらどうやったらこんな丸い石ができるのか不思議に思うだろう。


 柔らかく見えた石もヒナノが能力を解除すれば普通の石に戻るということである。

 

 丸く集まった石を平らにして外形を長方形にする。

 高さはヒナノの腰の部分ぐらいだろうか、またいで入りやすい高さ。

 そこから凹ませて湯船を作るのだが、お湯の中に浸かって肩まで入るぐらいの深さにする。


 【ヘルハウンド】(火)と【クトゥルー】(水)の魔石でお湯を作る訳だが、湯舟の上部に付けてお湯が流れ落ちるようにした。

 この時、少しずつ温度調整ができるように、それぞれの魔石に入る魔力量を変更できる機構を組み込んだ。

 言うのは簡単であるが、やってみると難しく時間がかかってしまう。

 しかも今が何度であるか分からないので、ヒナノが手で触れた感覚でお湯の温度を決めた。

 

 お湯が冷めてしまったら温め直したいので、追い焚き機能も付けた。

 これは意外に簡単であった。

 【ヘルハウンド】の魔石を湯舟の中の4か所に組み込み、肌に直接当たらないようにしておけばいい。

 魔力供給は湯舟自体の石から送り込むようにした。

 

 温泉的な効果もプラスしたいのでミネラル分がある鉱石を取り付けていく。

 実は鉱石の中には人体に害の有る物もある。

 しかしヒナノの能力である【鉱物使いSS】はそこら辺の有害物質をカットして、人体に良い物だけを抽出することができた。

 それはヒナノが知らないことであり、適当に選んだ石も浄化されている。

 鉱物に関しては意外に凄い能力なのであった。


 更にヒナノは変な石を発見したので、それも取り付けることにする。


【魔泡石】:二酸化炭素の泡が発生する石


 ポコポコと小さな気泡が浮かんできていいアクセントになる。

 気持ちいいのではないだろうか。


 お湯が排出される部分の、ろ過装置なるものも作ってみた。

 再度、循環させてお湯を使ってもいいし、自然にかえす場合にも綺麗な方がいいだろうという事で取り付けた。


 最後に香り鉱石を複数取り付けて完成。

 癒しの香りを、その時の気分で選べる。


「うん、こんなものかな!」


 ヒナノが作った初めての人工天然温泉である。

 人工の天然で矛盾ではあるがヒナノとしてはそこら辺はどうでも良かった。

 これだけの物を作り上げた達成感でいっぱいである。


 この温泉は鑑定することができた。

 どうやらこれらすべてが一つの鉱物として認定されたようである。


【ヒナノの温泉】

 ミネラル成分多数有、マイナスイオン効果、遠赤外線効果、炭酸泉。

 美肌、高血圧症、動脈硬化、切り傷、火傷、月経障害、慢性皮膚病、糖尿病等に効果あり。

 お湯が柔らかく優しい、茶色。


「完全に温泉ね。ベースは出来上がったわ。後は……」


 周りが寂しいので岩風呂らしくデコレーションしていく。

 風呂づくりは長時間、続いたのであった。

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