第7話 強者レオ

 レオと契約したのはいいとしてヒナノは思う。

 ダイヤの供給期限は10日間しかないので、他に石を作る為の手段を考えなければならない。

 もし契約不履行だとどうなるのだろうか。

 そこら辺の事をヒナノはレオに聞いてみたのだが。


『特にはペナルティはないかな。契約破棄になるだけで僕の庇護から外れるだけだね』

「そうすると魔物に襲われるってこと?」

『そうそう。食べられちゃうね』

「そ、そう。怖いのね」


 結構大変なことであるがヒナノとしては契約を破棄するつもりはないし、作った石で喜んでくれるならどんどん魔力を込めていきたいと考えている。

 勿論、自分の食料、寝床等、確保しなければならない。

 能力も解明したいしレベルアップも必要だろう。

 まあ、10日間もあるのでなんとかなると前向きに考えるようにヒナノは自分に言い聞かせる。


『人間が食べれる物は分かるから僕がヒナノの食べ物を取ってくるね』

「そうなんだ、じゃあよろしく。私は石に魔力を込めておくね」

『うん了解!』

「ところでレオ君がいない間、私はどうやって自分を守ればいいのかな?」


 レオがいなければ死ぬと言われているので、ヒナノが不安に思うのも当然である。


『それなんだけどヒナノの周りに結界を張っておくよ。これでこの辺の魔物なら大丈夫なはずだよ』

「そうなんだ、ありがとう。じゃあ後でね」


 結界というのを信じるしかないが、ヒナノは魔物を見たことがないので実感はない、安全というならばやれることをやろう。


(レオ君も魔物なんだよね?)


 石を食べるし念話もできるのだから普通の猫ではないだろう。

 まあ補って余りある可愛さがあるので、レオが魔物だろうがヒナノとしては全く問題ない。


 ヒナノは【知覚】により鉱石を探す。

 あちらこちらに反応して発見できるが大きさが大きい。

 削り取る道具といえば今のところ神様から貰ったナイフしかない。


 岩に歯を立て振りかぶり振り下ろすもキンッとした音と共にナイフは弾かれる。

 折れはしなかったが通常のナイフで岩をどうにかしようなど無理な話であり、どうにもならない。

 ならばとヒナノは、ここはやはり能力の使用するしかないだろうと気持ちを切り替える。


(【移動】とか【変形】、【分解】あたりかな?)


 とりあえず手頃な石ころを拾い能力を使用してみる。

 手の上で【移動】を行えば石はズズズと少し横へスライド、【変形】を使えば少し形が変わった、そんな程度である。


「まだまだ弱いわね!」


 しょぼいって言う表現が妥当なのか、ヒナノがイメージしたものとはかけ離れている。

 もっとこう地面から手に移動したり素早く変形したりそんな感じを思い描いていた。

 これでは何もできないのと一緒である。

 レベルがFなので仕方がないのだろうか。

 まあ【鑑定】もEになれたので、これからの成長に期待しようと思う。

 

 ヒナノは【分解】も使用してみる。

 石の表面が削れて粉が表面に浮かぶ。

 上面が少し分解されたということなのだろうか。


「どんどん使っていくしかないわね」


 能力が成長するまではレオのご飯は神様から貰ったダイヤを使うしかないだろうとヒナノは思う。

 

『戻ったよ~』


 どちゃっと獣の死骸が置かれた。

 ほぼウサギの容姿をしているが、体は前世のウサギよりかなり大きく、額には角がある。

 明らかにレオより体が大きく、それをレオはここまでどうやって運んで来たのか不思議に思ったがヒナノは違うことに気を取られた。


「レ、レオ君、口の周りが真っ赤だよ!?」

『ん? ああ、怪我はしてないよ』


 狩りをした時に付いたのだろう、口や顔周りは血で染まっている。

 ヒナノはレオを背中から抱き上げ急いで川に向かう。


(たしか近くに川があったはず)

『ちょ、ちょっと!』


 ヒナノの予想通り川はあった。

 主流は川の流れが早いのでレオを洗うに最適であろう穏やかな流れのところを探した。

 レオは顔に水がかかるのを嫌がったが、ヒナノはざぶざぶとレオが綺麗になるまで洗い続けた。

 

「うん、綺麗になったね!」


 レオはびしゃびしゃである。

 ブルブルと体を振り水を飛ばしながらレオは言う。


『うーーー! ひどい目にあったよ!』

「ちょ、ちょっとレオ君冷たい」


 ヒナノに水滴が飛んでくる。

 レオはヒナノより強いと言っているのだから、本気で嫌がればヒナノを振りほどけたはずだが、続けさせたのはヒナノを思ってのことだろう。

 レオはいい子なのである。


「レオ君が血だらけだったんだから仕方がないじゃない」

『狩りをすれば普通のことだよ』

「じゃあ毎回洗わないとね」

『えー、じゃあ血が付かないようにするよ』

「そんなことできるの?」


 水が苦手なのか川からレオが取ってきた獲物の場所に戻る間、二人はそんな話をしていた。


「あっ!?」


 戻ってくると巨大な猪が角ありウサギを食べている。

 どうやら猪はこちらに気がついたようでヒナノは目が合った気がした。


(猪って雑食だったっけ?)

  

 食事の邪魔をされたせいか怒りの形相でこちらを睨んでいる。

 いや、そのウサギはレオ君が獲ってきた物だし、なんて理屈は通じるはずもない。

 ザッザッと後ろ足で砂をかく大猪、助走を付けてこちらに向かってきた。

 巨体が猛スピードで突進してくる様は恐ろしいものがある。


 その時レオがすっとヒナノの前に出た。

 

(危ない!)


 とヒナノが思った瞬間、レオは猪に向かい走り出す。


(あっ!)


 トラックに向かって走り出す子猫を想像してしまうほど体格差は歴然であり、ヒナノには空中に飛ばされてしまうレオの姿が見えた気がした。


 しかし実際には違ったようである。

 真っ直ぐに飛び出していったレオが大猪と交わった時、猪は凄まじいスピードで遠ざかっていく。


ドガッ! バギッ! ゴロゴロゴロ……。


 レオに弾き飛ばされたのである。

 大猪は数本の木を巻き込みなぎ倒し、地面を削り取り、そしてゴロゴロと転がっていった。

 ありえない光景にヒナノは驚く。


「レ、レオ君、大丈夫なの!?」

『まあね。これぐらいなら楽勝だよ』

「す、凄いんだね!?」


 どうりでレオといると獣や魔物に会わないはずである。

 皆、強者であるレオを避けていたのであろう。

 今回の大猪はレオが離れたので角ありウサギの死骸のところまで来てしまっただけで、本来なら強者の気配がする場所になど近づかなかったはず。

 只、一度口にした獲物を諦めて逃げることは本能的に無理だったようである。


(食い意地に負けたのね)


 普段は大人しい知り合いの犬が、一度与えた餌を取ろうとすると怒ったのを思い出しヒナノはそんなことを思う。

 レオの強さには驚いたが味方であるなら、これ程心強いものはない。

 ヒナノをつついただけで倒せると言っていたのも納得である。

 見た目は可愛くてしかも強いなんて最高じゃないのと、ヒナノはレオと契約して良かったと心から思う。

 

 大猪の元に向かうと、どうやらレオの一撃で絶命しているようで動かなかった。

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